月刊アフタヌーン」(講談社刊)にて連載され、日本で最も長い歴史を誇るSF賞である星雲賞候補にもなった、今井哲也の傑作SFジュブナイル漫画「ぼくらのよあけ」がこのたび劇場アニメとして映像化、全国劇場にて10月21日(金)より大ヒット上映中です。

監督を務めるのは「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズなどの黒川智之さん。そして、脚本を佐藤大さん、アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザインをpomodorosaさん、アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督を吉田隆彦さんが担当しています。

本作で、主人公・悠真の自宅で暮らす、オートボットの「ナナコ」を演じた悠木碧さんに、作品への想いを伺います。

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――本作、楽しく拝見させていただきました。まずは、原作を読んだ時の感想を教えてください。

“未知の存在”が出てくるとなると戦いを想像してしまいがちなのですが、この作品は「悪意を持って誰かを傷つけるようとする存在」が出てこないんです。「未知の存在がいたらこうであって欲しい」という要素が詰まっている物語で、ときめきました。本作におけるSF要素は、人間の人間らしさを際立たせるための仕組みである気がしていて。ナナコや「二月の黎明号」は、人らしさを表現するための対比物として存在していると感じました。彼らがいることで、人間っぽい匂いがお話の中に残っているという印象を受けました。

――おっしゃるとおり、劇場版アニメでも、SFらしさと現実の世界の描写の融合が面白作品だなと思いました。

見たことがあるような風景と未来が混ざった「ありえるかもしれない未来」が広がっていて、ワクワクしますよね。映像表現では、水や夜空の絵も美しくて印象的でした。これは以前誰かに伺ったのですが、アニメーションで水を表現するのって、すごく難しいそうなんです。だから私は、水が綺麗に描かれている作品は、描いている方々もより力を入れていると思っていて。『ぼくらのよあけ』はまさに水の表現が美しくて、絵でも感動してもらおうという情熱を感じました。あとは音楽が素敵です。アニメーションって総合芸術だと思うのですが、本作はバランスが絶妙だなと思います。

――演じられた「ナナコ」というキャラクターへはどういう印象を抱きましたか?

生真面目でちょっとおせっかいで、悠真さんが大好きな子。世話焼きな妹みたいな感じで家族として溶け込んでいるところが好きです。そこがこの子を読み解くポイントかなとも思いました。「Google Home」や「Alexa」がもっと生活に馴染むと、ナナコのように家族みたいな存在になるんでしょうね。もしかしたら、それが、人がAIに望んでいることなのかもって。

――ナナコ、可愛いですよね。プレス資料の中で、悠木さんが「ロボット系の子を演じるときって、その子がどのくらい高度な文明で作られているかによって、“ロボ度”が変わる」とおっしゃられているのが印象的でした。今回はどのくらいのロボ度で演じましたか?

かなり低めです。ナナコはハイテクノロジーではありますが、ロボットすぎないキャラクターだなと感じています。実はオーディションのときは、もっとロボ度が高かったんです。実際にアフレコ現場で色々と試していく中で、スタッフさんから「あんまりロボらしくしなくていいかも」というディレクションを受けました。ナナコは人間のように会話ができて、コミュニケーションを取る過程で、人間と同じように自分が見えてくるオートボットなんですよね。だから、ロボらしくしなくてもいい、という方向性になったんだと思います。

あとは、(悠真を演じる)杉咲花さんが生っぽいお芝居をされていたので、それなら声優の私が何をやってもわりとロボっぽく聞こえる気がして。他の出演キャストもナチュラルなお芝居も得意な方が揃っている印象を受けたので、そのバランスも考えて今回はロボ度を高くしませんでした。

――すごく面白いですね。同じロボット役を演じる場合でも、文明度や、何のために作られたのか、存在しているのかによって演じ方も変わるという。

アニメーションの場合は絵柄によって変わるときもあります。とはいえ、セオリーみたいなものも重要ではあって。例えばネズミに声をあてるとなったとき、「体が小さいから高い声が出そうだし、心拍が早いから早口になりそう」と想像したり。象は大きいからその逆。そういう物理的なイメージに則ったほうがキャラっぽくはなると思うんですよね。現実には存在しないキャラクターを演じるなら、あるものに即した方がイメージもしやすくて違和感が生まれにくいとは思います。

声優って、キャラクターとして魅力的なことも重要ですが、絵と脚本を齟齬なく埋めることも仕事のひとつだと最近は感じていて。作品によっては、クールなキャラクターがツインテールな場合もあるし、ボーイッシュなルックスだけどかわいい語尾の子もいますよね。そういう絵と脚本・設定の齟齬をシームレスにして違和感を出来るだけなくすのが、我々の役割のような気がしています。

――素敵なお話をありがとうございます。普段からSF作品を観たり、読んだりしますか?

海外の映画がすごく好きなので、SFは身近です。よく題材になるじゃないですか。迫力もあるし、映像の工夫も多いですし、好きです。一方で『ぼくらのよあけ』は、とても良い意味で日本っぽい作品だなと思いました。日本のアニメーションの良さと、日本の脚本の良さと、SFがきちんと成り立っている所が素敵です。SFは舞台装置であって、人間の交流を丁寧に描いている部分が際立っています。

――少し映画のお話から離れますが、悠木さんはどんな小学生でしたか?

割と仕切りたがりな子だったと思います。委員会とかも積極的に参加していました。子役だったこともあって、「どこで誰が見ているか分からないぞ」という意識がずっとあって。「真面目に暮らしていないといけない」と。その割には、ヤンチャもしていたんですけど、勉学に関してはとても真面目でした。生き物がすごく好きだったので、生き物係だったのですが、可愛がっていたウサギがたくさん出産した時があって。そのウサギが心配すぎて、一時間目に遅刻するということはありましたね(笑)。

――優しくて微笑ましいエピソードですね。

子ウサギを含め、上手に育てた時は、学年でも「あいつはウサギを育てた女だ」みたいに評判が広がって(笑)。その経験もあって、人気の生き物係の座をずっと守ることが出来ました。そういった感じで、勉強や係に熱心だったので、悠真さんの様なヤンチャな男子は私のこと苦手だったと思います。

――映画の中で、悠真たちは大冒険を経験するわけですが、これまでにした冒険ってありますか?

1/1のポケモンのぬいぐるみを買った時…ですかね!(笑)「ブラッキー」なので、1/1って超大きいんですよ。日本では土地って貴重ですからね…!そういう意味でも大人になってからの大冒険です。当時は、1/1のポケモンのぬいぐるみが、ピカチュウくらいしか出ていなくて、「このチャンスを逃したらいけない!」とお迎えしちゃいました。

――本作は、大人が見るとどこか懐かしいと童心に帰れる部分があると思います。悠木さんもそういった感情になりましたか?

なりました! みんなでペットボトルロケットを飛ばすシーンの時に、「こうやってやたら張り切っている子いたよなあ」とか。外で授業をやるワクワク感とか。日常のちょっとした特別感がすごく楽しかったなって思い出しました。普段は目立たない子、この映画でいうと真悟の様な子が活躍できるシーンがあったり。全員に少しずつ共感出来る部分があると思うので、そういった部分にも注目していただけたら嬉しいです。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

ぼくらのよあけ
キャスト:杉咲 花(沢渡悠真役)、悠木 碧(ナナコ役)、藤原夏海(岸真悟役)、岡本信彦(田所銀之介役)、
水瀬いのり(河合花香役)、戸松 遥(岸わこ役)、花澤香菜(沢渡はるか役)、細谷佳正(沢渡遼役)、津田健次郎(河合義達役)、
横澤夏子(岸みふゆ役)、朴 璐美(二月の黎明号役)
原作:今井哲也 「ぼくらのよあけ」(講談社月刊アフタヌーン」刊)
監督:黒川智之 脚本:佐藤 大 アニメーションキャラクター原案・コンセプトデザイン:pomodorosa
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:吉田隆彦 虹の根デザイン:みっちぇ 音楽:横山 克 アニメーション制作:ゼロジー
配給:ギャガ/エイベックス・ピクチャーズ

(c)今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

映画『ぼくらのよあけ』悠木碧インタビュー「SF要素があることで、人間の人間らしさが際立つ」