ザ・ドリフターズ」のメンバーでタレントの仲本工事さんが10月18日横浜市内の市道交差点を横断中に車にはねられ、翌19日に亡くなりました。交差点信号機横断歩道はなく、横断が禁止されていた場所だったということです。車と歩行者の交通事故では、「横断禁止道路を渡った」「信号を無視して道路を横断した」「急に車道に飛び出してきた」など、明らかに歩行者側の行動に問題があったケースもあるようですが、この場合でも、車の運転手は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

運転手側にも一定の損害賠償責任

Q.そもそも、「横断禁止の道路を渡る」「信号を無視して道路を横断する」といった行為は法的にどのような問題があるのでしょうか。罰則の有無も含めて、教えてください。

佐藤さん「道路交通法は『歩行者は、道路標識などによりその横断が禁止されている道路の部分においては、道路を横断してはならない』と定めており(同法13条2項)、警察官は、これに違反して道路を通行している歩行者に対し、ルールを守るよう指示することができます(同法15条)。この指示に従わなかった場合、『2万円以下の罰金または科料(1000円以上1万円未満の金銭の納付)』を科される可能性があります(同法121条1項5号)。

また、歩行者は信号に従う義務があり(同法7条)、これに違反した場合も『2万円以下の罰金または科料』を科される可能性があります(同法121条1項1号)。

道路横断中の不幸な事故をなくすために、歩行者も交通ルールをしっかり守ることが大切です」

Q.信号無視をした歩行者や、横断禁止の道路を渡っていた歩行者、急に車道に飛び出してきた歩行者を、車を運転中にはねてしまったとします。「法定速度内で車を運転していた」など、運転手側に明確な非がない場合でも、車を運転していた人が法的責任を問われる可能性はありますか。

佐藤さん「不幸にも交通事故が発生した場合、車の運転手は、刑事責任や民事責任を負う可能性があります。刑事責任については、過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)などに問われる可能性がありますが、運転手側が前方注視義務や速度制限順守義務などの交通ルールを守っており、歩行者側が突然現れたために避けきれなかったような場合、運転手には刑事責任上の過失がないとして、罪に問われないこともあり得ます。

なお、歩行者のけがが軽いときは、情状により、過失運転致傷罪の刑を免除することができます。

一方、民事責任については、車の運転手が交通ルールを守っており、歩行者側が信号無視をしたり、横断禁止道路を渡ったり、急に飛び出してきたりして、交通事故が起きた場合であっても、運転手側の過失がゼロと認められることはほとんどなく、歩行者に損害が生じれば、運転手は一定の損害賠償責任を負うことになるでしょう。治療費や慰謝料、交通事故がなければ得られたであろう将来の収入(逸失利益)などが『損害』となります。

ただし、歩行者側の過失の程度によっては、支払わなければならない損害賠償額が大幅に減額されることもあります。例えば、青信号で直進する自動車が、赤信号を無視して横断歩道を渡る歩行者と接触したケースでは、歩行者側の過失が7割程度と判定され、運転手は損害額の3割程度の金額を支払って解決することもあります」

Q.車と歩行者の交通事故が発生した場合の運転手、歩行者の過失の一般的な割合について教えてください。

佐藤さん「車と歩行者の交通事故が発生した場合、事故の態様によって、過失割合は異なりますが、一定の基準は存在します。例えば、歩行者が信号のない横断歩道を渡っている途中に車と接触した場合、歩行者の過失割合はゼロと評価されるのが基本です。横断歩道では歩行者が絶対的に保護される立場だからです。

一方、泥酔した歩行者が、一般道路に寝転んだり、座り込んだりしていたところ、車と接触したようなケースでは、先述の歩行者が信号を無視したケースのように、歩行者側の過失割合が大きく評価されます。具体的には、事故の時間帯なども踏まえ、昼間であれば歩行者の過失が3割程度、夜間であれば5割程度と評価されることが多いです。もちろん、運転手側の過失によって過失割合は修正されます」

オトナンサー編集部

横断禁止道路を渡っていた歩行者と車が接触した場合、運転手側の法的責任は?