10月16日に放送された「日曜日の初耳学」(MBS/TBS系)の「インタビュアー林修」コーナーに、女性脳神経外科医として世界一の手術数を持つ脳神経外科医・加藤庸子さんが登場。林修のインタビューに答え、世界の脳医学分野をけん引するスーパードクター・加藤さんが医療の現場で貫く信念が明らかになった。

【写真】林先生に飛躍を支えた“聞く力”について語った松坂桃李

■「医学史上最高の女医の一人」

愛知県内の病院で脳神経外科医として働く加藤さん。くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤“クリッピング術”のスペシャリストとして知られ、「医学史上最高の女医の一人」とも称賛される医学界のレジェンドだ。

一般的な脳外科医が年間に30件の手術を行うところ、加藤さんが手掛ける手術数は年間150件にものぼり、これまで行った手術は3000超。その件数の多さは、この日の収録スタッフの中に「加藤先生に家族を助けていただいた」という人が二人もいた、という事実からもうかがい知ることができる。

中でも加藤さんが得意とする“クリッピング”と呼ばれる技法は、脳の動脈にできた瘤(こぶのようなもの)にクリップをかけることで、破裂を防ぐもの。使用するクリップは、約160種類もの中から動脈瘤の根元の形にあわせて選別しているという。

■「できるだけ私の手で助けたい」

多数の手術を抱え、ただでさえ多忙を極める加藤さんだが、名刺にはなんと自身の携帯電話番号も載せ、24時間いつでも患者から直接連絡が取れるようにしている。

林先生が「なかなかできないことですよ。大変じゃないですか?」と尋ねると、加藤さんは「患者との間の歴史がありますので、できるだけ私の手で助けてあげたい。電話って、かけたい時が“返事が聞きたい時”だと思うんですよね。だから私は手術中でも、もし差し支えない時間帯であれば電話に出るようにしています」と、名刺に番号を記載することへの思いを口にした。

実際、収録中にも次々と患者から着信が。世界的権威となった今も“患者に寄り添い、安心を与えることが医療の基本”という信念を持ち続ける加藤さんに、スタジオからも驚きと感嘆の声が上がった。

■「日常苦しんでいるところを掴まなきゃ意味がない」

さらに、加藤さんは40年ほど前から、過去に担当した同じ症状の患者たちを集めたバスツアーも定期的に企画しているという。

「(手術後、診察に訪れる患者さんは)『何も悪くないです』とおっしゃる方も多いんですが、実際に旅行をして階段やバスの昇降をやってもらうと全然ダメなんです。そういうところで、その患者さんが日常苦しんでいるところを掴まなければ意味がない、と。“(待ち時間ばかり長くて診察があっという間の)3分診療”ではダメなんだよ、ということのために一晩泊まって。そうすると、半身まひの人が何を困っているかってことが分かるんです」と、バスツアーの狙いを語った加藤さん。

また、手術から3年、5年、7年と経過した患者がともに時間を過ごすことで「今の私は大丈夫なんだ」「3年たったらこうなるんだ」と感じ、安心を得られることも、加藤さんがバスツアーを企画し続ける理由の一つだという。

■いい医師の条件「心のケアが大事」

加藤さんの医師としての活動は日本国内にとどまらず、発展途上国へ医療技術を教えに行くなど世界にも広がっている。費用は自ら負担し、多い時は年間20カ国を訪れることも。驚く林先生に、「それを仕事と思うかどうかですよね。若い人たちを育てることはいいことだと思っています」と加藤さんは言う。

「先生が考える良い医師の条件は?」という質問に、加藤さんは「当たり前のことですが、あの先生の所に行ったら治るってことですよね。ただ、治す力の中には技量や知識、それだけじゃなくて心のケアが大事かなと思いますね。そういうことも大きく含めた治療ができる医者がいい医者じゃないのかな」。

目の前の患者をしっかり見つめ、寄り添う加藤さんの医師としての強い信念に打たれた林先生。「生きる、働く、人の役に立つっていう3つがこんなにきれいに一本で通っている方っていうのはほとんどいないんじゃないかな。うん、何も言葉がないですね」としみじみ語った。

「日曜日の初耳学」にスーパー脳外科医の加藤庸子さんが登場した/ (C)MBS