“ワールドカップイヤー”はサプライズが起こりやすい状況にある。代表入り当落線上の選手が積極的に移籍をしたり、一方で定位置を確保している選手は新天地への挑戦を控えたりと、移籍市場に異変が起きやすい。とりわけ今シーズンは番狂わせの条件が揃っている。
 
 ワールドカップの冬期開催により欧州カップ戦がいつになく過密日程となっており、いわゆる強豪クラブが苦戦を強いられやすい。現にドイツブンデスリーガでは、日本代表MF原口元気が所属するウニオン・ベルリンが、彼らもヨーロッパリーグに出場しているのだが、快進撃で首位を走っている。
 
 そして、フランスリーグ・アンでも“異変”が見られる。その異変の主人公となっているのが、フランス北西部の人口5万5000人ほどの港町、ロリアンを拠点とするクラブだ。彼らは、今季ここまで11試合で8勝2分け1敗。既に昨シーズン終了時の勝利数「8」に並んでおり、勝ち点26を稼ぎ出して2位に着けている。首位を走るスター集団のパリ・サンジェルマンとは、わずか3ポイント差なのだ。
 
 それでは、ロリアンとは一体どんなクラブなのか? 彼らについて“知っておきたい5つのこと”をまとめてみた。

[写真]=Getty Images
 

◆■メルルーサって何?


 ロリアンは、港町というだけあって造船業で知られるが、漁業も盛んだという。そんな町で1926年に誕生したのが「ラ・マリー・スポーティヴ」というクラブだ。「マリー」というのはフランス語で「潮」を意味するほか、「漁」という意味でも使われるそうだ。すぐにクラブ名は現在の「FCロリアン」に改称されたが、今でもチームの愛称やエンブレムには「漁」の名残がある。
 
 クラブの愛称は「Les Merlus」。これはメルルーサという白身魚のことで、日本では捕れないようだが冷凍輸入されて白身フライとして私たちの食卓にも並んでいるそうだ。そしてクラブのエンブレムには、この「メルルーサ」のイラストがあしらわれているのだ。
 

◆■グルキュフ

 
 FCロリアンを語る上で欠かせないのは最大の功労者であるクリスティアン・グルキュフ(67歳)だ。ミランリヨンプレーし、日本でも“イケメン選手”として話題になった元フランス代表MFヨアン・グルキュフの父親と言った方が分かりやすいだろうか。ロリアンは1978年に経営破綻となり、6部リーグから再出発を強いられたのだが、そのチームを見事に復活させたのがクリスティアン・グルキュフなのだ。1980年代に選手兼監督としてロリアンを率いると、チームを5部から2部まで連続で昇格させたのだ。
 
 グルキュフは現役引退後も2度に渡ってロリアンの監督を務め、合計で四半世紀もチームを指揮した。だが皮肉なのは、ロリアンがクラブ史上唯一の主要タイトルであるフランスカップを制したのは、グルキュフがクラブを去った翌年の2002年のことだった…。
 

◆■近年の成績


 前述のフランスカップを除けば、ロリアンには輝かしい実績がない。これまでリーグ・アンでの最高成績は2009-10シーズンの「7位」。何度か降格も経験しているクラブで、最近では2017~2020年まで2部リーグで過ごしていた。そして2020年にリーグ・アンに復帰したものの、直近2シーズンは連続で16位。上位を目指すというより何とか残留するのが精一杯というチームだったのだ。
 
 昨シーズンは、残り5試合で1勝もできずに入れ替え戦プレーオフに回る危険もあったが、何とか踏みとどまって16でフィニッシュ。その結果を受けて3年間チームを率いていたクリストフ・ペリシエを解任。そしてBチームからレジス・ル・ブリ(46歳)という監督を引き上げたのだが、これがターニングポイントとなった。
 

◆■新監督の快進撃

 
「ロリアンの町の外で彼を知るものはほとんどいなかった」。リーグの公式HPの記事にそう綴られるほど、レジス・ル・ブリは無名の指導者だった。現役時代はレンヌでプレーした経験を持つそうだが、至って平凡な選手だったという。27歳で現役を退くと、その後は指導者の道に。古巣レンヌの下部組織でコーチを務めたあと、10年前の2012年にアカデミーの指導者としてロリアンにやってきた。
 
 そして2015年からBチームの監督も務めるようになった。彼がアカデミーの責任者を務めている間にロリアンは何名か有名な選手を輩出している。一人はリーズの守護神を務めるGKイラン・メリエ(22歳)。そして、もう一人はアーセナルに引き抜かれ、現在はマルセイユで活躍しているフランス代表MFマテオ・ゲンドゥージ(23歳)だ。
 
 そんな育成のスペシャリストであるル・ブリの元、今季ロリアンは快進撃を見せているのだ。前任者のペリシエは3バックや5バックを用いることもあり、守備的で流動性の少ない手堅い戦い方でカウンター攻撃が主流だったそうだ。だが新指揮官は、そこにダイナミズムを上手く加えた。ウィンガーのダンゴ・ワタラ(20歳)や攻撃的MFエンゾ・ル・フェー(22歳)といった、ロリアンのBチームを経験してきた若手に積極的な攻撃を許しているのだ。
 
 さらに、今季既にリーグ戦で8ゴールを叩き出しているエースのナイジェリア代表FWテレム・モフィや、控えFWイブラヒマ・コネなども23歳。育成指導の出身というだけあって、ル・ブリは若手選手の才能を引き出す術を心得ているのだろう。そのため、今季も平均ポゼッション率は42パーセント程度に留まりながら、前線のタレントがスキルとスピードを駆使して相手ゴールに襲い掛かっているのだ。
 

◆■「1001倍」?

 
 過去にリーグ優勝の経験がなく、前年度は残留争いに巻き込まれ、ポゼッション率にこだわらず高速カウンターでゴールを奪う。そう聞くと、近年のスポーツ史において“最大の番狂わせ”と称される、あのチームが思い出されるはずだ。
 
 岡崎慎司ジェイミー・ヴァーディエンゴロ・カンテリヤド・マフレズといった選手を擁してプレミアリーグを制した2015-16シーズンの“ミラクル・レスター”だ。あの時は、彼らの優勝オッズが話題になったのを覚えているだろうか? レスターの開幕前の優勝オッズは「5001倍」! 冗談で1000円でも賭けていようものなら、500万円の配当金を得ることができたのだ。
 
 そうなると気になるのが現在2位につけるロリアンの優勝オッズだが、開幕直前の『ウィリアムヒル』社のオッズは「1001倍」。アジャクシオなどと、並び最下位のオッズだったのだ! 一攫千金のチャンスを逃した…肩を落とす必要はない。実は、現在でもロリアンの優勝オッズはそれなりに魅力的なのだ。2位に着けながらもオッズは6番手の「101倍」。リーグ・アンにはパリ・サンジェルマンという絶対的君主がいるため、ブックメーカーも強気なオッズを付けているようだ。
 
 果たしてロリアンは“ミラクル・レスター”以来の奇跡を起こすことができるのだろうか?

(記事/Footmedia)

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