現在申請受付中の、電気自動車(EV)の購入資金を補助する「EV補助金」について、経済産業省は2022年10月19日、予算残高と受付終了時期の見込みを発表しました。申請は事前の予想を上回るペースで行われており、人気の程がうかがわれます。しかし、他方で、10月20日に、鈴木俊一財務大臣がEVへの課税について気になる発言を行いました。その背景と問題点について解説します。

「EV補助金」人気の陰で…財務大臣の発言の意義

鈴木俊一財務大臣は、2022年10月20日参議院予算委員会で、EVに対する課税のあり方について、「走行距離課税は一つの考え方である」と述べました。

走行距離課税とは、自動車の走行距離に応じて税金を課する制度です。

その理由として、以下の2点が指摘されています。

1. EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない

2. EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する

政府は2050年まで二酸化炭素の排出量をプラスマイナスゼロにする「カーボンニュートラル」を実現する目標を設定しています。

その一環として、2035年までに、新車販売される乗用車の100%をEVにすることを目指しています(「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」参照)。

そのためには、既存のガソリン車からEVへの移行を進める必要があります。しかし、そうなると、今までガソリンの消費量が激減するため、「ガソリン税」の税収が減少します。その代わりに、EVに対する課税をどうするかという問題が発生します。

言い換えると、ガソリンに対する課税を、EVの走行に対する課税へと転換することは、税法理論的に正当化できるかという問題です。

それを吟味するためには、ガソリン税の課税がそもそもどういう理屈で正当化されているのかを確認する必要があります。

ガソリン税の正当化根拠

ガソリン税は正確には「揮発油税」と「地方揮発油税」を合わせたものであり、2022年10月現在、1リットルあたり53.8円です(揮発油税48.6円、地方揮発油税5.2円)。なお、この他に「石油石炭税」が2.04円、「温暖化対策税」が0.76円かかります。

ガソリン税の税収は2兆円超で推移しており、財務省の資料によれば、2022年度予算では2兆3,015億円(揮発油税2兆790億円、地方揮発油税225億円)の見込みです。

ガソリン税は、もともとは、使途が道路の整備・補修の目的に限定されている「道路特定財源」でした。しかし、2010年から使途を定めない「一般財源」へと移行しました。

国土交通省HPでは、そのあたりの経緯について解説されています。

すなわち、ガソリン税は元来、道路整備のための財源としての役割を担ってきました。しかし、その後、道路の整備水準が向上し、かつ、公共事業の抑制もあり、税収が歳出を大幅に上回るようになりました。それに伴い、「道路特定財源」ついて見直しを行い、使途を定めない「一般財源」に移行されたということです。

道路の整備水準が向上し、ガソリン税の税収が歳出を大幅に上回ったというのであれば、ガソリン税は「廃止」または「縮小」ということにする選択肢もあったはずです。

しかし、ガソリン税は法律の改正により「一般財源」に移行され、かつ、税率は維持されました。その理由として挙げられたのが、以下の2点です。

1. 厳しい財政事情

2. 環境面への影響の配慮

ガソリン税が「道路特定財源」から「一般財源」へと移行したことにより、法的な位置づけが変更されたということです。

「1. 厳しい財政事情」はそれほど内容がありませんので、重要なのは「2. 環境への影響の配慮」という点です。

これは、ガソリン車がガソリンの消費により二酸化炭素を排出し、地球温暖化につながるということを意味しており、一定の正当性は認められます。

EVに対する「走行距離課税」の導入は許されるか

では、ガソリン税に関する以上の経緯を踏まえ、EVに対する走行距離課税を導入することは許容できるでしょうか。

今回、鈴木財務大臣がEVで走行距離課税を正当化しようとしている論拠は、以下の2点です。

1. EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない

2. EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する

これらのうち、「1. EVにはガソリン税のような燃料に対する課税がない」はガソリン車の「厳しい財政事情」と同様あまり内容がありませんので、重要なのは、「2. EVは車体が重いため、道路の維持補修の負担が増大する」ということです。

この理屈だけみれば、一見、正当性があるようにも見受けられます。

しかし、法制度は、既存の法制度と整合性のあるものでなければなりません。その観点からは、2つの問題があります。

問題点1. ガソリン車にも走行距離課税を導入するのか

問題点2. 自動車重量税との整合性がとれない

それぞれについて説明します。

問題点1. ガソリン車にも走行距離課税を導入するのか

まず、ガソリン車にも走行距離課税を導入するのかということです。

道路に対する負荷であれば、ガソリン車もその重量の分だけ、同様に道路の維持補修の負担が増大するのはEV車と変わりません。

また、もしガソリン車もEV車も同様に走行距離課税を導入するのであれば、ガソリン車はこれまでより負担がさらに増大することになります。

問題点2. 自動車重量税との整合性

次に、ガソリン車にすでに課税されている「自動車重量税」との整合性です。

自動車重量税は、自動車の重量に応じて課税されています。

これは、重量が重い車ほど道路に対する負荷が高いため、補修のための費用負担も大きくすべきという理由によるものです。

走行距離課税の理由が、EVの重量が重いからということであれば、自動車重量税との整合性が問われることになります。

このように、EVに対する走行距離課税については法的観点から問題があります。しかも、EVを購入する人は、EV補助金の点はもちろん、ガソリン税がかからないことも重視して意思決定を行っている可能性が高いといえます。

そうであるにもかかわらず安易に「走行距離課税」を持ち出すのは、EV補助金をエサとしてEVへの増税を企てているとみられても仕方ありません。

さらに、本記事では取り上げませんでしたが、「エコカー減税」「クリーン化特例」のような優遇税制との整合性も問題となりえます。

政府が「EV補助金」等の施策を通じて、EV車の普及に本腰を入れて取り組むのであれば、自動車に関する税制について、全体の整合性を見据えた抜本的な見直しが迫られているといえます。

(※画像はイメージです/PIXTA)