声優・南條愛乃が全国ツアー『南條愛乃 Live Tour 2022 ~A Tiny Winter Story~ supported by animelo mix』の最終公演を10月16日、さいたま市文化センター 大ホールにて開催した。彼女にとって約3年ぶりのツアーとなった今回は、昨年12月にリリースされた4thアルバム『A Tiny Winter Story』を携え大阪、名古屋、埼玉の3都市で実施。冬をテーマにした同アルバムの世界観がダイレクトに反映された、コンセプチュアルなステージが展開された。
■アルバムで表現したかった世界観が具現化された演出
ステージを覆う紗幕に雪が舞い散る映像が投影される中、ライブはアルバム『A Tiny Winter Story』のアートワークに登場する少女とトナカイを主軸にした物語の朗読で幕開け。南條による温かみのある朗読で会場が優しい空気に包まれると、そのまま幕が上がり「Merry」へと突入する。複数の白いベールが垂らされたステージ上には白基調の衣装に身を包んだ南條が姿を現し、軽やかなビートに合わせて伸びやかな歌声を響かせていった。続く「vignette」ではゆったりとした曲調にあわせ、透明感の強いボーカルで会場の空気を掌握。客席も白いペンライト一色に染まり、その場にいる者全員で今回のライブの世界観を作り上げているように映った。
2曲終えたところで、再びナレーションパートに突入。この日のライブ本編ではMCを排除し、楽曲とナレーションのみで構成するという実験的な形が取られた。南條がアルバム『A Tiny Winter Story』で表現したかった世界観が具現化されたこの演出は、観る者にとっても非常に強い没入感が得られるものであり、一緒に歌ったり声援を送ったりできない現在の情勢にも非常にマッチしたものだったと断言できる。
『A Tiny Winter Story』からの楽曲中心のセットリストながらも、ライブ序盤には初期の代表曲「ゼロイチキセキ」や最新シングル「ヒトリとキミと」などといった人気ナンバーも用意。アルバムの世界からは一見離れているように感じられるも、ナレーションで進行する物語に沿った選曲だと受け取ることもでき、ストーリー性の強いセットリストを見事な形で彩っていた。また、これらの人気曲で会場のボルテージが上昇し始めると、「全ては不確かな世界」以降はエモーショナルな楽曲が立て続けに披露されたことで、客席の熱量もさらに加速。純白のドレスに着替えた南條も、自信に満ちたパワフルなボーカルで楽曲の世界観を見事に表現してみせた。
■まるで1本の映画を観るような見応えのあるライブ構成
ライブ中盤では、「物語よ始まれと願う空に」ではピアノのみを伴奏に切々と歌を届けたかと思えば、「ありったけの愛しさで」では物語の佳境に向けて躍動感が増していく。そして、「余韻」で再びピースフルな世界観を描いて、曲のエンディングでは文字通りの余韻を残したところで、ステージ上に再び雪が舞い散る映像が投影される中、アルバムタイトルトラック「A Tiny Winter Story」でクライマックスを迎えてライブ本編は幕を下ろした。エンディングでは再び降ろされた紗幕にエンドロールが流れ、まるで1本の映画を観るような見応えのあるライブ構成に対して、客席からは惜しみない拍手が贈られた。
アンコールでは、バンドメンバーとともにツアーTシャツをリメイクした衣装を身にまとった南條が再び姿を現し、最新アルバム『A Tiny Winter Story』のオープニングを飾る「白い季節の約束」でライブ再開。南條はリラックスした表情で、ライブ本編で展開された物語の余韻を楽しみながら優しい歌声を届けた。
その後、この日初めてのMCパートに突入。冒頭こそ「こ……こんばんは……」とぎこちなさを見せるも、以降は肩の力を抜いた“通常モード”でオーディエンスとコミュニケーションをとり続ける。ここで、アルバム『A Tiny Winter Story』収録曲「余韻」の作詞を手掛けた声優/作家のあさのますみ(浅野真澄)が朗読パートのシナリオを書き下ろし、イラストレーターのペンギンボックスがスクリーンに映し出されたイラストを描き下ろしたことも明かされた。
声こそ出せないものの、コロナ禍以前と変わらない空気が会場に充満する中、アーティストデビュー10周年を記念した選曲として「Recording.」が披露されると、ライブのお約束となったコール&レスポンスパートを“サイレント”で対応する今ならではのやり取りも飛び出す。さらに、「EVOLUTiON:」や「新世界」といったエモーショナルなアップチューンで再び客席の熱気が上昇すると、続くMCではソロデビュー10周年を記念したオリジナルフルアルバム『ジャーニーズ・トランク』と初のMV集『ジャーニーズ・トランク ~Memorial Music Clips~』が12月21日にリリースされることをアナウンス。「これからも皆さんと楽しい思い出をたくさん作っていけたらいいなと思っていますので、よろしくお願いします!」と告げると、最後は「・R・i・n・g・」で会場の盛り上がりが最高潮に達して、ライブは無事終了した。
これまでの彼女のライブとは少々テイストの異なる演出を含む、10周年という節目だからこその実験的なステージからは、次の10年に向けたポジティブな空気と溢れ出す創作欲・表現欲を感じ取ることができたはず。そんな節目に発表される最新作『ジャーニーズ・トランク』を抱えて続く、南條愛乃の“音楽の旅”はここからさらに笑顔に満ちたものになることだろう。
(取材・文/西廣智一)
■SETLIST(2022.10.16@さいたま市文化センター 大ホール)
01. Merry
02. vignette
03. ゼロイチキセキ
04. 光のはじまり
05. ヒトリとキミと
06. 全ては不確かな世界
07. 青星
08. My Heart My Hope
09. 物語よ始まれと願う空に
10. シュガーポット
11. ありったけの愛しさで
12. 余韻
13. A Tiny Winter Story
<アンコール>
14. 白い季節の約束
15. Recording.
16. EVOLUTiON:
17. 新世界
18. ・R・i・n・g・
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