2022年も残すところ2ヵ月あまりとなり、所得税・住民税の年末調整、あるいは確定申告が気になり始めるシーズンとなりました。税負担を抑えるしくみとして「所得控除」の制度がありますが、なかには、知名度が低く十分に活用されていないものもあります。本記事では、所得控除のなかでシングルマザー・ファザーのための控除の制度として2020年に創設された「ひとり親控除」について解説します。

ひとり親控除とは?

ひとり親控除とは、婚姻歴の有無に関係なく、「ひとり親」であれば35万円の所得控除を受けられる制度です。

従来は「寡婦控除・寡夫控除」がありましたが、これは配偶者と離婚、あるいは死別したことを要件としていました。これに対し、結婚せずに子どもを産んで育てるシングルマザー・シングルファザーが控除を受けられないのは酷だということで、2020年から「ひとり親控除」が創設されました。

なお、これに伴い、「寡婦控除」は残されましたが「寡夫控除」は廃止され「ひとり親控除」に統合されています。

「ひとり親控除」を受けられる要件

「ひとり親控除」を受けるための要件は以下の通りです。

・その年の12月31日の時点で現に婚姻をしていない、あるいは配偶者の生死が不明

・生計を一(いつ)にする子がいる

・子の所得の合計額が48万円以下

・合計所得金額が500万円以下

・事実婚の関係にない

これらについて、注意すべきポイントを指摘しておきます。

まず、「現に婚姻をしていない、あるいは配偶者の生死が不明」の要件については、婚姻歴の有無を問いません。もともと配偶者がいて離婚・死別した場合も、未婚の場合も、ひとり親であれば対象となります。

次に、「生計を一にする」とは、子の他方の親から養育費を受け取っている場合は含まれません。この場合は他方の親の扶養の下にあると考えられるからです。

「合計所得金額が500万円」とは、「年収500万円」と必ずしもイコールではありません。たとえば、所得が給与所得のみの人であれば、「年収500万円」は年収677万円くらいです(計算方法は国税庁HP「タックスアンサーNo.1410 給与所得控除」をご参照ください)。

「ひとり親控除」を受けるための手続

「ひとり親控除」を受けるためには、給与所得者であれば勤務先での「年末調整」、個人事業主等であれば「確定申告」において申告を行う必要があります。

年末調整での手続(給与所得者)

年末調整の際に、「扶養控除等(異動)申告書」において「区分C:障害者、寡夫、ひとり親又は勤労学生」の「ひとり親」の欄にチェックをする必要があります。

「扶養控除等(異動)申告書」のひな型は国税庁のHPで見ることができますので、ご参照ください。

確定申告での手続(個人事業主等)

「申告書」の「第一表」の「寡夫、ひとり親控除」に「350000」(35万円)と記入し、「第二表」の「ひとり親」欄に〇をつけます。

なお、従来は「申告書A」「申告書B」がありましたが、2022年(令和4年)度分から一本化されることになっています。新しい申告書は従来の「申告書B」の書式を踏襲する予定です。詳しくは国税庁HPで公表されている「令和4年分の所得税等の確定申告書(案)」をご覧ください。

「寡婦控除」との関係は?

先述したように、「ひとり親控除」は、2020年度から新設された制度です。

それまで「寡婦控除」と「寡夫控除」の二本立てだったのが、「寡夫控除」は「ひとり親控除」に吸収され、「ひとり親控除」と「寡婦控除」の二本立てになりました。そこで、「ひとり親控除」と「寡婦控除」の関係が問題となります。

両者は併用できず、どちらかしか利用できません。そして、シングルマザーの場合、基本的には「ひとり親控除」を利用することになります。なぜなら、「ひとり親控除」の控除額が35万円であるのに対し、「寡婦控除」の控除額は27万円にとどまるからです。

なお、「寡婦控除」の要件は、以下のいずれかを満たすことです。

・夫と離婚し、扶養親族がおり、合計所得金額が500万円以下

・夫と死別し、合計所得金額が500万円以下

「ひとり親控除」の新設により、「寡夫控除」が機能する場面は、実質的に、婚姻歴がある女性が子以外の親族を扶養しているケースに限られることになったということです。

まとめ

「ひとり親控除」は、婚姻歴の有無を問わず、「シングルマザー」「シングルファザー」が受けられる所得控除の制度で、35万円が控除されます。

従来、婚姻歴のあるシングルペアレントのための「寡婦控除」「寡夫控除」しかなかったのが、2020年より新設された制度です。

年末調整または確定申告において申告することで受けることができます。

また、シングルマザーについては「寡婦控除」の制度がありますが、「ひとり親控除」との併用は認められていません。したがって、基本的には控除額が大きい「ひとり親控除」を選ぶことになります。

(※画像はイメージです/PIXTA)