地主の夫が急死し、相続が発生しましたが、税理士が提示した納税額は驚くほど高く、妻は納得できません。なかでも、傾斜のきつい山林が「1億円以上」との相続税評価額との話に、おかしいのではないかと疑問をぶつけますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「土地持ちは、みんなこれくらい払うものですよ」

今回の相談者は、60代の専業主婦の中村さんです。70代の夫が亡くなり相続の手続きをしましたが、納税額に納得ができないということで、筆者のところへ相談に訪れました。

中村さんの夫は地域でも名の知れた旧家出身で、大学卒業後は公務員として働いていました。定年退職後は、いくつか地元の企業に非常勤職員として勤務しましたが、完全にリタイアしてからは、先祖代々受け継いできた農地で農業を営んでいたそうです。

中村さんの夫の保有財産は、自宅敷地と建物、貸店舗、宅地、農地、山林、預貯金です。一部の土地は区画整理地となっています。

相続人となるのは、配偶者である中村さん、子どもである長女と二女、夫が生前に相続対策として養子にしていた、長女の子どもの合計4人です。

「昨年の暮れに夫が急死してしまい、相続の申告をしました。長女は結婚相手の仕事の都合で東北地方に在住、二女は仕事で関西へ転勤になったばかりと、2人とも頼れない状況でして。そのため、手続きは私がすべて行ったのですが…」

中村さんは生前の夫から「相続税は区画整理地を物納すれば大丈夫」とだけ聞いていました。

「夫の親族から、仕事で知り合ったという税理士先生を紹介してもらったのですが、その先生がおっしゃるには、財産の総額は6億5,000万円ほどで、相続税が1億6,700万円とのことでした。〈配偶者の特例〉というものも利用しましたが、それでも納税額は8,200万円必要だというお話でして…」

中村さんは納税額を聞き、言葉にならないほど驚いたといいます。

「税理士先生は〈土地持ちの方や農家の方は、みんなこれくらい払うものですよ〉とおっしゃるのですが、どうしても納得できなくて…」

1,200坪の傾斜地の山林、相続税評価額が1億円超!?

中村さんが税理士の説明に納得しかねたのは、自宅裏の山林が1億円以上の評価額になるとの指摘でした。たしかに面積は広く、1,200坪程度ありますが、全体が斜面になっており、高低差は10m以上もあります。斜面の山林を1億円で買ってくれる人がいるとは、とても思えませんでした。しかし、税理士にそれを伝えても「評価方法は決まっているから」とのことで、そのまま申告を終えてしまったそうです。

ところが、筆者と提携先の税理士が固定資産税の納付書を確認したところ、1,200坪の傾斜地の山林の固定資産税評価は、たったの20万円でした。それなのに、相続税の評価は1億1,000万円としてあるのです。

この土地は配偶者である中村さんの取得割合が52%とされており、350万円も納税することになっています。

遺産は現金の割合が少なかったため、納税はすべて物納を希望していました。しかし、税理士はなぜか「1,500万円程度は現金納付したほうが、税務署の心証がいい」としきりに勧めるため、中村さんは足りない金額を親戚から借り、なんとか納税を済ませたそうです。

評価を見直し、相続税の更正の請求手続へ

相続税の更正の請求手続の期限までは、まだ時間が残されていました。筆者は中村さんと話し合い、土地の評価をやり直して相続税額を減らせないか、改めて検討することとなりました。

筆者は、提携先の税理士・不動産鑑定士と一緒に現地に行き、詳しく調査を行いました。すると、例の山林以外にも、評価について問題箇所が見つかりました。

まずは、相続人4人の共有となっていた土地8区画のうち、物納予定地4区画について、納税のある3人(子どもと養子)に名義に変更しました。割合は納税額で按分しました。

当初は4区画の土地を物納する予定でしたが、3区画に減らせたため、残る1区画は諸費用や借入返済のために売却。納税額が下がったことで超過物納となり、余分は現金で返金されることになりました。

山林の鑑定評価を更正請求に添付して税務署に提出したほか、自宅敷地や畑の評価をやり直したところ、全体で2億円程度の評価減となり、課税額は7,000万円程度の減額となりました。

「特例」「土地の評価減」を最大限活用することが重要

自宅裏の山林は、一般人の中村さんが「1億円以上の価値」という説明に疑問を抱くのも当然と思うほどの急斜面でした。今回、中村さんが節税を実現できたのも、「これは変ではないか」という自分の感覚に従い、行動されたからこそだといえます。

「あの裏山がそんなに高いなんて、絶対におかしいと思っていたんです」

中村さんは相談してよかったとしみじみいっておられました。

相続税評価であっても「現状と乖離がないか」「本当に妥当か」と注意深く見極めることが重要です。

税理士が取り扱う税務は非常に範囲が広いため、それぞれ専門分野・得意分野があるのです。そのため、企業の税務には高い手腕を発揮する税理士でも、相続には明るくないケースなどもあることから、該当のジャンルに慣れている・経験値の高い税理士へ依頼することが大切です。

斜面や不整形などの土地は、鑑定評価で評価を下げることができます。申告後1年以内は更正請求で相続税を取り戻せるので、思い当たるケースがあれば、専門家に相談してみましょう。

また、小規模宅地の評価減は効果が大きいところを選択することが重要であり、だれが相続するのか、どの土地に適用するのがいいのかについて、慎重に見極めて判断することが大切です。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)