プレッシャーのかかる場面で、いまいち結果が出ない。」
「勝敗が決まる大事な場面に強い選手に憧れる。」

このようなスポーツマン達は多いのではないでしょうか。

こちらの記事では、サッカーで最もプレッシャーのかかる場面、PK(ペナルティーキック)戦をベースとした研究を紹介します。PK戦では、自身のメンタル的な面との付き合い方が最も重要なため、心理戦と言っても過言ではありません。

そんなプレッシャーのかかる場面で、心理的にどこへ意識を向けると良いのかを、ポーランド、ワルシャワ大学が、過去に調査しています。この研究は、サッカーPK戦がベースとされていますが、サッカーのみではなく、他のスポーツでも心理的なプレッシャーがかかる場面で応用可能なテクニックですので、 是非参考にしてみてください。

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自信の源である自己効力感を高めるには?

まず初めに、皆さんは自己効力感という言葉をご存じでしょうか。自己効力感(Self-efficacy) は、自分はやればできるという感覚です。この自己効力感というのが、プレッシャーのかかる場面では重要となってきます。もし、キッカーが失敗する感覚しかない場合、当然キックの精度に影響を及ぼすでしょう。

それでは、どのような心理的なアプローチをすれば、キックの精度を上げ、自己効力感も上げることができるのでしょうか。

実験内容
実験は、120人(111人が右利き、9人が左利き)の中程度レベル(技術力は十分)の大学生を集めて、ゴール内にある、円形のターゲットを狙う形で行われています。加えて、自己効力感や自信の度合いを測るために、ペナルティーキックの前後に、被験者にどれくらいの自信があるかを質問して、10-100のレベルで評価してもらいました。(10ー全く自信がない、100ー自信が大いにある)

そして、被験者を6つのグループに分けます。

1 外部フォーカス + 自律性
外部フォーカスは、的や狙うコースなど、外部に集中するように指示されます。
自律性は、連続で同じ的を狙って蹴ってはならず、蹴る前に狙いのコースを研究者に伝えるなどの行動を取ります。

2 外部フォーカスのみ
心理的な意識を、キックターゲットの的など、外に向けるように指示されます。
蹴るターゲットも、指示されます。

3 内部フォーカスと自律性にフォーカス
内部フォーカスは、蹴る時の右足や蹴るときの体のバランスなど、自己に集中を向けるよう指示されます。
自律性は、1,2と同様、連続で同じ的を狙って蹴ってはならず、蹴る前に狙いのコースを研究者に伝えるなどの行動を取ります。

4 内部フォーカスのみ
心理的な意識を、自分の身体など、内に向けるように指示されます。
蹴るターゲットも、指示されます。

5 自律性のサポートのみ
特に心理的に意識する場所は伝えられず、蹴る的の場所と順番だけを選んでもらいます。

6 コントロールグループ
このグループは、蹴るコースが指定されます。

実験結果
この実験の結果、外部フォーカスと自律性にフォーカスした1グループの成績が最も良かったそうです。

ここでいう、成績というのは、キックターゲットにより近いキックが多く、他のグループと比べ、より正確性があった、という事です。加えて、このグループは、テスト後の自己効力感の向上も一番大きく、これは、キックターゲットを自分で選び、自分の行動をコントロールできている感覚がもたらした結果と言えるでしょう。

この研究から分かるように、プレッシャーのかかる場面で結果を出すためには、2つの事が重要となってきます。

内部フォーカスから外部フォーカス
1つ目は、まだスポーツを始めたばかりの人や、何か新しいスキルを身につける際は、自分の体重のバランスや重心に意識を向けなくてはならないため、内部フォーカスが重要になりますが、本番に近い練習では、キックターゲットの的などの外部に集中した方が良いです。

その理由は、内部にフォーカスを当ててしまうと、体の動きを考えすぎてしまうため、余計な力が入るからです。イップスなどのスポーツにおける、心理的な障害は、意識か無意識に関わらず、自分の動作に意識を向けすぎる内部フォーカスがもたらすとも言われているくらいです。自分に、焦点を当てすぎる内部フォーカスは、些末な事に気を取られ、不安が増大していくため、緊張の原因ともなり得ます。

ある程度の競技レベルで本番に向けた練習を行う際は、外部に焦点を当てましょう。

自己効力感の向上
2つ目に、自己効力感を上げるということが、プレッシャーのかかる場面でのパフォーマンス向上の鍵となります。

PK戦や、野球の一打逆転のチャンスなど、ここ1番といった場面で、心理的なプレッシャーに耐えるのには、自分はやればできると思える感覚が大切です。

実験では、キッカーに蹴るコースを選択してもらい、自分の行動をコントロールしている感覚を与える事によって、動機付けが行われています。加えて、外部フォーカスによってキックの精度が向上したため、メンタル的な自己効力感も増加しました。

そのため、日頃からやらされている練習では無く、自分なりに試行錯誤した練習を行うと、良い動機付けとなり、プレッシャーのかかる場面でやれば出来るというメンタルをキープできるでしょう。是非参考にしてみてください。

実際にあった選手の事例
あるプロサッカー選手でキックに自信がなかった選手がいました。ポジションはフォワードで身長が高く、ヘディングには自信がありました。しかし、シュートになるとどうしても思ったところに蹴ることができません。そこでメンタルコーチングを受けることになりました。

そこで最初に提案したのが連続で同じ的を狙って蹴ってはならず、蹴る前に狙いのコースをチームのコーチに伝えるなどの行動をお願いしました。FWは練習後に個別でシュート練習をすることがあります。この練習で上記の実験で分かったことを実際に取り組んでもらったのです。

すると、1週間後には紅白戦や練習試合でキックでゴールが決めるようになります。100本打って1本入るくらいの確率だったのが、1試合に1得点するまでになります。そして、その結果を踏まえて試合にも帯同する機会が増え、とうとうレギュラーを獲得。FWとして大成するキッカケになりました。

闇雲にシュート練習するのではなく、このように意識を明確にすることでプレッシャーガかかる場面での自信を手に入れることが出来るのです。技術力がないのではなく、メンタルに問題があると思う方はぜひとも参考にしてみてください。

参照論文:
The effects of combining focus of attention and autonomy support on shot accuracy in the penalty kick.
Makaruk H Józef Pi?sudski University of Physical Education in Warsaw
Ni?nikowski T University of Physical Education in Warsaw
Mastalerz A Józef Pi?sudski University of Physical Education in Warsaw
https://europepmc.org/article/MED/31545800#free-full-text

[文:スポーツメンタルコーチ鈴木颯人のメンタルコラム]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

1983年イギリス生まれの東京育ち。7歳から野球を始め、高校は強豪校にスポーツ推薦で入学するも、結果を出せず挫折。大学卒業後の社会人生活では、多忙から心と体のバランスを崩し、休職を経験。
こうした生い立ちをもとに、脳と心の仕組みを学び、勝負所で力を発揮させるメソッド、スポーツメンタルコーチングを提唱。
プロアマ・有名無名を問わず、多くの競技のスポーツ選手のパフォーマンスを劇的にアップさせている。世界チャンピオン9名、全日本チャンピオン13名、ドラフト指名4名など実績多数。
アスリート以外にも、スポーツをがんばる子どもを持つ親御さんや指導者、先生を対象にした『1人で頑張る方を支えるオンラインコミュニティ・Space』を主催、運営。
『弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉』『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』など著書8冊累計10万部。

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