日本人は投資よりも貯蓄を好む傾向がまだ強く、株や投資信託、外貨といった金融資産の保有率はまだ低めです。そのため今回の急激なインフレにより、預貯金の目減りにハラハラしている人も多いのではないかと推察されます。ここでは、いまから始められる、インフレに対抗する資産運用のスキームについて検討します。

インフレで「預金目減り」…資産運用をどうするか

現在、円安が進み、わが国もインフレが発生するようになり、インフレ目標を達成する可能性が出てきました。しかし、このインフレは賃金上昇を主な要因とする望ましいインフレではありません。

現在の円安は海外の高金利との金利差によるものであり、海外のインフレが収まるまでは金利差は縮小せず、円安が続くと思われます。そして、わが国の金利は金融緩和政策のために低く抑えられており、物価が上昇しても金利は上昇していません。これにより預金の目減りが発生しています。

インフレへは長期的には株式や債券への分散投資による資産運用で対処できますが、短期的には株式や債券を含む運用は価格変動が大きく、堅実な資産運用とは言えません。

そこで、現在のようなインフレと低金利が同時に起こる場合は、物価連動国債を投資対象とする投資信託による資産運用が効果的です。

物価連動国債は現在は一般の個人には販売されていないのですが、物価連動国債に投資する投資信託が販売されています。過去1年の収益性は平均で4.26%、リスク(標準偏差)は、1.41%となっています(2022年10月27日現在、モーニングスター社調べ)。

日本銀行によると、「物価連動国債は、元本とクーポンが物価水準に連動する商品である。そのため、将来の物価変動に対する備えとして、投資家には相応のニーズがあると予想される。一方、政府は、物価連動国債の発行を通じ、発行手段の多様化を図ることができる」とあります※1

※1 日本銀行調査・研究(2004年 4月26日)金融市場局:西岡慎一、馬場直彦「わが国物価連動国債の商品性と役割について~米英における経験を踏まえて~」(日本銀行 Bank of Japan〈https://www.boj.or.jp/〉)2022年10月27日入手

物価連動国債に投資する投資信託の価格変動の要因は、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)と長期金利が主なものとなります。基本的には消費者物価の上昇と長期金利の低下が上昇要因となります。逆に消費者物価上昇率の低下と長期金利の上昇が下落要因となります。過去1年の収益性が4.26%であるのは、過去1年の物価上昇によります。

インフレは景気回復に伴い物価と金利が同時に上がる状態が望ましのですが、しかし、「インフレなき金利上昇」ということもありえます。景気が回復しないままで、国の財政不安などを背景に国債価格が下落し、長期金利が上昇する場合、債券価格が下がることになり、インフレは起こらないので、それによる収益性の上昇は起こりません。

そこで、物価連動国債を投資対象とするときは、利率が長期金利に連動する個人向け国債(10年変動金利型)との分散投資が有効でしょう。新美隆宏ニッセイ基礎研究所主任研究員は、これら「両方持つという方法もある」と述べています※2

※2 日本経済新聞(2014年10月15日付)新美隆宏「物価連動債、インフレに強いが… 個人で買う注意点」(日本経済新聞〈https://www.nikkei.com/〉)2022年10月27日入手

財務省は、10年変動金利型個人向け国債のメリットは、変動金利だから、実勢金利が上がれば受取利子が増え、最低金利保証(0.05%)があるので安心であることとしています。

この変動金利(期間6ケ月)の利率は、10年国債の実勢金利に0.66をかけて算出されます※310月17日現在、0.17%(税引き後0.1354645%)となっています。

※3 財務省「『変動10年』商品概要」(財務省〈https://www.mof.go.jp/〉)(2022年10月27日入手)

「金利上昇なきインフレ」の状況下、効果的な投資は?

今、我が国は逆に、「金利上昇なきインフレ」の状態にあり、こうした状況では物価連動国債に投資を行う投資信託での資産運用が効果的です。

しかし、将来の金利上昇リスクに備える必要があります。そのため、やはり、金利の上昇で収益性が上昇する変動金利型の個人向け国債との分散投資は効果的です。

つまり、金利上昇で価格下落が起こる物価連動国債と、金利上昇で利金が増加する個人向け国債を組み合わせて価格変動のリスクを低減させるのです。

こうした分散投資を、投資時期を分散するために積み立て方式で購入すると、価格の下ブレのリスクは低減します。

なお、米国では短期金利長期金利が逆転する「逆イールド」と呼ばれる現象が起こっており、これは将来の景気の後退を表すものとされています。

モーニングスター社の吉田誠氏は、「1978年以降の米国では、

(1)1980年1月から同年7月

(2)1981年7月から1982年11月

(3)1990年7月から1991年3月

(4)2001年3月から同年11月

(5)2007年12月から2009年6月

(6)2020年2月から4月

の6度の景気後退局面があったが、そのすべてにおいて事前に逆イールドが発生していたことから、景気後退入りのシグナルとして投資家の注目度は高い」と述べています※4

※4 モーニングスターホームページ(2022年8月22日)吉田誠「米国は『逆イールド』の発生で景気後退局面入りか、過去には利下げで株安継続の場合も」(モーニングスター〈https://www.morningstar.co.jp〉)(2022年10月27日入手)

こうしたことから、景気後退から米国のインフレの終息は遠い先ではないという考え方も一つの意見として成り立つでしょう。

なお、わが国の信用不安によるインフレへの対処策については、拙稿『高まるインフレ懸念…資産分散の選択肢に「外国籍投信」「外債」がお勧めな理由』をご覧いただければ幸いです。

※ 本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

藤波 大三郎 中央大学商学部 兼任講師