天才は天才を知るのか──。今季、王貞治氏が持つ日本人選手のシーズン最多となる55本塁打記録を更新、56本塁打を放ったヤクルト村上宗隆に対し、かつて名将・野村克也は、次のように語りかけたという。

「王の記録(55本)なんて破っちゃえ!とりあえずオレの記録(52本)を破れ」

 野村さんがこのように村上を激励したのは、実は、18年2月、村上が入団した年だった。村上はその4年半後に野村さんの言葉を現実のものとしたのだった。

 天才と天才の邂逅はまだある。

 10月21日コナミデジタルエンタテインメントは、モバイルゲーム「プロ野球スピリッツA」で、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏のセレクトによる、各球団を代表するレジェンドOBが登場するスカウトをスタートしたと発表した。イチロー氏が10月21日セレクトの理由をオリコンのYouTubeチャンネル〈oricon〉で口にしたところ、冒頭の村上と野村さんに似たエピソードを明らかにしたのだ。

 エピソードのもう1人の主人公は「安打製造機」の張本勲氏。イチロー氏が言う。

「ボクが210本打った年(94年)の翌年、東京ドームオープン戦だったと思うんですけど、バッティング練習中のところに(張本氏が)いらっしゃって、『連続首位打者の記録』と『3085安打』、お前が超えるんだって仰ったんですよ」

 その後、イチロー氏はオリックス時代に7年連続首位打者を記録。張本氏の4年連続を破ってメジャーに挑戦することになる。結果は周知の通り。日米通算4367安打は通算安打世界記録である。

 もっとも、ここまでは天才・張本が同じ天才のイチローの才能を見抜いた、という美談なのだが、ここで終わらないところが張本氏の真骨頂なのである。

「3085安打を超える時、(張本氏が)シアトルにいらっしゃって、その(『3085安打』はお前が超えるんだ、という)話を張本さんにしたんです。そうしたら、全然、覚えてないんですよ。ズッコケましたね」

 野村さんによる村上への激励、そして、張本氏がイチロー氏に厳命した言葉(忘れたけど)…こうしてレジェンドは受け継がれていくのかもしれない。

(所ひで/ユーチューブライター)

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