慢心や不注意から労働災害を起こしてしまう、うっかりものの猫「仕事猫」が、働く人々の労働安全衛生をよびかける中央労働災害防止協会(本部:東京都港区、以下・中災防)での出版物やポスターグッズに起用され、注目を集めている。

安全衛生ポスターや図書の制作をおこなっている中災防出版事業部に起用にいたった経緯を聞いた。(ライター・今川友美)

●あえて「労災を引き起こしがちなキャラ設定」で反面教師

仕事猫ルーツは、イラストレーターくまみね氏が描いた、夜中に電話相談する「電話猫」だ。それから、ネット上でコラージュが作られるようになり、作業員風の「現場猫」が生まれた。これをくまみね氏が「逆輸入」し、公式に翻案したのが「仕事猫」だ。

中災防では2019年から仕事猫を起用した安全衛生関連の書籍やポスター・用品を制作している。「労災を引き起こしがちという仕事猫キャラ設定が、逆に反面教師として労災防止の意識啓発につながるのではないか」と考え、中災防からくまみね氏にコラボを持ちかけたという。

●安全衛生教材やポスタータオルなど起用続々

くまみね氏の協力を得て、これまでさまざまポスターや書籍、グッズが制作された。中災防コラボ仕事猫は、安全のシンボル・緑十字マークを入れた黄色いヘルメットをかぶり、しっかりとあごひもを締めているのが特徴だ。

■安全衛生ポスター「猫のフリ見て・ご安全に」

指を差すポーズ(中災防では「指差し呼称」)のやり方も、ネットでよく見かけるものとは違い、左手を腰に当て、しっかりと指先にある対象を見ている。販売当時から話題となり、パロディ作品も生まれた。

商品の制作にあたっては、コンセプトコピーなど、大まかな方向性は中災防側で考え、イラストやその表現方法はくまみね氏の持ち味を生かすため、自由に描いてもらった。見る人に労働安全衛生を身近に感じ、自分事としてとらえてもらい行動変容をうながすよう、「ついついやってしまいそうなこと』を織り交ぜながら、わかりやすいデザインにすることを心がけているという。

■安全衛生ポスター熱中症がねらう・仕事猫

この夏に登場した熱中症の予防を呼びかけるためのポスターネットでは「自分もこの仕事猫と同じ状態になるところだった。過信はやめよう」「今日は暑くなるから熱中症に気を付けて」と注意を呼びかけるコメントもあがった。

クールタオル仕事猫)、パッケージ

タオルによる巻き込まれ災害の危険性を解説した商品説明書の注意書きが、労働災害防止団体の用品ならではと話題となった。

■小冊子「仕事猫と学ぼう 不安全行動と労働災害

労働災害発生のメカニズムの解説がわかりやすいととらえられているようで、安全衛生教育教材としても人気。仕事猫が安全の大切さを身をもって伝えてくれている。

●「従業員が積極的に労働安全衛生のことを話題にするようになった」

これらの商品の評判は上々で、製造業などの企業による購入が多いが、労働安全衛生とは縁がなかった一般の個人の方による問い合わせや注文も増えているという。「従業員が積極的に安全衛生のことを話題にするようになった」「注意喚起に大変役立つポスターありがとうございます」といったお礼をもらうこともあるという。

●指差し呼称で確認しよう ヨシ!

中災防ではかねてから、作業を安全に誤りなく進めるためには、作業の要所要所で確認すべきことを、指差し呼称で確認することが有効だと伝えている。

■中災防コラボ仕事猫による指差し呼称のやり方

●一人ひとりが労働安全衛生を「自分ごと」に

労働災害を防止するためには、一人ひとりが労働安全衛生を『自分ごと』としてとらえ、自分自身の身を守る行動が取れるように、安全意識を高めていくことが大切です。この機会に一人ひとりが労働安全衛生について向き合い、それらをみんなで共有して安全に作業していただければうれしいです」と担当者は話した。

ヒューマンエラー研究者「人間の特性をうまく表現している」

労働安全衛生やヒューマンエラーに詳しい労働安全衛生総合研究所の高木元也・特任研究員に、近年の労働災害をとりまく現状や、その防止への仕事猫の起用について、どのように見ているのかを聞いた。

高木氏は、「これまでは管理者によるトップダウン型の安全対策が進められてきたことで、災害の大幅な減少につながってきましたが、近年は下げ止まり感があり、行き詰まっているところをよく目にします」と近年の労働安全衛生の現状について述べた。

そのうえで、「これからはトップダウン型ではなく、エラーを起こす人間の特性を踏まえた職場環境、作業手順を作るため、現場の声をすくいあげるシステムシフトしていくことが求められます」とした。

高木氏は、「仕事猫は、人間の特性を、人間以上の人間らしさで表現しています」と前置きしたうえで、そうした現場で働く人を管理者側が巻き込んでいくプロセスにおいて「労働災害を『ありえないこと』という対岸の火事としてとらえるのではなく、『自分ごと』として管理者側や現場にたずさわる一人ひとりがとらえられるような第一歩としての存在として、意義があることだと思います」と語った。

※中災防では今回紹介した商品以外にもさまざまな安全衛生図書・用品を制作している。詳細は、同協会の安全衛生図書・用品販売サイトまで。

うっかり労災事故を引き起こす「仕事猫」が人気、労働安全衛生を「自分ごと」に感じるきっかけに