世界の秀作・傑作を上映する映画ファン恒例の映画祭、東京フィルメックスが本日、開幕する。熱烈な映画ファンの支持を集め、今年は当初より会期を1日延長して6日(日)まで開催される。

本映画祭には世界の様々な才能が集結し、ただ楽しむだけでなく時には観客に思考を促したり、観客の想像力を刺激する作品が多い。映画祭のプログラム・ディレクターを務める神谷直希氏は本映画祭を続けていくことに「使命感のようなものを感じている」と語る。東京フィルメックスはどのような作品を上映しているのか? 本映画祭はなぜ23回も続いているのか? 神谷氏に聞いた。

2000年にスタートした東京フィルメックスはアジアを中心とした世界各地の作品を紹介し、映画ファンの支持を集めてきた。昨年から神谷氏がプログラム・ディレクターに就任。今年も同エリアで開催されている東京国際映画祭と同じ時期に行われている。

「今年は少し会期がズレているのですが、昨年と大きく違うのは今年は海外からゲストを招聘できること。東京国際映画祭と東京フィルメックスが同時期に開催することのメリットのひとつは、来日ゲストも含めた映画人の交流にあると思うので、今年もフルというわけにはいかないのですが、どのぐらい相乗効果が出るのか気になっています」

それぞれの映画祭は別のディレクターが作品を選出しているため、作品の選定基準はそれぞれのディレクターに負っている。神谷氏は東京フィルメックスでは「チャレンジしている映画」を選ぶことがひとつの傾向になっていると説明する。

「今年も昨年と同じく作品の完成度で選んでいます。ただ、『ダム』という作品は抽象度が高くて、観客に解釈を委ねる作品でもあるので、朝日ホールで上映すると考えた時に少しだけ迷いました。昨年はそのような冒険を少し控えた部分もあったのですが、今年はもう少し攻めてもいいかもと思って選んでいます。

作品を選ぶ上では“自分の価値観を揺さぶられる”ものや“驚きのある”もの、その監督には“なにかがある”など、こちらが動揺するような作品というのは判断のひとつの基準になっていると思います。もちろん、これまでに観たような映画であっても文句のつけようのないほどの完成度であれば、それもひとつの才能だと思うのですが、やっぱりチャレンジしている映画の方が個人的にも心が震えることが多いですし、選出する上でのひとつの傾向になっていると思います」

映画祭では、映画館で上映されることがかなわなかった作品や、世界の他の映画祭で高い評価を集めた作品、映画界の明日を担う新しい才能が手がけた作品などが集結する。それらはジャンルが明確だったり、人気のシリーズ、定番の映画ばかりではなく、まだ見ぬもの、じっくりと観て考えることで楽しさが見つかるものも多い。

「そのような映画を受容するお客さんが減ってきているのではないか? という恐れはあります。でも、そこに合わせていくことも考えていません。フィルメックスで上映される作品の価値を守っていくことが大事だと思っています。

近年、日本はある種の“ガラパゴス化”が進んでいて、いろんなものを受け入れる余裕がなくなってきているのかもしれないですが、他の国では映画祭や商業ベースで普通に公開されている作品が日本にあまり入ってきていないことが多いんです。だから映画祭も含めて、他の国では当たり前のように上映されている映画が日本にはまだまだ入ってきていない。大きな映画祭で賞をとった作品でさえも日本で上映されないことがある。

それが1年や2年のことならまだいいのですが、年々、積み重なっていくことで文化受容の面でも“空白”ができてしまうことになる。もちろん、グローバルに流通している映画だけが良い映画だと言いたいわけではないのですが、いろんな国で良いものとして普通に受け入れられているものを受容できないことから起こる文化的な損失は映画に限らず発生していると思います。その点はちゃんと受容していく必要があると使命感のようなものを感じていますし、そのために東京フィルメックスもあると思っています」

東京フィルメックスと、東京国際映画祭に足を運ぶことで、世界の映画ファンが注目している作品、海外では高評価を得ているのに日本では上映されていない作品をまとめて楽しむことができるはずだ。今年も映画好きを驚かせ、その価値観に“揺さぶり”をかける1作が登場することを期待したい。

第23回東京フィルメックス
11月6日(日)まで有楽町朝日ホールで開催中
https://filmex.jp/2022/

映画祭のプログラム・ディレクターを務める神谷直希氏