「あまり柔軟性がなくて頑固なんですよね」と以前のインタビューで自身について語っていた女優の清原果耶。それでも、真摯(しんし)に作品に向き合う清原の姿勢は多くの共演者や監督たちを魅了し、作品へのオファーは後を絶たない。最新作の映画『線は、僕を描く』では、『ちはやふる ‐結び‐』で作品を共にした小泉徳宏監督と再タッグを組んだ。清原演じるヒロイン・千瑛(ちあき)は、水墨画の巨匠を祖父に持つ新進気鋭の若手。自身の感情が大きく作品に影響を及ぼすという水墨画。撮影を通してしっかりと自分の心に向き合うことの大切さを痛感したという清原は、“頑な”だと自覚していた自身の心とどのように向き合って日々を過ごしているのだろうか。

【写真】清原果耶、りりしくも柔らかい雰囲気をまとう横顔が美しい

■小泉監督との再会、初心に戻れた作品との出会い


――今作は、水墨画を通して若い男女が自身と向き合いながら成長していく物語ですが、台本を読んでどんな印象を持ちましたか?

清原:「小泉監督や(横浜)流星くんとまた一緒に作品を作れるんだ、うれしいな」という気持ちで。台本を読み終えた感想は、とても美しい映画になれば…という思いでした。

――『ちはやふる -結び-』以来、約4年ぶりの小泉監督とのお仕事。今回の現場で印象に残っていることはありましたか?

清原:小泉監督から「ヒロイン感」を大切にしてほしいと言われました。千瑛は最初の登場シーンから少しツンケンした強めな感じだったのですが、そこに少女味というか「思春期でバランスがとれていない儚(はかな)さみたいなものが混ざればいいよね」という話をしました。

――清原さん自身、これまでも何度かヒロインを演じていますが、“ヒロイン感”という言葉はピンときましたか?

清原:まったくきませんでした(笑)。正直「ヒロイン感ですか?」となりました。でも見た目とかではなく、心持ちというか、刺々しい中にも、どこかかわいらしさをにじませよう…という感じを表現できればと思って演じました。

――水墨画を体験して、どんなことを感じましたか?

清原:この作品で初めて水墨画というものに触れましたが、とても難しかったです。自分の気持ちが線に出るというか、自信がないとそれも写ってしまうので「マズイ」と思いながらやっていました。でもその分、やればやるだけ結果が出る(水墨画が)好きです。

――自分が描いた水墨画には、どんな線が出ていると思いましたか?

清原:自分では分からなかったのですが、指導いただいた先生からは「かわいらしい見た目をしているのに、とても大胆な線を描くね」と言われました。描いている時は緊張していたので、意外な言葉だと思いましたが、考えてみると「いいや、やっちゃえ」と、割と開き直って大胆になることも多いので、そういう部分が出ているのかなと思ってすごくおもしろかったです。

――いろいろな出会いがあった作品なんですね。

清原:そうですね。作品を見終わった後は、すごく疾走感に飲み込まれたような感覚になりました。1つのことに向き合う大切さを改めて感じられ、初心に戻れたような気がします。私自身も背中を押してもらえたような感覚でした。

■役を通して新しい自分を見てもらう楽しさ 「新しい自分を見て喜んでいただけるかも」


――先ほど水墨画の先生から「大胆」という言葉をもらったと話していましたが、自覚しているパブリックイメージと自身のギャップに違いがあると思いますか?

清原:よく「おとなしそうだね」とか「クールで大人っぽいね」と言っていただくことが多いのですが、全然そんなことはなくて(笑)。マイペースですし、割とてんやわんやして、感情表現が豊かな方だと思います(笑)。

――役によってイメージがガラリと変わるのも俳優のお仕事のおもしろさでもあり、怖さでもありますよね。

清原:そうですね。お仕事を頂くたびに、見る方はどんな風に思うんだろうなということは考えます。これまで明るい役を演じる機会が少なかったから、そういう役に挑戦したら喜んでいただけるのかな…とか。その意味で、役柄の幅を増やしていけたらなと思っています。

――もしかしたら変なイメージがつくかもしれない…と、および腰になってしまうことはないですか?

清原:あまりないですね。役のイメージを持ってもらえるというのは、それだけ作品を夢中になって見ていただけたということだと思うので。やっぱり役名で覚えてもらえるのはうれしいものです。例えば『おかえりモネ』に出演したとき、いろいろなところで「モネちゃん」と声をかけていただけて。これからもそういう機会に恵まれたらうれしいです。

■デビュー作で衝撃の出会い! 「宮崎あおいさんの芝居に惹きつけられました」

――劇中、横浜流星さん演じる霜介(そうすけ)は、千瑛の水墨画を見て心を奪われます。清原さんは一瞬にして心が奪われてしまうような出会いはありましたか?

清原:ドラマ『あさが来た』に出演した時に、宮崎あおいさんのお芝居を間近で見る機会がありました。当時中学2年生だったのですが、初めての現場で何がOKなのか、どうやって感情を持っていったらいいのか、まったくわからなくて。そんな時に宮崎さんの涙を流す演技を見て「本番中なのに泣いちゃう!」と。それぐらいの吸引力というか、惹(ひ)きつけられるものがあったのを今でも思い出すくらい衝撃的な経験でした。

――初めての現場でそんな体験ができたんですね。

清原:そうですね。ラッキーだったと言ってしまうと軽く聞こえますが、本当に幸運でした。これまでも映画を見て泣いてしまうことはありましたが、あそこまで感情が動く瞬間を自分で体感できたことはなかった。お芝居ってすごいな、こんなに人を惹きつけるんだ。この仕事を続けていきたいなと思いました。

■「頑な」と「柔軟」のバランス 「自分の気持ちと周囲の思いのバランスを考えて」


――劇中、水墨画には「技術や才能じゃない何かがある」というセリフが出てきます。お芝居にも通じるものがあるのかなと感じたのですが。

清原:私はとにかく考える癖があって。役柄についてもしっかり考えたい一方で、時に現場で生まれる直観みたいなものが大切だとも感じています。なので、そんな時は監督としっかりコミュニケーションを取りたいなと。ただ、自分の考えだけだとどうしてもエゴになってしまうので、そのバランスを取ることが難しいですね。

――以前「頑固なところがあるので、視野を広く持ちたい」と話していましたが、その辺りは変化してきましたか?

清原:10代の頃よりは、いろいろな人と関わる機会も増えているので、お話しをするたびに「この人にはこういう考え方があるんだな。覚えておこう」みたいな選択肢はどんどん増えていると思います。その都度「こうした考えの方がいいのかな」と思うので、少し柔軟になってきているのかなと。

――それは大人になったということでしょうか?

清原:難しいですね(笑)。いま柔軟になってきたかも…と話しましたが、すべてにおいて柔軟になる必要はないだろうという思いもあって。まだ人生経験が浅いので何とも言えませんが、独りよがりにならず、かといってすべてを受け入れるわけでもなく。しっかり自分の気持ちと周囲の思いのバランスを考えていきたいです。

 「考えることはやめたくない」と話す清原。 “考える”からこそ、悩みもある。それでも現場で感じる直観と考えたことがマッチした瞬間が、本作で言うところの「技術や才能ではない何か」が生まれる瞬間なのかもしれない。「お芝居を楽しめています」と笑顔で語る清原は、悩むことも楽しんでいるように見える。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)

 映画『線は、僕を描く』は10月21日公開。

清原果耶  クランクイン! 写真:松林満美