相続には十人十色の事情があり、場合によっては家族や親族同士の関係を壊してしまうこともあります。そうした事態を避けるためにはどうすればよいのでしょうか。相続に必要な知識や相続を円満に進めるコツについて、相続・終活に関する情報を発信するwebサイト『円満相続ラボ』の記事から、一部編集してお届けします。

「相続」の定義

前提として、相続とは、個人が死亡した場合に、その者の有していた財産上の権利義務をその者の配偶者や子など一定の身分関係にある者に承継させる制度のことです。この場合、財産上の権利義務を承継される者のことを「被相続人」といい、これを承継する人を「相続人」といいます。

遺産とは、亡くなった人が残した財産のことを指す言葉です。

相続時に最低限行うこと、確認することとしては、戸籍の収集を行い相続人を確定することです。また、遺産に土地や不動産がある場合は、不動産登記の内容を確認することも大切です。

どのようなモノが相続の対象となる?

相続には大きく分けてプラスの財産とマイナスの財産の2つがあります。

【プラスの財産】積極財産とも呼ばれる

  • 不動産関連:宅地、山林、倉庫、駐車場などの所有と管理の権利、その他建物の借地権、地上権など
  • 動産関連:車、家具など家庭用財産、事業運営に必要な器具、機械などの事業用財産など
  • 金融関連:現金、預貯金、国債、証券、株券など
  • その他、相続人のプラスとなる積極財産の例:電話加入権、ゴルフ会員権など

【マイナスの財産】消極財産とも呼ばれる

  • 買掛金
  • 借入金などいわゆる「借金」
  • 保証金、預り金など「保証債務」
  • 所得税、住民税など「未払いの公租公課」
  • 家賃、医療費、光熱費など各種「未払金」

プラスの財産のうちの非課税財産

お墓や仏壇、仏具、寄付財産、非課税限度額内で相続人が受け取る生命保険、死亡退職金は非課税の財産となります。

その他にも、国家資格や身元保証人としての地位、生活保護受給資格などに代表される、被相続人の一身専属権、死亡退職金、保険金のような受取人固有の財産、家系図や位牌のような祭祀に関する財産は非課税の財産になります。

逆に、課税の対象となる財産は、被相続人が相続開始の時に有していた土地、家屋、立木、事業(農業)用財産、有価証券、家庭用財産、貴金属、宝石、書画骨董、電話加入権、預貯金、現金など金銭に見積もることができる経済的価値のある全ての財産などです。

どのようなヒトが相続の対象となる?

法定相続人になる人は、配偶者と血族(血縁関係にある人)の2種類があります。血族は、子供、直系尊属(父母、祖父母、養父母)兄弟姉妹がそれに当たります。

相続にはいくつかの種類がある

相続の種類に関して解説していきます。

被相続人が知っておくべき種類

【遺言による相続】

遺言書がある場合に、法定相続よりも遺言書の内容が優先される相続方法です。

【遺産分割協議による相続】

相続人全員で遺産分割の協議を行った上で分割する相続方法です。遺言書がない場合に遺産分割協議を行います。相続人全員で話し合い、全員が納得したら遺産分割協議書を作成して遺産分割をします。

この遺産分割協議書には、法定相続人全員の押印が必要です。

【遺産分割調停・審判による相続】

遺産分割協議で全員の納得が得られない場合に家庭裁判所へ申し立てを行い、合意を目指す方法です。なお、遺産分割調停でも合意できない場合は、強制力のある遺産分割審判に移行します。

相続人が知っておくべき種類

【単純承認】

プラスの財産もマイナスの財産も含めて相続することで、借金も含めて相続することです。単純承認を行う場合、手続きを行う必要はありません。

【相続放棄】

プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継がない相続方法のことです。

【限定承認】

プラスの財産のみ相続する。またプラスの財産、マイナスの財産(借金など)がはっきりしない場合はプラスの財産の範囲内でマイナスの財産(借金など)弁済すればOKなので、限定承認を行っておけば安心です。

※ 一度、単純承認が認められてしまった場合には、あとで限定承認や相続放棄を選択することはできません。

※ 手続き期限は相続が発生してから3ヵ月以内です。

【初めての相続】手続きの際には何をしたら良い? 手順をわかりやすく解説

相続の発生から相続が完了するまでの一連の流れを解説します。

被相続人が実施しておくべき相続手続き

  • 遺言書を書く
  • 相続人への付言(想いを伝える)
  • 現預金の確認
  • 負の財産の有無
  • 認知や養子の有無

上記に挙げたこと、そして生前から相続について話をしておくことや、相続人間でコミュニケーションを取ることが大切です。

相続人が実施すべき相続開始からの手順

【相続が発生してから3ヵ月以内】

  • 遺言書の有無の確認
  • 相続人の確定(法定相続人の確定)
  • 相続選択(単純承認、限定承認または相続放棄)

【相続が発生してから4ヵ月以内】

  • 遺言書の検認(公正証書以外)
  • 相続財産の調査、評価(相続する資産、債務の把握)
  • 確定申告所得税確定申告を行う必要がある)

【相続が発生してから10ヵ月以内】

  • 遺産分割協議(遺言書がない場合)
  • 相続手続き(不動産登記、有価証券等の名義変更)
  • 相続税の申告、納付
  • 相続税は、相続、遺贈などによって得た財産が基礎控除額を超える場合必要)

相続初心者によくあるミス。注意すべきこととは

相続手続きをする際に初心者が陥りやすいミスを紹介します。

被相続人が相続手続きをする際の注意点

遺言とは、法律上は(いごん)と読み、被相続人の最終の意思表示のことを表します。

その人の死が最も時間的に近接した時点でした意思表示という意味で、「死の間際」である必要はありません。

自分で築いてきた財産の帰趨(落ち着くところ)を、ある程度ご自身の遺志に沿った形で相続人に分配することができます。遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人が保有する権利なので、被相続人の遺産から最低限の取り分として一定割合を確保するものです。

例えば「全財産を長男に相続させる」といった遺言があった場合でも、法定相続人のうち兄弟姉妹以外は遺留分を主張することで一定の財産を受け取れます。2019年7月以降に発生した相続から、遺留分をお金で請求できるように民法が改正されています。

改正前の遺留分の請求は「遺留分減殺請求権」によって遺産自体を求めるものでしたが、遺産そのものを請求すると、不動産など分割できない財産を共有名義で保有するケースが発生します。これにより事業承継に支障が生じたり、共有名義の解消のために新たなトラブルが生じる問題があります。

金銭で請求できる「遺留分減殺請求権」が見直されたことで、相続後しばしば起こっていた親族の争いが緩和されたと言えるでしょう。

しかし、被相続人に相続人が複数いる場合で、相続財産が不動産や分割できない資産が大半占める場合の対応には、それに見合った金銭面での準備が必要です。

そこで、その対価を個々の受け取りが指定できる生命保険で準備するのも1つの方法です。

※ 遺留分減殺請求とは、遺留分を侵害された者が、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件の返還を請求することです。しかし、当事者で話し合いがつかない場合は調停手続を利用することが出来ます。

相続人が相続手続きをする際の注意点

相続の期限は相続が発生してから10ヵ月です。しかし申告、納付したから安心ではありません。

相続税の申告をした場合は2〜3年経った後に税務調査が入ることがあります。調査の内容により過料が発生する場合があるので下記内容を確認してください。

  • 延滞税(相続期限10ヵ月以内に間に合わなかった場合)
  • 過少申告加算税(実際の相続財産より少なく申告していた場合)
  • 無申告加算税(正当な理由なく申告期限に遅れた場合)
  • 重加算税(財産を意図的に過少申告していたと判断された場合)

上記の起こりえることも踏まえ、相続税の申告には税務署に、申請期限の延長申し立ても出来ます。申告期限2ヵ月は延長できますので、時間をかけてミスしないよう、正確な申請をすることがおすすめです。

法定相続人を確認するのに戸籍の収集を行いますが、亡くなった方が再婚してたり、認知している子がいたり、存在すら知らない相続人が、戸籍では出てくる場合があります。役所の記載ミスもまれにあるので、専門家の方に戸籍の確認をしていただくのもいいでしょう。

実際、戸籍に氏名があり認知されてると思っていて遺産分割協議に参加していた方が、相続人ではなかったというケースもあります。

相続人は誰か? を明確にして行くのも揉めない事の1つになるでしょう。

不動産の登記も建物、土地だけではなく、納戸や物置、家のすぐ横の道路など近所の方と共有名義になっていたり、事前確認として登記や固定資産票を準備し専門家に確認して頂くといいでしょう。

また、固定資産税は誰が支払いをしているか? という点も大切です。土地を生前に子供の名義にしていて固定資産税は被相続人が支払っていてその子供が相続人になった場合、他の相続人から本来受け取るべきであった不動産の価格を個々の割合で請求される場合もあります。

相続人が手続きをする際は、必ず相続人全員での話し合いが必須です。1人居ないだけで話を進めるとそれが後々のトラブルになります。納得いかない相続人が居た場合、強制的に進めると裁判での争いに発展します。

相続に関して話し合いで意見の食い違いが出てきたら無理に進めようとせず納得いくまでの話し合いをすることと、早めに専門家に同席して頂き、相続の手順などを明確にしておくのも円満解決に結びつきます。

株式会社サステナブルスタイル

後藤 光

(※写真はイメージです/PIXTA)