コロナ禍でリモートワークが広がるなか、十分にスペースを確保できる戸建て住宅の人気が高まっています。なかには高い競争率で「早く決めないと、ほかの人が決めちゃいますよ」と急かされる場合も。そんななか「全額ローン」で即決し、マイホーム購入に至るケースも珍しくないとか。ただ安易に全額ローンを利用すると……みていきましょう。

いまや珍しくはない…全額ローンでマイホーム購入

不動産価格の動向を指数化した厚生労働省『不動産価格指数』によると、2022年6月の「戸建て住宅の全国指数」は108.4(2010年を100とした場合)。2017年あたりから100を超える月が目立ちはじめ、上昇基調に。コロナ禍においては、いくどかは下降したものの、概ね100を超えています。

コロナ禍ではリモートワークが広まったことで、特に戸建て住宅の人気が高まり、価格上昇を後押ししました。急にマイホーム計画が具体化し、見学に回った、という人も多かったことでしょう。なかには頭金など考えていなかったけれど、とりあえず、見て回ったという人も。その場合、「いいね」と思っても、予算的なハードルが立ちはだかります。そんなとき、営業マンのひと言が、後押ししてくれることも。

——お客様はまだお若いから、結構な額、貸してくれると思いますよ

——全額ローンでもOKのところもありますよ

——戸建て人気が高まっているので、迷っていると、ほかの人が決めちゃいますよ

通常、マイホーム購入となると、「頭金は最低でも1割は入れる」というのが常識として知られています。ただ昨今は、「全額ローン」というのも珍しいことではありません。新築マンション購入者へのアンケート調査ですが、リクルートSUUMOリサーチセンターが行った『2021年首都圏新築マンション契約者動向調査』では、自己資金ゼロ、フルローンでマンション購入に踏み切った人は16.4%と、6人に1人の割合です。

特に競争率の高い物件では、「頭金が足りない、どうしよう」などと悩んでいる間はありません。全額ローンは「買い時を逃すことがない」というメリットがあります。また「手元資金を残せる」という長所もあり、「頭金払ったら、急に持ち出しが必要な時に対応できない」という事態を防ぐこともできます。

平均的なマネープランで戸建て購入と、全額ローンで戸建て購入…返済額の違いは?

戸建て住宅購入者の平均像を国土交通省令和3年度住宅市場動向調査』で確認していきましょう。戸建て分譲住宅を購入した人(世帯主)の平均像は以下の通り。4,000万円程度の住宅に対し、1,000万円弱の頭金を用意し、3,000万円を超えるローンを活用して購入に至っています。

【戸建て分譲住宅購入者の平均像】

世帯主平均年齢:37.2歳

購入資金:4,250万3,200円(頭金:886万円、借入:3,363万9,400円)

自己資本比率:19.0%

平均返済期間:34.1年

出所:国土交通省令和3年度住宅市場動向調査』より

※戸建て分譲一次取得者、数値はすべてそれぞれの平均値

そんな平均に対し、全額ローンだった場合、どのような返済プランとなるのでしょうか。返済方式は元利均等、金利は当初5年は0.5%、以降は1%と仮定します。その場合、利息分は5,22万4,949円。月々の返済は5年目までは8万9,447円、5年目以降は9万5,955円です。同条件で全額ローンだとすると、利息分は660万3,137円と140万円弱の差。月々の返済は5年目までは11万3,039円、5年目以降は12万1,263円と、月々2万5,000円ほど、負担は大きくなります。

単月では数万円の違いですから、「それくらいの差なら全額ローンでも……」と考えがち。しかし、平均34年と、長期間に渡り数万円の負担がかかり続けることを忘れてはなりません。

また金利が同じと仮定して計算しましたが、全額ローンのデメリットとして、「金利が高くなる」というものがあります。フラット35(借入期間21年~35年)の場合、融資率が9割以下と9割超えで、0.2~0.3%の金利差が生じます。

これまた「わずかな金利差」と考えがちですが、仮に上記シミュレーションで金利が0.3%高くなると、月々の返済は5,000~6,000円ほど増えることになります。これが34年続くワケですから、ボディーブローのように家計を圧迫。無視することはできないでしょう。

同調査では「住宅ローンに負担感がある」としたのが6割強。多くが苦労しながら、夢のマイホームを維持しています。また戸建て分譲住宅の平均購入年齢が37.2歳ということは、これから子どもの教育費が増えていくタイミング。家族が増えるというケースもあり、家計負担はさらに重くなっていくでしょう。

そのような状態で、月々数千円、数万円の違いはかなりの大きさ。安易に全額ローンを利用してしまったばかりに、常に一歩間違えたら破産してしまう家計運営……そんな状態に陥るケースも珍しくないのです。

もちろん借入額の大きさに限らず、ローンを利用しているということは、誰しもリスクを背負っています。破産リスクは全額ローン利用者に限られたものではありません。ただどうしてもという事情がない限りは、最低でも1割を超える頭金を用意し、ローンを組んだほうが無難だといえます。

(※写真はイメージです/PIXTA)