今年7月、「猫」に関するある研究結果が発表された。その結果が、猫好きにとってあまりにもショックが大きなものだったため、注目を集めている。この研究について、また猫の生態について、日本の専門家はどう見るのか。東京猫医療センターの服部幸院長に聞いた。

◆猫好きがショックを受けた研究結果

 同研究は、イギリスのノッティンガム大学(University of Nottingham)で行われたもので、研究内容と結果が、自然科学を取り扱うオンラインの学術誌『Scientific Reports』(ネイチャーリサーチ社)に掲載された。

 それによると、研究チームは「猫に関する知識や経験があると自己認識したり、猫好きだと感じている人ほど、猫が嫌がる場所を触ってしまう傾向がある」と結論づけている。

 この発表が、猫好きにとってショックの大きなものだったようで、SNSには「そ、そんニャ…」や「心当たりがある。気をつけよう」といった声があがった。

◆研究結果に対する専門家の解釈

 この結果は事実なのか。そして、猫好きの人々はこの結果を踏まえて、猫に対する行動を改めなくてはいけないのか。服部院長は次のように話す。

「数値として導き出された研究の”結果”は当然、事実だと思います。ただ個人的には、そこから『猫好きの人は何も知らないよね』という結論を導き出すのは、前提がズレているように感じます」

 一見すると、数値として出された結果と、そこから導き出した結論には自然に繋がっているようにも思えるが、一体どういうことなのだろう。

「今回、猫が嫌がる部分とされているのは、お腹や尻尾の付け根ですね。猫が苦手な人はそもそも、この辺りを触ることすらできませんよね。苦手な人が、恐る恐る触ろうとしても、猫はそれを感じて嫌がります。その結果、噛まれたり引っかかれたりもするので、せいぜい頭を撫でる程度でしょう。一方で、猫が好きな人や猫のことをよく知っている人は、お腹や尻尾の付け根を触れるんです。だから結果として『猫好きな人だけがそこを触るという事実がある』というだけだと思います」

◆人間も猫も同じ

 では前提として、今回の研究で嫌がる部分とされている部分を触ると、実際に猫は嫌がるものなのか。服部氏は長年の臨床経験から次のように所感を話す。

「一般論として嫌がることは多いといえますが、嫌がることもあるけど嫌がらないこともあるというのが実際のところでしょう」

 SNSでも「うちの猫は、お腹を触っても嫌がったりしない」という声も多く見られたのは事実。では、嫌がるのか否かは何によって決まるのだろう。服部氏は、人間に置き換えてみるのがわかりやすいという。

「人間でも、知らない人に触られる場合を想像すると、初対面で背中をポンと触られるより、お腹をポンと触られる方が嫌ですよね。動物の多くはそこに内臓があるから、お腹を触られることに抵抗があります。しかし、赤ん坊が母親にお腹を触られても嫌がることが少ないように、気を許している人であれば、抵抗は少なくなります。猫も人間も同じだと考えていいと思います」

◆情報よりも目の前の猫と対峙すること

 人間と同じように考えて接するという考え方は、触れる部分についてだけではなく、コミュニケーションの取り方にも言えるという。猫を可愛がる際に、顔を近づけて目を合わせるようにする人もいる。動物にとってこれは、本能的に危険を感じるとも聞くが。

「これも人間で考えてみてください。例えば、長い間会えなかった恋人と久しぶりに会えたら、顔を寄せるのも嫌ではないと思います。でも、長年会っていなくても、何度かあったことがあるだけのおじさんに、顔を近づけられたら嫌ですよね(笑)。猫も同じで、一概にその行為だけを取り出して、いい悪いは判断できません」

 インターネット上に情報が溢れている現代だが、そこにある「情報」よりも目の前の猫と対峙することが重要ということだ。

◆猫が発するサイン

 実際に猫と接する場合は、一般論ではなくその猫とコミュニケーションをとりながら反応をしっかり見ることが大事になる。では、猫の反応から、嫌がっているかどうかを知るには、どんなサインヒントにすればいいのだろう。

「犬を飼っている人が勘違いしやすいのが尻尾の動きです。犬は喜びのサインですが、猫だと逆になります。また、耳を後ろに倒しているのも、警戒していたり嫌がっていたりしているときに現れる動きです」

 一方で、猫が喜んでいるときに出る動きや反応についても聞いた。

「喜んでいるという表現をする人がいますが、ここでは『リラックスしているサイン』としてお話しします。わかりやすいものからいうと、お腹を見せて寝転んでいたら、気を許してリラックスしていますね。他には、尻尾をピンと立てているときもリラックスした状態だといえます」

◆猫好きの勘違い

 今回の研究結果について、「猫好きな人だけがそこを触るという事実があるだけ」との回答でホッとした猫好きも多いはず。しかし、猫を飼っている人は「自分が勘違いしていることはないか」と心配するのは無理もない。そこで、猫に関するよくある勘違いについて聞いた。

「1日2食をきっちり採らせようとする人が多いように感じます。私の考えとしては、1日のトータル量をきちんとコントロールしていれば、2食ときっちり決めなくて、ダラダラと食べても構わないと思っています」

 気まぐれな生き物の代名詞でもある猫。飼い主の心配は尽きないが、情報よりも、目の前の猫をしっかり見てあげることが大事なようだ。

<取材・文/Mr.tsubaking>

Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。