自分がお金を預けている銀行の担当者から「資産運用をはじめませんか」と提案を受けたことがあるという人は多いでしょう。「貯蓄から投資へ」という国の方針上、資産運用は非常に重要である一方、銀行員のいうことをすべて鵜呑みにするのは非常に危険だと、FP Officeの加藤勇氏はいいます。それはなぜか、「信用できる銀行員」と「そうでない銀行員」の違いとともにみていきましょう。

銀行員のなかにいる「なりきり」証券マン・保険マン

顧客本位の優れた銀行員がいる一方で、目標に駆り立てられ、お客様を「食い物にしている」銀行員もいる。

これは、歴史的背景から銀行業界のビジネスモデルが目に見える形で変化してきたため、銀行員という職業が厳しい環境下に立たされていることに起因している。

バブル期までは、経済成長とリンクする形で、預金者からの預金を企業や個人に貸し出し、その利ザヤが銀行の本業である「間接金融モデル」により、銀行も成長してきた。しかし、バブル崩壊後に貸出先が減少したため、いわゆる不良債権が巨額化し、銀行もビジネスモデルの変化に迫られていた。

そこに、もうひとつの引き金として、「日本版金融ビッグバン」により、従来の護送船団方式から、各行の競争原理が働くようになる。

投資信託の窓口販売導入(1998年12月解禁)を皮切りに、2002年以降には、銀行業・保険業・証券の各代理業解禁となり、銀行も直接金融業務が可能となった。

昨今ではゼロ金利政策が維持されるなかで、預貸金から得られる本業の間接金融業務では収益が上がらなくなってしまい、さらにマイナス金利政策によって、ますます間接金融業務収益の縮小に拍車がかかっている。

銀行の収益源は、本業である間接金融業務から、役務収益と呼ばれる「金融仲介業務」や「付随サービス業務」へ舵を切ることとなる。

この結果、「なりきり証券マン」や「なりきり保険マン」が誕生することとなり、銀行にて「投資信託を始めた」「保険に加入した」という言葉を、よく耳にするようになってきた。

短期・回転売買を勧める「なりきり証券マン」

証券会社と異なり、銀行には預金の詳細が手に取るように見える。本来あってはならないが、その預金を投資信託に切り替える手続きをするだけで、比較的容易に販売することができる。

日本の銀行の信用は特に高齢者には絶大で、お客様には「銀行員さんが言っているから大丈夫」とリスクも考えずに安易に投資信託を購入してしまうケースも多々ある。

投資信託の分配金を利息と誤認していたり、「分配金は利息のようなもので、お孫さんへのお小遣いの足しにしてください」などという、銀行員の怪しいセールストークをそのまま信じてしまうケースもある。

特別分配金が元本を切り崩して支払われるというリスク面を知らず、そのような最低限のリスクすら説明しない(あるいは知識不足でできない)銀行員もいる。

また、新しい投資信託が発売されれば、いかにも「売れ筋」をうたい文句に、あってはならない短期売買・回転売買を繰り返し、収益を荒稼ぎする銀行員もいる。もちろん、短期売買・回転売買は銀行内ルールでも禁じられているため、「アフターフォローにてお客様から申し出を受けた」などと、責任をお客様になすりつける銀行員もいる。

もちろん、これらの手数料等費用はお客様負担であり、得られた利益も縮小してしまう。

外貨建て、変額保険が大好きな「なりきり保険マン」

「定期預金を孫や子供に残したいと言っていたから、外貨建ての個人年金保険に切り替えた」など、銀行の裏側では日常的に成功事例として共有されている。

お客様の意向に沿ったもの・適合性の原則に従ったものなら問題はないものの、ここにも「収益目当て」の銀行員もいる。

銀行員が提案する多くの保険商品は一時払い型のものが多く、セールス文句の切り口は「定期預金で置いておかれるのなら、保険に回しませんか」である。

昨今の預金は低金利下であり、確かに保険という手法を使った資産運用・相続対策等には頷ける。しかし、流動性等のリスクを勘案した上で、保険加入を考察しなければならない。

銀行員はいかに、収益性の高い保険を販売するかを模索している。結果、お客様のリスクの許容度や理解度を超えた外貨建て保険や変額保険を提案しがちとなっている。

信じても「いい人」と「ダメな人」の違い

銀行員からの提案を無視する選択肢もあるが、銀行員から提案を受けたお客様は、「銀行員から選ばれた上質なお客様」とも言い換えられる。資産運用を検討されているのであれば、話を聞いてみてはいかがだろうか。

無論、銀行員を信じ切ってしまうことは危険である。目の前にいる銀行員がどのような意図で提案をしているのかを、ご家族や信頼できる方に相談してから投資を始める・保険に加入するとよいと思われる。

顧客本位の銀行員は、常に傾聴姿勢であり、さりげない会話からお客様の課題や夢などの情報をキャッチし、適合性の原則をイメージしながら提案している。また、焦り感がなく「一度ご検討ください」と、お客様に判断を委ねている。

他方の「なりきり証券マン」「なりきり保険マン」は、収益という目標に追われているため、即断を求めがちある。「月末近くに急な面談アポイントを入れてくる」「明日、再度面談にアポイントを取りにくる」など、短期間にていかに成約に結び付けるかを模索し続けている。

まずは、ご自身なりに現在の資産状況や商品のリスクを吟味したうえで、理解できない点は必ず納得がいくまで目の前の銀行員に相談すべきである。

なりきり証券マン」「なりきり保険マン」は、セールストーク武装はしているものの、お客様の立場になった提案力は欠如していることが往々にしてある。

今後は、自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討し、信頼できるアドバイザー等を見つけて相談することが必要である。

加藤 勇

FP Office

ファイナンシャル・プランナー

(※写真はイメージです/PIXTA)