ダラスを本拠とする世界最大の事業用不動産サービス会社、シービーアールイー株式会社(CBRE)。今回は、同社が発表したレポート「ジャパンリテールマーケットビュー 2022年第2四半期」から、東京の主要5大一等地(銀座・表参道・原宿・新宿・渋谷)の貸店舗市場動向をみていきます。

2022年第2四半期の全国的な経済動向

2022年4-6月の全国百貨店売上高は、対前年同期比26.1%増となった。前年の緊急事態宣言などによる営業制限の反動があったほか、外出機会の増加に伴う消費マインドの回復によって売り上げが伸びた。富裕層を中心に高額消費が活況だったほか、6月は夏物衣料やUVケア商品の売り上げが好調だった。

一方、2022年6月の消費者態度指数は、対前月比2.0ポイントマイナスの32.1と3ヵ月振りに悪化。生活必需品の値上げが相次いだほか、今後も物価上昇が続くと見込む消費者が多かったことが、指数の低下につながった。

銀座の貸店舗市場動向

■ハイストリート賃料は、2022年第4四半期に0.6%上昇すると予測

今期(Q2)ハイストリート空室率は、対前期比1.4ポイント低下の3.1%となった。比較的面積が大きい募集物件でテナントが決まった一方、新たな空室は限定的だった。

銀座ハイストリート賃料は、3期連続横ばいの24.15万円となった。今後、賃料は2022年Q3にかけて今期の水準で底這いし、2022年Q4には0.6%上昇すると予測する。ハイストリートの募集物件では、前期に比べてリテーラーからの引き合いは増えている。一方、出店の条件交渉などでテナントの内定にはやや時間を要している。

そのため、従前は2022年Q3から上昇に転じるとしていた銀座ハイストリート賃料予測を、一期遅れてQ4からの上昇に見直した。向こう2年間では今期に対して3.1%上昇し、コロナ前の2019年Q4に比べて3.5%減の水準まで回復すると予測する。

ハイストリートの中央通りにある新規開発物件では、複数のラグジュアリーブランドから引き合いがみられた。ただし、募集条件とおりの複数階で検討するブランドは限定的。1階路面区画の1層のみ、または2層までというリテーラーが多い。賃料水準は、相場を超えるものもある。

同じく中央通りにある募集物件では、リユースの旗艦店舗の出店が内定した事例があった。成約賃料は、募集賃料をやや下回ったものの、相場並みの水準。ハイストリートみゆき通りでも、移転ニーズがあったリユースの出店が内定した。

一方、比較的面積が大きい複数の募集物件や、募集賃料が現在の相場を超えている物件では、引き合いの弱いところがある。コロナ禍前に契約をした既存テナントと同程度の賃料を希望する物件オーナーに対して、リテーラーが希望する賃料水準は低い。

銀座エリアに路面店舗がない複数の海外ブランドが、出店機会を探している。ラグジュアリーブランドのほか、ジュエリーやアウトドア・スポーツ、ファッションブランドが含まれる。なかには、インバウンド観光客が戻る前に出店立地を押さえたい、というところもある。また、立ち退きによる移転先を探しているリテーラーも複数みられている。

セカンダリーエリアの物件に、コロナ禍前から入居している既存テナントのあいだでは、複数階の店舗のうち上層階を返すという動きが複数ある。なかには、物件オーナーとの再契約交渉が折り合わず、退去を検討するテナントもみられている。セカンダリーエリアにある募集物件のなかには、フロア効率が低く引き合いが弱いところがある。また、出店を検討する候補リテーラーは複数いるものの、交渉が遅滞しているところもみられる。

表参道・原宿の貸店舗市場動向

■ラグジュアリーの一部は、相場を超える賃料を検討

今期(Q2)ハイストリートの空室率は、対前期比1.0ポイント低下の6.2%となった。比較的面積が大きい募集物件で、テナントが決定している。ハイストリート表参道では、募集の可能性がある区画に対して、ラグジュアリーブランドなど複数のリテーラーから引き合いがある。なかには、相場を超える賃料水準で検討するリテーラーも含まれている。

表参道では、ラグジュアリーブランドの出店ニーズが集まっている。また、ポップアップストアの好調を背景に、常設店舗の出店を検討するリテーラーもみられる。そのため、今期の表参道・原宿ハイストリート賃料は、対前期比3.4%上昇の18.38万円となった。ハイストリートの明治通りでは、日本初出店を含む複数の出店が内定。

一方、空室が長期化する募集物件も複数ある。特に国内ブランドが集積する立地では、リテーラーの出店ニーズが弱い状況が続いている。

セカンダリーエリアの募集物件では、日本初出店となる海外ECブランドの出店ニーズがみられた。また、銀座から移転したリテーラーの出店が内定した事例もあった。若年層をターゲットとしたプロモーションを行いたい考え。

新宿の貸店舗市場動向

■大型の募集物件では、面積縮小を条件としたリテーラーの出店ニーズ

今期(Q2)ハイストリートの空室率は、対前期比2.2ポイント上昇の10.2%となった。比較的面積が大きい区画で、空室が出たことが主因。

今期の新宿ハイストリート賃料は、2期連続横ばいの17.00万円。ハイストリートの新宿通りにある募集物件では、高級時計の出店が内定した。また別の募集物件では、リテーラーからの引き合いがいくつかみられている。新宿通りでは、ラグジュアリーブランドやアウトドア・スポーツなど、複数のリテーラーから出店ニーズが集まっている。比較的面積が大きい募集物件でも、複数の引き合いがある。

ただしリテーラーからは、面積を縮小する、階層を減らすなどの分割対応の条件が出ているケースが多い。背景として、賃料総額を抑えたい意向がある。

また、ハイストリートにある既存テナントのなかには、再契約の意向はあるものの、業績不振を理由に現行賃料からの減額を希望しているところがある。セカンダリーエリアの募集物件では、ファッションや食物販からの引き合いがある。ただし、相場を超える賃料水準や、店内レイアウトの難しさを理由に、テナントの内定には至っていない。

渋谷の貸店舗市場動向

■エリアに路面店舗がないラグジュアリーの出店が内定

今期(Q2)ハイストリートの空室率は、対前期比3.2ポイント低下の9.1%となった。50坪程度の複数の募集物件で、テナントが内定した。

今期の渋谷ハイストリート賃料は、3期連続横ばいの12.68万円となった。ハイストリートの公園通りにある募集物件では、ラグジュアリーブランドの出店が内定した。渋谷エリアに路面店舗がなかったリテーラーである。Z世代を中心とした若年層に、ブランドを訴求したい意図がある。渋谷エリアでは、ラグジュアリーブランドやファッションブランドなど、若年層をターゲットとした販売戦略を持つ複数のリテーラーが、出店の機会をうかがっている。

ハイストリートのセンター街にある募集物件では、店内レイアウトのむずかしさから引き合いに弱さがみられている。セカンダリーエリアの神南にある、200坪を超える募集物件では、海外リテーラーからの引き合いがみられている。

一方、リーシングが長期化している募集物件では、リテーラーからの引き合いはあるものの、オーナーが希望する賃料水準からは乖離がみられている。そのため、テナントの内定には時間を要しそうだ。

栗栖 郁

シービーアールイー株式会社(CBRE)

ディレクター

(※写真はイメージです/PIXTA)