動力がないのに、数時間も飛行を続けられる――そんな航空機「グライダー」。なぜそのようなことが可能なのでしょうか。今回北海道の“空の街”、滝川市で実際にグライダーに搭乗することができました。

動力がない! なのに飛ぶ!

空を飛ぶ「航空機」のなかで、特殊な運航方法を取るのが「グライダー」です。翼と車輪があり、コクピットに乗り込んでパイロットが操縦するスタイルにもかかわらず、普通の航空機では必ずあるものがありません。エンジン、つまり飛行を続けるための動力がないのです(一部動力付きのモデルもあり)。

今回、北海道滝川市、ANA(全日空)グループで地域創生事業などを企画するANAあきんど協力のもと、実際に乗ることができました。

今回搭乗したのは、ドイツアレキサンダー・シュライハー社製の「ASK21」。胴体長8.35m、そして翼幅17mの大きな翼を持つ複座型ですが、動力がない「ピュアグライダー」というもの。空荷時の重量は360kg、最大離陸重量は600kgとなっています。この機はその性質上、曳行機(えいこうき)とよばれる飛行機にけん引され離陸し、上空で切り離され、その後はエンジンなしで航行する滑空状態に入ります。このときは高度1500フィート(約457m)で切り離しを行いました。

滑空状態となると、まずその静かさに驚かされます。コクピット内に響くのは風切り音のみであるためです。そして、飛行を続けていくと、エンジンがない状態でも高度が下がっていないことに気づきます。それどころか、動力がないのにコクピットの計器が上昇を示しているときもあったのです。

100km/h以下で上昇なぜ?そのカラクリ

機体が上昇していたとき、速度計が示していたのは、50ノット、約93km/hです。つまり高速道路を走るクルマほどのスピードにも関わらず、高度を上げていたということになります。

まさに“魔法”とも言えるこの現象。これはグライダーが“風をつかんでいた”ことにより発生していたものです。空には「上昇気流」とよばれる、上方に風が吹くエリアがあります。グライダーのパイロットは、自身の経験や体感から上昇気流があるエリアへ行き、そこである程度の時間、飛行を続け高度を稼ぎます。その後、また別の上昇気流を探し高度を稼ぐ……といったことを繰り返し、空中に留まりつづけるといいます。そのため、動力がなくても数時間ものあいだ、飛行を続けることができるのだそうです。

また、滝川市で実施されるグライダーの体験搭乗は景色も魅力。これはコクピットの窓が風防形式で大きいため、低高度で北海道の雄大な景色を様々な角度から見ることができます。

グライダーは、上昇気流を捕まえて高く・長く・遠くまで飛ぶという『飛ぶこと自体を追求する』ことが最大の面白みがあると考えています。世の中の人にもっとグライダーの魅力を知っていただきたいというのが願いです」。グライダーの飛行場がある、たきかわスカイパークのインストラクター、日口さんは次のように話します。

このほか、同市ではグライダーを身近に感じてもらう取り組みとして、体験搭乗やグライダーの地上展示などを展開。「市内の子どもたちにも体験搭乗などさまざまな取り組みをしています。ゆくゆくは、『滝川市は空と接することができる街』ということで、この自分の街に誇りをもってもらいたいな……と考えています」(日口さん)。

滝川市が実施している「グライダー体験搭乗」の様子(松 稔生撮影)。