桃太郎ゆかりの地といえば、文化庁も認定する岡山県が思い浮かぶかもしれませんが、瀬戸内海を挟んだ対岸 高松市内のJR予讃線には、「桃太郎踏切」が存在。桃太郎オブジェもありますが、なぜでしょうか。

近くの駅は「鬼無駅」

桃太郎踏切」――絵本の中の踏切かと思いきや、なんと実在します。そして踏切手前にある高さ制限を示すバーには、「桃から生まれた桃太郎」が乗っています。

踏切は日本各地に点在していますが、安全性の観点から設備に装飾はできません。歩行者やクルマのドライバーが踏切と認識しづらくなり危険だからです。形状やカラーリングは統一され、誰もが一目で踏切と認識できるようになっています。そのため冒頭の桃太郎踏切において桃太郎がいるのは、遮断機など踏切本体ではありません。

踏切のある場所は香川県高松市内のJR予讃線鬼無駅の北400mほどです。踏切名はその名前の通り、おとぎ話で有名な桃太郎にちなんでいます。ただ桃太郎伝説といえば岡山県が有名でしょう。実際、岡山駅前には桃太郎の銅像が建立されています。一方で鬼無駅の周辺にも桃太郎伝説が語り継がれています。駅近隣の本津川は、物語の序盤でおばあさんが洗濯しに行った川とされています。

踏切の前に立ち西を向くと、視線の向こうに勝賀山が見えます。香川県はメサと呼ばれる卓状型の山が多い県でもありますが、勝賀山もメサのような形状をしており、いかにも鬼ヶ島の雰囲気を漂わせています。

ちなみに桃太郎が鬼退治に向かった鬼ヶ島は、瀬戸内海に浮かぶ女木島がモデルとされています。女木島は高松市沖にあることから、鬼無が桃太郎伝説の地とされる根拠のひとつにもなっています。以上より鬼無駅の近くに所在する踏切を、「桃太郎」と名付けたのでしょう。

付近は閑静な住宅街です。踏切の交通量はそれなりに多いのですが、桃太郎オブジェを特に意識している通行者は見受けられません。ここでは桃太郎伝説も生活の一部に溶け込んでいるようです。

ちなみに、高松駅前広場にも「青鬼くん」の石像が安置され、来街者を出迎えてくれます。青鬼くんは桃太郎に出てくる鬼ではなく、浜田廣介の童話『泣いた赤鬼』の作中に登場する青鬼です。正式な桃太郎ゆかりの地は岡山県ですが、瀬戸内海を挟んだ対岸でも、桃太郎を感じられる場所がありました。

踏切名は「桃太郎踏切」(2022年9月、小川裕夫撮影)。