平庫ワカのコミック『マイ・ブロークン・マリコ』が、主演に永野芽郁を迎え、タナダユキ監督が映画化。9月30日より公開中です。

原作の『マイ・ブロークン・マリコ』は、2019年に無料WEBコミック誌「COMIC BRIDGE」で連載(全4回)されるやいなや毎話SNSでトレンド入りし、翌年出版された単行本(全1巻)では即重版が決定するなど、爆発的な反響に。本作も、カナダ・モントリオールで行われたファンタジア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞し、そして、いよいよ公開をむかえました。

タナダユキ監督に映画への想い、出演者・スタッフへの感謝など、お話を伺いました。

――映画拝見しました。素晴らしかったです。プレス資料のインタビューには「原作を読んで直ぐに動いた」とありましたが、監督にとっては珍しいスピード感だったのでしょうか?

あそこまでのスピード感は初めてだったと思います(笑)。もちろん、色々な小説や漫画を読んで面白いなと思う時はあるんですけど。この仕事をしていると、原作権をとる大変さが骨身に染みてわかっているので…。(マイ・ブロークン・マリコの原作権を)取れない可能性も高いから。でも、絶対に取る!という意気込みでした。

――いちファンとして、タナダ監督に映画化していただけて嬉しかったです。原作者の平庫ワカ先生とはやり取りはされましたか?

撮影に入る前にお会いしました。原作者の方に会うというのは緊張しましたけどね(笑)でも、すごく楽しみにしてくださっているということで嬉しかったです。ご挨拶した後は担当編集の方を通してのやりとりだったんですけど、唯一言われたのが「マキオとの恋愛にしないでほしいな」という。私は絶対やりませんが、そこを心配される気持ちは分かるんですよ。映像化するときに、原作にはない恋愛要素って入れられがちじゃないですか。

――分かります…!

それでガッカリ…っていうことは自分でも経験があることなので、それだけは、もうもちろんお任せくださいと。平庫先生は初号試写で観てくださって、すごく気に入ってくださりました。しきりに「良いなぁ。映画って」と、羨ましいと言っていて。私たちはロケハンの段階から、ずっとスタッフと「良いなぁ。漫画って」と言っていたんですけどね(笑)。

――お互いに「良いなぁ。」と思っていたわけですね。それぞれらしい大変があるというか。

はい。漫画を描くってものすごく大変なお仕事ですよね。映像にする時に大変だったのはロケハンです。岬が、まず無かったですし。シイちゃんが飛び降りる、あの川沿いのアパートも無いんです。ちょっと近いものは在ったとしても人が住んでいて借りられないとか。だから「良いなぁ。漫画」って思っていました(笑)。でも、やっぱりスタッフとキャストの力で原作者の先生にも「良かったな」と思ってもらえたものが作れて、ホッとしました。

――原作そのまんまのアパートには驚きました。

なかなか無くて、制作部が「ここならこういうふうに撮ればいけるかもしれません」っていうところを探してきてくれたんです。ただ、やっぱり綺麗だったんです。それを美術部が、ああいう飾りを作ってくれたっていう…。もう、本当にスタッフみんなの力です。

――素晴らしいです。岬も。

岬はね、もう本当になくて…(笑)もう1年以上前から探してもらっていたんですけど、本当に無くて…。2回言いましたけど。「原作権を返上した方が良いんじゃないか?」ってくらい追い詰められていて。海外で探すか、原作権を返すか。この2択しかないくらいに見つかりませんでした。

もうダメかもって思った時に「青森県で可能性があるかも」と。2ヶ月ほど前に私だけ一足先に見に行ったのですが、その時は整備された場所しか見れず、雰囲気はこれまで見た他の場所よりダントツに良かったものの、撮影的には困難な感じでした。その後に今度はメインスタッフと一緒にロケハンに行き「近辺を歩いてみましょう」ってなった時に、ちょっと離れたところに、あの撮影場所があったんです。「ここで全部成立するじゃん!」と。本当に精神的に安心出来たのは撮影に入る1ヶ月前のその時です。あの時周辺を歩こうと言ってくれた、これもスタッフのおかげです。

――もう、本当にピッタリの岬でした!

本当に良かったです。これは笑い話なんですけど、メインスタッフとは10月にロケハンに行って、ススキが本当に綺麗だったんですよ。でも撮影は11月だったので、「11月の青森か…枯れてるんじゃないの?」って。実際に撮影の頃には、案の定だいぶ元気がなくなっていて(笑)。でも、美術部と地元のシルバー人材派遣センターの方たちが植え替え作業を一緒に行ってくれたんです。ススキって強いので、刺せばしっかりと立ってくれるんですよ。一万本ほど植えてくれています。足を向けて寝られません。

――これから映画をご覧になる方、ススキにもぜひご注目いただきたいですね!

ぜひ、お願いします!青森の地元の皆さんとスタッフのおかげで撮影出来たので。

――やっぱりそれくらい原作の雰囲気は崩したくなかったんですか?

はい。第3のキャストじゃないですけど、岬が無いかぎり、なかなか難しいなって。海側を撮るときは海側のカット、切り返してススキを撮るときは移動して撮るというやり方も無理やりやれば出来たとは思います。でも、それは俳優部にあまりにも負担がかかるし。あのテンションのお芝居をここで撮って「じゃあ移動します」っていうのはね。気持ちを繋げるのは、あまりにも俳優部が可哀想だっていうのがありました。

――キャストの皆さんが本当に熱演でしたが、子役の子達も素晴らしかったです。子役の子たちはオーディションでしたか?

オーディションでした。子役とはいえ、ヘビーな役なので、もちろん親御さんの了承のもと、本人も理解してやってくれて。すごく良い子たちなので、痣メイクのテストをしたときも、「わあ!すごい!」って初めての特殊メイクに感動してくれていました。辛いシーンではありますが、裏側では明るい子たちだったのでこっちもなんだか救われました。

――マリコも可愛らしかったですけど、シイちゃん役の子も絶妙な雰囲気というか。

(佐々木)告ちゃんは、本当にすごい子だと感じました。1次オーディションはコロナなので集めてやるのが難しくて。こちらがお送りした台本を読んで動画を送ってもらう形でやったのですが、その時点で告ちゃんだけは「絶対に、この子!」と。告ちゃんは、どっちもやれると思ったんですよ。マリコ役も。2次で直接会ったらやっぱり抜群で。将来すごい女優さんになるんじゃないかなと思って期待しています。
今は中学1年生になったばかりなので、学校とか日常の生活をしっかりと楽しんでもらった上で、それでも俳優がやりたいと思ってくれたら、またお会いしたいです。

――また再会する日が来るかもしれませんね。尾美さんもとても難しい役柄をすごい存在感で演じられていて。

はい。あのクズを引き受けてくださって、お仕事できたのは私にとってもすごく嬉しいことでした。尾美さんは小さい頃からこのお仕事されているからだと思うんですけど、シイちゃんがマリコを家まで迎えに行くのだけど、ドアの向こうでは虐待の音がして…というシーンで、実際に尾美さんが現場で声を出してくれているんです。叩く音も、尾身さんが自分で自分の手などを叩いて音を出してくれていて。こっちが「やってくれますか?」って言わずとも、子シイノ役の告ちゃんが演技しやすい環境を作ってくれました。素晴らしかった告ちゃんのお芝居がさらに引き出された感じもあります。

――改めて、永野芽郁さんを主演に迎えていかがだったでしょうか。

監督と俳優という立場で、年齢も自分の娘でもおかしくないくらいの歳ですけど、すごく尊敬できる人です。プロフェッショナルなところとか、弱音を吐かないところとか、尊敬できる所が沢山あったので同じ方向を見て走ることができました。

――月並みな言葉ですが、戦友というか。

でも、本当にそういう気持ちですね。自分の方が年上だからとか、そういうことは全くなくて、同じ目線で走れたんじゃないかなと思います。芽郁ちゃんって可愛い印象の方が強いし、実際はお人形さんのようにかわいいんですけど。シイノの時は、本当にカッコよかったんです。新たな芽郁ちゃんの一面を見てほしいですね。あと、本当に手足が長いんですよ。

――長いですよね!

すごいなと思いました。漫画って理想の体型にデフォルメされているのに、そこに負けないぞって思えたので。芽郁ちゃんの持っている色んなものに助けられて。やっぱりシイノの持っているキャラクターのおかげで作品が暗くなりすぎてないって言うところが原作にもあると思っていたんですが、映画でも芽郁ちゃんの持つ陽の雰囲気ならその部分も背負えるなと思いました。そういう意味でもシイノが芽郁ちゃんで本当に良かったと思っています。

――原作にはないシーンについてもお聞きします。マキオが歯ブラシを渡すシーンはどういうところから思い付かれたんですか?

なんとなく、マキオって歯磨き好きそうだなっていう勝手な印象と(笑)。あと、現場でも私自身、歯磨きをすると、ちょっと気分がスッキリするって言うのがあって。スッキリするスイッチって、人によってはコーヒーを飲むだったり、タバコを吸うことだったりすると思うんですけど、映画の中でもそういう細やかな切り替えのシーンがあっても良いような気がしたんです。あと、マキオのキャラクター的にも歯ブラシって許されるんじゃないかなと。

あと、撮影の後に平庫さんに伺って知ったのですが、マキオって見回りをしているらしいんですね。かつての自分のような自殺志願者がいないかって見回りをしているらしくて。そういう時に何かアイテムを持っていたのは良かったのかもな、とも思いました。

――人間じゃない部分でいうと、骨壷もすごく印象的でした。骨壷なのに、マリコがそこで笑っているような空気を感じられました。

あの骨壷、遺骨なので現場で“いこっちゃん”って呼ばれていて、可愛いんですよ。だんだん、みんな愛着が湧いてきて。マリコの遺骨なんですけど、マリコって呼ぶのも憚れるじゃないですか。マリコ役は奈緒ちゃんが居るので。シイちゃんがドタバタしている所を、「シイちゃんしょうがないな」って、いこっちゃんが微笑んでいる。そういうシーンになれば良いなと思って撮ったので、そう言っていただけてすごく嬉しいです。

――本当に素敵な作品、素敵なお話をありがとうございました!

【ストーリー】ブラック会社に勤め鬱屈した日々を送るシイノトモヨは、テレビのニュースで親友・イカガワマリコが亡くなったことを知る。学生時代から父親に虐待を受けていたマリコのために何かできることはないか考えたシイノは、マリコの魂を救うために、その遺骨を奪うことを決心する。「刺し違えたってマリコの遺骨はあたしが連れてく!」。マリコの実家から遺骨を強奪、逃走したシイノは、マリコの遺骨を抱いて“ふたり”で旅に出ることに。マリコとの思い出を胸にシイノが向かった先は・・・

永野芽郁
奈緒 窪田正孝 尾美としのり 吉田羊

監督:タナダユキ 脚本:向井康介 タナダユキ 音楽:加藤久貴
原作:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(BRIDGE COMICS/KADOKAWA刊)
音楽:加藤久貴 エンディングテーマ:「生きのばし」Theピーズ(P)2003King Record Co.,Ltd.

(C)2022映画「マイ・ブロークン・マリコ」製作委員会

『マイ・ブロークン・マリコ』タナダユキ監督インタビュー「第3のキャストとも言えるロケーション」「“いこっちゃん”の存在」