新入社員の多くが3年で辞めてしまう、もはや常識ではありますが、なかには、しがらみの多い組織人という生き方を捨て、「非正規社員で悠々自適に生きていく」という選択をする人も。お金では買えない幸せを選んだ先には……みていきましょう。

20代の会社員「正社員、辞めました」は正解か?

——新卒で入った会社を3年で退職。非正規だけど、面倒なしがらみから解放されて快適!

そんな大卒・20代大卒男性の歓喜の声。古い世代の人間であれば「せっかく大学まで出たのに、もったいない」と考える人のほうが多いでしょう。しかし20代であればまだリカバリーも容易ですし、何よりも我慢を続けた結果、健康まで害するような事態になっては元も子もありません。退職して非正規で働くという前向きな選択は正解だったといえるでしょう。

厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』で、雇用形態別に大卒サラリーマンの給与でみていくと、20代前半・正社員で月25万5,100円、手取りにすると20万円ほど。一方、20代前半・非正規では21万1,100円、手取りにすると16万円ほど。月に4万円ほどの差ですが、年収では正社員341万5,500円、非正規で259万0,500円と、やはり賞与が多い分、正社員と非正規社員で100万円ほどの差が生じます。

正社員にしがみつく幸せか、それとも非正規でも面倒なしがらみとは無縁の幸せか。100万円程度の差であれば、低収入でも幸せであることを選択する人は多そうです。

では、正社員として我慢する人生か、それとも低収入だけど悠々自適な非正規を続ける人生か。給与面でこの先の人生を比べてみましょう。

正社員を続けていけば、30代後半で月収は40万円、50代には月50万円を突破し、年収はピークは800万円を超えます。定年退職時には平均して2,000万円の退職金を手にすることも。正社員の給与はスタートとピークで2~2.5倍程度に増えていくのに対し、非正規社員の給与の上がり方は非常に緩やか。ピークは同じ50代前半ですが、月収はわずか27万3,500円、年収では344万6,700円。給与は1.3倍ほどにしか増えません。

60歳までのトータルで比較すると、正社員にしがみついた人生では2億4,615万円。一方、大学卒業後、3年で非正規社員を選んだ人生では、1億2,308万円。約1億円、2倍もの差が生じます。ここまで差がついて、「悠々自適な人生のほうが良かった」といえる人は、少数派ではないでしょうか。

「低収入でも幸せ」は現役引退後も続く…それでも幸せといえる?

さらに「低収入でも幸せ」という選択をするのなら、「死ぬまで低収入でも幸せ」といえる覚悟があるか、熟考を重ねておくことがおすすめです。

現役を引退し、手にするのは公的年金。実際に手にする年金額は下記で算出されます。

国民年金

年金額×(保険料の納付月数÷480ヵ月)

厚生年金

■加入期間が2003年3月まで

平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数

■加入期間2003年4月以降

平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数

生涯、正社員にしがみついた人生であれば、厚生年金部分が「53万×5.481/1000×456」でおおよそ月11万円。国民年金が満額もらえたとしたら、月17万4,000円ほど手にできることになります。

一方、途中で非正規社員として悠々自適に暮らしてきた人生であればどうでしょうか。「26万×5.481/1000×456」で、厚生年金部分は月5.4万円ほど。国民年金が満額もらえたとして、月々12万円を下回る程度となります。

収入を得る手段が限られる老後。月に5万〜6万円ほどの収入差、これが一生、続くわけです。このような状況も加味し「低収入な幸せ」を選んだのであれば何もいうことはありません。年を重ねていけば、医療費は膨らんでいきますし、そのうち介護を必要とする日も訪れるかもしれません。高齢者というだけで賃貸住宅の審査は厳しく、住むところに苦労することも。低収入の高齢者がいかに厳しい生活を強いられているかは、いまの高齢者の暮らしぶりをみれば明らかでしょう。

お金がすべてというわけではありませんが、悠々自適な暮らしには、それ相応のリスクもあることを知っておくべきなのです。

(※写真はイメージです/PIXTA)