住宅ローン返済時は、経済環境の少しの変化で家計が崩壊してしまう「破綻予備軍」になりがち。そうならないためにも「収入を増やすこと」が重要です。本記事ではさまざまある「収入を増やす方法」のうち「投資」の有効性について考えていきます。

 住宅ローンの返済で陥る「破綻予備軍」

住宅を買うと、それまでの賃貸暮らしのときとは家計の収支が大きく変わってしまいます。住宅ローンの返済額は家賃よりも高くなることが一般的で、居住スペースが広くなる分、光熱費も上昇します。固定資産税や火災保険などの維持費も必要です。 そのうえ、子供の教育費や自動車ローンもあれば、毎月の生活感覚は非常にタイトなものになります。

住宅ローンを借りると、少しの経済環境の変化で家計が崩壊してしまう「破綻予備軍」になる傾向があります。 住宅を購入した世帯の感想としていうことのナンバーワンは、「貯蓄が出来なくなった・貯蓄できる額が少なくなった」です。

このままでは10年後に屋根と外壁の塗り替えをする費用も貯まらないのではないか、子供が大学進学は奨学金を借りてもらうことになるのではないか、ひいては老後の生活は年金頼みの貧しいものになるのではないかと不安になっている方が非常に多いのです。

お金の不安は「投資」ですべて解決できる?

家計への漠然とした不安のなかで、多くの方が思いつくのが「投資をしてお金を増やしたい」というものです。SNSなどで頻繁に投資の話題をみかけるので、家計の余裕を持つためには投資をすべきだと、さほどの計算もなく考えてしまうのかもしれません。

ハウスメーカーで紹介されたファイナンシャルプランナーに「投資をすれば家を買っても大丈夫です」などという言葉で変額保険や投資信託を勧誘され、厳しい家計をより厳しく追い込む世帯は最近増えています。 つみたてNISAやiDeCoへの関心も非常に高いのですが、投資に関する筆者の意見をはっきりと申し上げます。

「毎月わずかなお金をつみたてNISAやiDeCoに投じても、お金の不安が解決するほど劇的に資産は増えません」

つみたてNISAの年間の購入額の限度(非課税投資枠)は40万円、iDeCoは会社員の場合月23,000円です。年数にもよりますが、これだけを積み立てたところで十分な老後資金を形成するのは困難でしょう。これらは節税メリットを含めて、資産形成の手段の一部として取り入れるべきものです。

まして年間40万円も投資に回せる余裕などない家が地方都市ではほとんどです。仮に無理をして積立投資にお金を回したとしても、年利2~3%の自動車ローンを利用していたら、投資の意味がなくなります。そのような自転車操業の家計では投資をするだけでお金の問題が解決することは絶対にありません。

家計に余裕のない世帯がまず考えるべきことは、シンプルに「支出を減らす」ことです。その次に「収入を増やす」ことでしょう。投資を考えるのはその次です。

収入を増やすための現実的な方法

会社員世帯が収入を増やすための方法は、いくつか考えられます。

・副業(自分でビジネスをする)

・ダブルワーク(アルバイトなどで時給を稼ぐ)

・転職する、昇進する

・妻がパート勤務の場合、フルタイムで働く

このなかでは副業を持つことが最も現実的でしょう。特に40歳以上の会社員の方には選択肢のひとつとして提案することがあります。 ただし20代の方には副業はお勧めしません。家計が苦しいのであれば支出の改善が優先です。20代は本業の知識経験を積み上げるべき時期であり、副業に時間を費やすべきではないと思っています。20代の時期の頑張りで昇進、昇給も期待できるため、副業は避けるべきでしょう。

しかし厳しい言い方にはなりますが、40歳を超えると会社員としての将来が良くも悪くもみえてしまいます。もう昇進は期待できないな、転職しても収入が上がることはないな、と見極めが出来てしまうのです。 40歳を超えたら会社員としての責任を果たしつつ、副業で収入を上げていくことを考えても悪くありません。

勤務先で兼業を許可されているかを確認

従業員が兼業することを許可する企業は、大手を中心に増えている傾向です。推進はしないが条件付きで許可するというスタンスです。 一方で例外なく許可しない企業は多くあります。それはなぜでしょうか。

・副業が本業の隣接業界である場合、利益相反の危険がある

・本業の顧客からの信用を失う

・労働時間や健康状態を管理できない

などの理由が挙げられます。たとえば本業と競合関係にある企業の代理店になると利益相反の状況になります。これが本業の顧客に発覚した場合、深刻な信用問題が発生する危険があります。 また、ネットワークビジネスなど社会的評価を得るのが難しい副業を始め、本業の顧客や 取引先に対して勧誘を始めたらどうなるか、想像に難くありません。

副業による過労によって本業での就業中に倒れた場合、責任の所在を明確に出来なくなります。 不動産投資のように大きな借入をレバレッジして稼ぐ方法では、もし自己破産に追い込まれると法律で本業の業務を制限されることもありえます(警備員、生命保険募集人、宅地建物取引士など)。

このようなリスクを避けるために多くの企業は兼業を許可しないのです。 副業をする場合は、勤務先に詳細を伝え許可を取ることが必要であるのはいうまでもありません。無許可で副業をする人のほうが多いのが現実ですが、本業を失ったら本末転倒です。

副業で実際いくら稼げている?

株式会社パーソル研究所による調査によると、副業での収入の平均は月6.82万円です。 あくまでも平均値であり中央値ではないのですが、想像以上に多いという印象です。約7万円は住宅ローンの毎月の返済額の半分以上であると考えると、その金額の多さに驚きます。

 ちなみにどのような副業に就いているのでしょうか。 弊社の相談者で副業をしている人たちを調べてみると、YouTubeでの広告収入、ブログなどでのアフィリエイト、宅配、不動産投資、時給でのアルバイト、営業代行、せどり、スキル販売(デザイナー、プログラミングなど)、オンラインサロン、物販、コンサルティングなどが挙げられます。農業など家業の手伝いもあります。 時間の制約と体力面の問題を考慮すると、ウェブ上で活動できるものが多い印象です。

副業で得た収入の有効的な使い道

副業で稼いだものを生活費で使ってしまったらあまり意味がありません。その副収入の使い方をよく考えてみましょう。 年間200万円稼げる副業を15年間継続したら、金利ゼロでも3000万円を貯められる計算になります。いま40歳の会社員であれば、資産運用をしなくても55歳の時点で3000万円の試算を持つことが出来るということです。

しかし、もっと有効な使い方はないでしょうか。 住宅ローンを借りている人は、一部繰上げ返済に利用するのはどうでしょうか。繰り上げ返済によって節約できた利息も、れっきとした「利益」であり「資産運用」です。

あるいは、毎年200万円の半分を投資に回し、残り半分を現金での貯蓄にしてもいいかもしれません。さほどの運用成績がなくても少しでも増えれば十分でしょう。現金での貯蓄も多く持つことで家計のキャッシュフローが安定します。現金によって万が一のときの生活費が確保されているので、精神的な安心も得ることが出来ます。急な出費にも余裕で対応できます。

副業によって生み出した収入を投資と貯蓄に回すことが出来れば、家計は将来にわたって劇的に変化します。

家計のキャッシュフローからみた「積立投資の弱点」

資産運用だけで15年後に3000万円の資産を形成する計算をしてみると、毎月10万円を年利6.5%で積み立てると15年で約3000万円になります。こういう計算は迫力があり、魅力的に感じる人も多いかもしれません。

しかし毎月10万円ものお金を投資に支出すれば、キャッシュフローは悪化します。いますぐ使える貯蓄が少なく、車検代や屋根外壁のメンテナンス費を支払うのも困難になるでしょう。自動車の買い替えもローンを利用せざるを得なくなり、高い利息を払うことにもなります。 ましてや世帯年収が低いのであれば住宅ローンを返済しながら毎月10万円を投資に回すのは現実的ではありませんし、わずか15年で6.5%もの運用成績を前提にしていいのか疑問です。

現在の収入から毎月数万円を投資に回しても、家計が苦しくなるだけで大きな資産を形成するのは難しいでしょう。 資産運用するためにはそもそも投資に回せるだけの収入をあらたに確保する必要があります。それを副業で実現すると考えてみたらいかがでしょうか。

単に収入を増やすためだけではない副業

かつて会社員とは会社の意向に沿って人生を左右されてしまう存在でした。望まない転勤、懲罰的な配置転換、従業員同士の競争、出世争い、派閥抗争などに常にさらされていたと思います。収入をひとつの仕事から得ているため、我慢するか転職するかしか選択肢がなかったのです。 この状態では勤務先の狭い世界での価値観に染まってしまいます。

筆者も会社員時代に経験がありますが、会社の外では一切通用しない価値観を、常識とばかりに押し付けてくる上司もいるでしょう。かつてはそれに染まることが「努力」のひとつでした。相当なストレスを感じて働いたものです。

副業はこういう旧来の働き方を見直す機会になります。副業という自分のビジネスを持つことで、経営者としての感覚に目覚めていきます。本業の仕事だけでは知らなかった多様な価値観に触れることも出来ます。身銭でトライ&エラーを繰り返すため、ビジネス感覚も研ぎ澄まされていきます。

また副収入を持つことで、職場のなかでの競争を冷静にみることも出来るかもしれません。虚栄心や承認欲求だけで無理な営業をしたり、コンプライアンスに違反するような行動をしたりする誘惑がなくなります。そのことが結果的に、本業の仕事に誠実に向き合うことになるため、健康に会社員生活を送ることが出来るかもしれません。 副業をお金だけでなく、生き方の幅を広げる目的でも取り入れてみてはいかがでしょうか。

長岡理知

長岡FP事務所

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)