作家・森見登美彦の小説「四畳半神話大系」と、ヨーロッパ企画の代表・上田誠の戯曲「サマータイムマシン・ブルース」が“悪魔的融合”を遂げて誕生した「四畳半タイムマシンブルース」。そのアニメ版の最終話となる第5話が、10月12日に配信された。第5話が終わったところで感じたのは、まさしく“悪魔的融合”を遂げた作品だったということだった。もちろん、いい意味で。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】ウソのような本当のタイムマシンに群がる下鴨幽水荘のメンバーたち

■「四畳半タイムマシンブルース」のストーリーは…

京都・左京区のオンボロアパート・下鴨幽水荘が舞台で、主人公はバラ色のキャンパスライフを夢見ていた「私」、悪友の小津、そして黒髪の乙女・明石さん。12年の年月を超えて、「四畳半神話大系」の世界が記憶の中で鮮やかによみがえる。そこに、「サマータイムマシンブルース」のストーリーが乗っかってくる。

オリジナルは、とある大学のSF研究会の部室を舞台に、突如現れたタイムマシンを使って、壊れたクーラーのリモコンを“昨日”に行って取り戻すために奔走する物語。“タイムマシン”を使う、あるいは“タイムリープ”する作品で戒律のような形で禁じられているのが、“歴史を変えてしまう”こと。この物語でも、過去を変えてしまうことで現在が、もっと言えば“世界”が消滅してしまうのではないかと危惧し、必死で辻褄を合わせようと努力する。それでもやっぱりいるんです。そんなことを気にしない自由奔放なキャラが。この作品の場合、自由なキャラの方が多過ぎて、歴史修正は「私」と明石さんの2人にかかっているような感じに。

“昨日”と“今日”のキャラクターたちが入り混じり、混乱を極める中で、99年前に行ってしまって“伝説”を作った人物もいる。第5話は、そんなカオスな物語の帰結点となるわけだが、これが結構複雑で、理解するのに時間を要した。

一つは、この騒動のきっかけとなったクーラーのリモコンの行方。“昨日”、小津が飲み物をこぼしてダメになってしまったクーラーを、“今日”から“昨日”へとタイムスリップしてダメになる前のリモコンを救出したが、過去を変えると世界が消滅するので“昨日”へと戻そうとする。

無事戻せたと思ったら、それを羽貫さんが持ち出してしまい、“今日”ではない何処かへ。その経緯は第5話で年表のようにして「私」が説明しているので、ぜひそれを確認してもらいたい。今日を起点に、99年前に行ったり、25年後に行ったり、一番のタイムトラベラーは“リモコン”だった。明石さんがポツリと言った通り、“時をかけるリモコン”である。125年にわたるリモコンの生涯(?)は壮絶なもの。

第5話では、もう一つおかしな現象が起きている。それは、“昨日”に行った「私」が、タイムマシンを使わずに“今日”に自力で戻ってきたこと。実はずっと押し入れにいて、209号室で昨日起こったことを全て目撃して、そのまま今日になったということだが、そんなふうにして昨日から今日へと移動することは、時間の流れに身を任せたわけなので普通と言えば普通だが、瞬時には理解しづらい現象だった。

もう一つ、すっかりなじんでしまっているが、田村くんは25年後の世界からタイムマシンでやってきた未来人。未来の下鴨幽水荘に住んでるという、単なる“後輩”かと思っていたら、彼のカバンの中から出てきた“もちぐま”によって正体が明らかになった。

■時空を超えたドタバタ劇が“完結”

第5話の冒頭で、「私」が明石さんと最初に出会った時の回想シーンが流れたが、それが伏線になっていたとは。“もちぐま”は明石さんのお気に入りのキャラということで、田村くんは明石さんの息子。それを知った瞬間から、「私」が考えることは“誰が父親か?”ということだけ。「そんなこと言えるわけないじゃないですか。僕にだってタイムトラベラーとしての自覚はありますから」という田村くん( “田村”も偽名だと告白)。もっさりしたキャラだが、父親は誰なのか知りたくて食い下がる「私」に、「未来は自分で掴み取るものです」とかっこよく言い放った時の田村くんは間違いなく“イケメン”だった。結果的に、その言葉が「私」の後押しになったようだが。

この時間を超えたドタバタを、明石さんは“1冊の本”に例えて話していたが、確かに、読んでいる時は、その先のストーリー展開は見えてないので、いろいろと手を尽くしたところで、そうなる運命だったのかもしれないと納得してしまった。

そして、配信限定エピソードとなる第6話。これはまさしく「四畳半神話大系」の世界観で、原作にもあった「京福電鉄研究会」のエピソード。悪友・小津とのファーストコンタクトで“ワーストコンタクト”となった出会いがあり、小津がサークルの内紛を仕掛け、一旦は消滅したが、小津が原因だと判明し、サークルが復活するなど、小津の本性もしっかりと分かる内容になっている。

小津との腐れ縁を自覚するようになった頃、明石さんと出会う。第5話の冒頭で流れていた、あのシーンである。豪雪の中、何度も倒れながら進んでいく明石さんが落としていったものを届けて、そのキャラが“もちぐま”だということを知った運命的なシーン。

四畳半神話大系」の新エピソードかと思われたが、明石さんと出会ったことから物語は別の方向に動き出した。明石さんはアパートに頻繁に立ち寄るようになり、「作った映画が批評されました」と、「私」のところに相談にやってきた。映画サークルに所属し、ポンコツ映画を量産している明石さんは、「四畳半タイムマシンブルース」の中の明石さんである。「私」と明石さんと小津が夜道を歩きながら話している中から、第1話で撮影していた映画のアイデアが生まれる瞬間が描かれていたりして、気になっていた細かい部分がすっきりと解決できる“前日譚”だった。

全く別の世界の出来事だと思って見ていたら、気付いたら「四畳半タイムマシンブルース」へとつながる重要なエピソードになっていた。第6話を見てしまったら、その“続き”となる第1話をもう一度見たいと思う気持ちが強くなり、無意識のうちに第1話を再生。そういうふうに無限ループさせるところも“悪魔的”だと言えるだろう。ぜひ2巡目も楽しんでもらいたい。

なお、「四畳半タイムマシンブルース」は現在ディズニープラスで配信中。9月30日から3週間限定で全国の映画館でも公開されている。

◆文=田中隆信

「四畳半タイムマシンブルース」配信限定エピソードより/(C)2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会