My Favorite Things
2022.9.30 日本武道館

「また満員の日本武道館でやろうぜって言ったよな! 今日、ついに叶ったぞ!」

視界いっぱい観客の姿を捉えながら、牧達弥(Vo/Gt)が喜びを爆発させた。大阪城ホール日本武道館で開催された、go!go!vanillas 2日限りのワンマンライブ『My Favorite Things』。9月30日日本武道館公演は、彼らにとって2度目の武道館ワンマンだった。1度目は2020年11月23日。充実した内容のライブだった一方、感染症対策ガイドラインに則り、キャパシティ50%以下の6000人しか観客を入れることができなかったため、「次は満員の武道館で」と約束したのだった。

有言実行となったこの日は、『My Favorite Things』というタイトルが表す通りのライブに。音楽にもそれ以外にも“My Favorite Things”を目一杯取り入れながら、この空間で、このメンバーで音楽を鳴らすのがとにかく楽しいのだと全部で表現した特濃の2時間半。ステージ上の彼らの笑顔には充実感が滲んでいた。

ライブはクレイアニメーションによる映像からスタート。1度目の武道館は、360°ステージで映像演出なしとバンドのフィジカルを打ち出した内容だったが、あの時とはまた違うライブが今から始まるのだと印象付けるような演出だ。ステージに現れたのは牧、柳沢進太郎(Gt)、長谷川プリティ敬祐(Ba)、ジェットセイヤ(Dr)、ゲストミュージシャンの井上惇志(Pf/showmore)、手島宏夢(Fiddle)、ファンファン(Trumpet)の7名で、『My Favorite Things』にはこの“バニラズ7(セブン)”で臨んだ。EP『LIFE IS BEAUTIFUL』以降、楽曲制作に参加している井上、手島、ファンファンとの協奏がバンドにもたらしたものは大きいと、メンバーもインタビューなどで話していた。本来は『FUJI ROCK FESTIVAL '22』でもこの編成を予定していたが、柳沢が発熱によって出演を見合わせたため、その時は6人での出演になった。今回やっと7人でライブできたことは、彼らにとってかなり嬉しいことだったのではないだろうか。そんな7人で奏でた1曲目は「RUN RUN RUN」。ここ最近SEに使っていたインスト曲を生演奏で届ける特別なオープニングだ。地面を蹴り上げたりアイコンタクトをとったりしながら演奏する彼らはとにかく楽しそうで、華やかで喜びに満ちたサウンドで鳴らされる「Hey My Bro.」が最高だ。一旦4人に戻ってからの「カウンターアクション」、「クライベイビー」、「お子さまプレート」でもバンドのテンションは高い。

「改めて言わせてください、go!go!vanillasです!」と牧。今このライブができていることがよっぽど嬉しいのか、この日牧は何回も自分たちのバンド名を叫んでいた。MCでは、収容人数の制限はあったが、最高のライブができた2年前を振り返りつつ、今ここでライブできている喜びを噛み締める。「本当に今日を迎えられて嬉しいし、今ここに立ってることが現実だってことを噛み締めながら、俺たちgo!go!vanillasの最高を、最新を更新したいと思います」と来たら、次の曲はそう、「サイシンサイコウ」だ。部屋を模したステージセットにはメンバーの“好きなもの”が隠されているとのことで、この曲では、ステージ上を歩き回りながら歌う牧をカメラが追い、ワンカットMV風の演出が展開された。バンドの演奏と今回のライブのために制作されたこだわりの映像&プロップスが連動した演出だ。曲中には、牧の好きな花束(友達の花屋で作ってもらったもの。「ザ・スミスのモリッシーみたいにしようぜ」と準備段階から盛り上がった)、プリティの好きな漫画本、柳沢の好きなゲーム(スーパーファミコン本体はセイヤの私物、“サイシンサイコウ”と書かれたゲームソフトは今回のために制作された小道具)、セイヤの好きなSILVIA五島列島の友人からセイヤ宅に突然送られてきて以来、寝食を共にしている宇宙人の人形)が登場。

井上の軽やかなピアノとともに披露されたのは「青いの。」で、続く「ペンペン」も鍵盤が入った特別アレンジ。これがまた「ペンペン」の名曲ぶりをさらに加速させるアレンジで、井上含む計5人が互いに作用しあい、火花を散らしながら転がっていく様が最高だった。牧も思わず曲中に「楽しいー!」と叫んでいる。「ペンペン」を終え、鍵盤が曲間を繋げる中、「調子はどうだい?  How are you doing?  俺はめちゃめちゃ楽しいぜ! ちょっと見てみなよ、すごい人だ!」「頑張ってよかった。こんな日が来てよかった」と牧(その間、セイヤはタンバリンを手に花道に出てきて踊ったりムーンウォークしたりしている)。そして「好きなものを好きなだけ貫き通して、つらい時もその“好き”で乗り越えていく。俺たちもそうだし、俺たちの音楽を聴いてくれたあなたも乗り越えたからこそ、ここに来られました! 自分に拍手を」と今日ここに集まれたことを祝いながら「ラッキースター」に突入だ。シャボン玉が舞い、カラフルな光が天井に星の模様を描く中、“バニラズ7”で鳴らす幸福のサウンド。この曲は撮影OKだったため、ファンがSNSにアップした画像・動画からもそのハッピーな光景を確認することができるだろう。ここで一度ピークを迎えたかと思いきや、直後に『FLOWERS』収録の柳沢作・歌唱による新曲が披露されるのだから侮れない。

また、「雑食」~「Do You Wanna」間に披露された、「アダムとイヴ」に「バイリンガール」と「ロールプレイ」を混ぜたようなセッションも間違いなくこの日の一つのハイライトだった。最初は牧と井上による息を合わせながらの二重奏だったが、鍵盤の音色が大きく変わったのを境にローファイヒップホップ的な趣になり、牧の歌い方や言葉の詰め方も変化。さらに4つ打ちのビート、バンドの音が入ってきてからはまた雰囲気が一変する。その移り変わりにはこのバンドの音楽的嗜好が凝縮されていたように思う。

MARVELのギターストラップを愛用している牧の趣味が反映された、アメコミ風の映像とともに披露したのは「Do You Wanna」。スクリーンにどーんとイギリス国旗を映したのは「倫敦」で、ビートルズなどUKのカルチャーに憧れながらバンドをやっている彼らが、その憧れを詰め込んだこの曲を日本武道館で演奏する意味は大きい。スカからパンクまで様々なジャンルを縦断する「one shot kill」ではスモーク、炎、レーザーなど舞台演出全部盛り。「楽しんでくれてる? 感じる、感じるよ!」と牧は笑顔で客席からの拍手を浴び、プリティは「武道館は僕らロックバンドにとっては聖地と言われていて、今、すっげー心が……清らか? みなさんに問います、俺は今、清らかな顔してます?」と、セイヤは「スーパーワーカー、スーパースチューデンツ、全国のみんな、全世界のみんな、ありがとう!(と、「ペンペン」コーラス部をご機嫌で口ずさむ)」と、それぞれに心情を表す。

7人編成で「エマ」、「平成ペイン」を思いっきり鳴らしたあと、本編ラストのMC。「何が楽しいかってさ、やっぱり自分が“好きやな、この人”って思う人と音楽が一緒にできることで」と切り出した牧が語ったのは、この4人でずっとやってきたからこそ、4人で鳴らす音楽を完全なものだと心のどこかで思っていたし、それ以外を排除しようという気持ちが若い頃はあったということ。その気持ちのまま、2年前に武道館に立ち、どこまでも行けそうなほど自分たちの音楽を信じられたこと。その後、『LIFE IS BEAUTIFUL』制作時、頭の中で鳴っていた音を実現させるために、今一緒にライブをしている井上、手島、ファンファンに出会ったこと。

レコーディングに臨んだ時、“ああ、もう大事な仲間やな”ってすぐに思いました。今ステージに立ってる全員は心の底から音楽を愛してると、胸張って言えます。難しいこと、複雑なことはたくさんあって、どうすればいいのか分からなくなります。正しいことなんてなくて、じゃあ自分の正しさを何で決めようという時に、俺は、音楽への愛情と熱意がある人とこれからも……いや、これから、ずっとやっていきたいと思っています。それが俺の“My Favorite Things”です。今日それを感じてもらえたつもりなんやけど、みんな、どう? ハッピーになってる? 心ん中、ワクワクしてるか?」

牧から投げかけられた言葉に観客が拍手で応える。さらに牧は続ける。今日ここにいる人みんな(観客)と俺たちは紛れもなく気が合うが、日常生活の中で再会することがあっても気づけないかもしれない、しかしどこかで繋がっているのだと。そんなMCを経て「今、俺たちの音楽を通して恩返しと……それと、俺たちの未来のために歌います」と届けられたのが「アメイジングレース」だった。他者に向けた愛に突き動かされる瞬間、個という殻・枠組みを越えて響き合った時のエネルギーを歌った楽曲が、今、7人で鳴らされることで輝きを増していく。見渡す限り、みんな全開の笑顔。どこまでもハッピーなテンションのまま「マジック」を鳴らし、本編を終えたのだった。

アンコール1曲目は、この日2曲目の新曲。そして「さあ、今日はサプライズが2つあります!」と来年1月から全国ツアーをまわることを発表すると、さらに「今日は僕たちの大事な友達が来てます!」(牧)とHump Backの林萌々子がサプライズ登場。彼女をゲストボーカルに迎えた新曲、「Two of Us feat. 林萌々子」が披露された。男女それぞれの目線から歌われるハートフルラブソングは、このライブの翌週、10月5日より配信リリース中。

この日最後のMCでは、本編中に喋るタイミングを逃した柳沢が、「本当に嬉しい気持ちでいっぱいです! みんなホントに来てくれてありがとう!」と改めて伝えた。そんな中、「終わりたくない!」と嘆いたのは牧で、「これはみんなとの次の約束。日本武道館2デイズやろうぜ。まだまだ夢を見て、旅を続けて、いい人生にしよう。な!」と新しい約束が結ばれる(その間、セイヤは観客に指ハートを送っている)。「今日という日は終わってしまうけど、ずっとみんなの心に残ってくれたらなと思います。最後まで一生懸命歌うので聴いてってください」(牧)と、ラストは「LIFE IS BEAUTIFUL」。《遠回りして やっとね 気づけた 君となら大丈夫》というフレーズが、最高の7人で鳴らし合ったこのライブの締めにふさわしい。全曲を終えたあとに明かされたのは、フィドルの手島がこのあと海外に行くとのことで、この7人でのライブはこれが最後になるかもしれないということ。そう話しながら泣き始める辺り、牧の涙もろさは2年前から変わらないが、その人間らしい熱さ、血の通った感じが生み出した祝祭の2時間半だったように思う。この温もりを抱きながら、私たち一人ひとりが日々を送り、暮らしとともに様々な物事を乗り越えていったその先で、次の約束は果たされるのだろう。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=西槇太一