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大鶴義丹さん(54)が、北海道移住を諦めて逃げ出したとの報道があったことを、覚えているだろうか。移住先である美瑛町でクマが出没したり、巨大なガが飛んできたりして、怖すぎて家から出られなくなったという。そして酒浸りになり、体を壊し、3カ月で東京に逃げ帰ってしまったそうだ。

コロナ禍のリモートワークや失業などを理由に、「地方移住」が目立ったこの2年。そんなにも地方移住はハードルが高いのか。そこで、経験者に話を聞いた。夢を抱いて向かった先は、天国だったか地獄だったか……。

■クマ、シカ、キツネトラウマ(42歳・飲食店パート)

私たち一家は、北海道とはいえ都会の札幌市への移住を決めたので、安心しきっていました。昨年移り住んだのは、クマが生息しているはずのない静かな住宅街。なのに、自宅のごく近くでヒグマが出没。人が何人か襲われニュースにもなりました。娘の通う小学校では集団下校となり、戦々恐々とする日々。でも、夫婦でラーメン店を開店させたばかりで、帰るのは思いとどまりました。

しかし、その後道東のほうへ車を走らせていたある夜、ドンっという衝撃音とともに、フロントガラスが蜘蛛の巣状に。「人轢いた?」と、これで人生終わったと思いました。車外へ出ると、立派な角を持った雄ジカが横たわっていて。もう腰が抜けそうになりました。

即、地域の人に話をしたら、「よくあるんだよ。自分はキツネを2回轢いたさ」と。日中に道路をよく見ると「鹿飛び出し注意」の看板がそこかしこに掲示されています。その衝撃から立ち直れないまま店もはやらず、1年で閉店させ関東の地元へ帰りました。シカの呪いか、夫とはその後離婚。いまでもトラウマです。

■豪雪地帯は危険地帯(48歳・IT企業勤務)

雪のない地域で育った私にとって、美しい雪景色は憧れ。そこで、オンライン勤務が可能な私たち夫婦が移住先に選んだのは、豪雪地帯の旭川市でした。格安で見つけた借家は広くて風情があり、お気に入りだったのですが、屋根の形状から雪が積もりやすく、つららができやすいのが難点。でも、最初は「氷の彫刻みたいで素敵」とうっとり眺めていました。

2年目の冬、屋根の雪をそのままにしておいたところ、わが家にやってきた東京からの知人の頭上に大きな「つらら」が直撃して、おデコが見事にパックリ。頭にけがをしてしまって! これには真っ青。

命に別条はなかったものの、わが家の雪で災害にあったということで、法的には私たちに責任があるとのこと。保険にも未加入だったため、実費を私たちが負担することで折り合いがついたのですが、もし亡くなっていたらと思うとゾーッ。結局、雪は凶器! とてもじゃないけど扱えない、ということになり、今年は初雪の前に東京へ戻るかも。

■拭えない医療不信……(41歳・元自治体嘱託職員)

移住で最も気をつけるべきはやはり医療です。自治体の政策にひかれて移り住んだのは山陰地方のある町。一定の条件を満たせば家は無料で貸与され、仕事も紹介してもらえるということでした。

でも、ただほど高いものはない。慣れない土地で体調を崩し、生理も不順になり出血が止まらない。ストレスかな? と思っていたのですが、現地で受診したところ子宮頸がんの前がん状態とのこと。「リスクもあるし、摘出してしまってもいいでしょう」と断定的に言われたんです。まだ40歳になったばかり。独身ではありますが、出産の可能性もあるのにこんな言い方ありえないと。

地元(地方都市)へ戻り改めてがん拠点病院を受診したところ、最小限の切除手術で、もちろん子宮は温存。「これで再発リスクも軽減できますよ」と。この時点でもう田舎の医療に不信感が芽生えていましたが、その後、急に歯痛があり、やはり移住先の歯科医院で受診した際に、「これしかないから」となんと口を開けたら見える位置にしれっと銀歯を入れられて。ストレスから胃が毎日シクシク。こんなはずじゃなかった。

■長野の昆虫食パーティで卒倒!(38歳・IT関連企業勤務)

長野県の某市に移り住んだのですが、食べ物もおいしく、子どものクラスメートたちも明るく親切で、ママ友たちともなじめたのでホッと一安心。そんななか、ある日招かれたホームパーティでびっくり。なんと、料理の上に昆虫が! 実は昆虫食が盛んだということを、初めて知りました。

ですが、私たち家族は大の虫嫌い。無邪気に、「健康にいいよー」と昆虫のせピザを差し出されたときは、ドン引きしながら仕方なく、一切れ口の中に押し込みました(泣)。「ザザ虫のディップはあつあつのご飯にのせて」と笑顔ですすめられたのも断れず……。子どもたちは順応性があるのか「おいしかったよ」と言うので複雑な気持ちに。この食文化に、耐えていけるかな……。

■台風で車が3回転半!?(52歳・主婦)

コロナ禍の勢いで移住を決めたのは宮崎県。夫の親戚が農業の手伝いを探していたため、私たち夫婦2人で名乗りを上げたのです。行ってみると確かに朝はつらい。夜も明けないうちに起床し、見たこともない大きな虫や土との格闘もありました。それは覚悟していたのですが、年に何度も襲来するという台風には命の危険を感じました。

台風の時期は屋根が飛ばないよう、窓や隙間に目張りをしたり、それなりの備えはするのですが、ある暴風雨の夜、夫が「田んぼの様子を見てくる」といって車で出かけようとしました。心配なので「私も」と2人で見に行ったところ、途中の突風で車が横転どころか綺麗に3回転半! その瞬間は何回転したのかなどわかりませんが、後でドライブレコーダーで確認して感動さえ覚えたのです。側溝にハマって奇跡的にかすり傷でしたが、愛車は廃車に。翌日、台風一過の秋晴れのなか、「私たち、甘かったね」と。

■秋田美人ママにぞっこん(50歳・WEBデザイナー)

横浜で学習塾を開いていたのですが、コロナ禍で不景気のためか生徒が激減。そこで親戚のつてがあり、教育熱心な県として知られる秋田県秋田市へ移住を決意。ここならたくさんの生徒が来てくれる? と期待して移り住みました。

昔から「秋田美人」という言葉があるように、本当に、目鼻立ちの整った美人さんが多いなぁというのが最初の印象。近所のママさんたちも「みなさん美人ですね」と褒めると「こんなのはよくある顔なのよ」と異口同音に、ご謙遜。性格も爽やかでユーモアセンスもあり、とても付き合いやすい方々です。

そんな場所で塾を始めた夫は、もう生徒のママさんたちにメロメロ。最初は我慢していたのですが、そのうち「よく見るとお前はさえない」「ブスの部類」と暴言を吐くように。何かあるなと思って探ってみると、藤あや子さん激似のスナックママの元へ通いつめるようになっていました。このままいたら本当に夫は入れ込んでしまうと思い、またつてをたどって別の場所への移住を画策しています。

「都会を離れてあこがれのスローライフ」の厳しい現実。地方移住は慎重に決めたほうがよさそうだ。