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BMW i3発売時から時代は変化

BMWがi3で日本市場に躍り出たのは、2014年のことである。

【画像】新時代のBMWにはもう一歩?【BMW iX xドライブ50の内外装や走り】 全52枚

このクルマは当時のBMWのEV知見をすべて組み込んだ意欲的な車両であったが、EVへの認知度の低さと、まるでゴーカートのようなテイストのドライブフィールや走行距離の短さから、かなり販売は苦戦したようだ。

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BMWが日本市場でi3を送り出した時とはEVを取り巻く環境も変化した。    戎大介

当時は、現在よりもEVに対する認識も浅かったので、ただ物めずらしさだけで評価した人も多かったように思える。

わたしも、i3の試乗のためにわが家のガレージに100V、200Vのコンセント型の充電器を設置し、一応EVへの対応をしたつもりになっていたが、8年後の現在からすれば、まだ、稚拙であったという感は免れない。

現在、i3は中古市場でかなり人気がありファンも多いのは、やっと当時のBMWの見識が理解されつつあるということなのだろう。

印象的なキドニーグリルの「絵」

さて、そのBMWが、i3、i8で経験した知見をいかし、満を持して発表したのがiXである。

今回、試乗のために借り出したのは、3種類あるグレードのうち真ん中のxドライブ50である。

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EVにも大きなキドニーグリルを装備。機能性は必要ないから、平面に絵が描かれている。    戎大介

初めてクルマを見ると思ったより大きなボディサイズに驚かされるが、数値的にも全長4955mm、全幅1965mm、全高1695mmであるから、実際のサイズも大きい。

アヴェンチュリン・レッドというボディカラーは、ワインレッドに近い色彩で、意外にオーソドックスでボクシーなデザインによくマッチしている。

しかし、そんなことは初めてこのクルマを見た人は眼に留まらず、最大の注目点はフロントのキドニーグリルのデザインであろう。

巨大化して、もはやキドニーグリルという概念を突き抜けており、これまで、BMW一筋であったマニア達の困惑を招いている。

このデザインの評価については本国のAUTOCAR編集部でも論評を避けており、今のところ将来、歴史に残る大変貌となるのか、それとも駄作で終わるのかは予測がつかない。

BMWの場合は、クリス・バングルによる4台目7シリーズのデザインで物議を醸したことが記憶にあるが、そのデザインは、その後高い評価を受けたので、違和感はあるもののなかなか嫌いとは言い切れないかもしれない。

繰り返していうと、キドニーグリルに惑わせられなければ、意外なことに他の部分はごく普通のデザインであることに気が付くだろう。

ドニーグリルの中の格子状の細かい模様は、平面に描かれたただの絵で、凹凸がまったくない。

てっきり立体的であろうと思い込んでいたのでびっくりしたが、EVであるから特に通風はいらないのである。これは、どうやら最近発売されたベンツのEQSでも同様のようだ。

航続距離は650km 充電時間に課題

シャシーはゼロから開発されたEV専用のプラットフォームで、アルミ押し出し材を多用したスペースフレームに軽量のFRPパネルが組み合わされる。

カーボンもドアやテールゲートに使用され、カーボン素材の織り目が随所に発見できる。

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バッテリー容量は大きいが、充電にはそれなりに時間がかかる。    戎大介

これだけ軽量化をしているにもかかわらず、床に敷き詰められたリチウムイオンバッテリーのおかげで、重量は2530kgにも達する。

モーターは前後に1基づつ用意され四輪を駆動し、最高出力/トルク313ps/8000rpm、40.8kg-m/5000rpmを発揮するが、この数値よりも注目すべきは、111.5kWhのバッテリー容量と650kmの航続距離である。

バッテリー容量が大きくなれば、航続距離も伸ばせるのは理の当然だが、111.5kWhのバッテリーを充電するのは、充電器容量がかなり大きくないと辛い。

これまで主流であった3kWhの充電器では満充電までに37時間余りでまったく話にならず、BMWが推奨する6kWhの充電器でも18.6時間もかかる。

ポルシェの8kWhであれば、14時間弱というところで、ようやく一晩で何とかなりそうなところまで来る。

幾ら650km走れるといっても、翌日も同じ距離を走りたいなら、大容量の充電器は必須であるということだ。

現状で、BMWインフラへの対応はもう少し頑張ってほしいものだ。

同様に、急速充電でも現在の高速道路のパーキングにある30-50kWhの充電器では、30分充電しても100km程度しか充電できず、無いよりはマシだがまったく使えない。

iXやメルセデスのEQS(107.8kWh)のオーナーが、現在の日本国内で長距離旅行に出た場合はしっかり充電器の位置と容量を計算してからでないと、時間のロスで無茶苦茶腹が立つ、ということになりかねない。

足まわりと剛性の高いシャシーが効く

実際に運転席に座ってみるとダッシュボードはかなり低く、その上に横長の巨大なモニターが広がり視界はとても良い。

ドアノブが見当たらないのでやや焦るが、クリスタルのボタンを押せば一段階ドアが開き、そのあと更にドアを押して空ける構造で、慣れるまではかなり戸惑う。

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BMW iX xドライブ50のインテリア    戎大介

スイッチ類はクリスタルが多用されているが、全体としては過剰な豪華さはなく、嫌みの無いスマートな内装である。

走り始めると直ぐに判るのは、加速時のモーター音の音色である。

著名な作曲家ハンス・ジマーのデザインによる音質は、殆ど音のない室内で心地よく耳に届いてきて、運転するのが楽しくなる。

ステアリングは、六角形のものが装着されていたが、わたしにとっては使い勝手が良くなく好きではない。

ドライビングの際のセッティングは細かく調整できるが、回生ブレーキをアダプティブ、すなわち自動にした場合は、高速道路の下りなどで本来わずかな回生が効いてほしい局面でコースティング状態になって慌てたりと、まだスムーズさには欠ける部分があるが、それを除けばステアリング操作に対しての足まわりの追随や、コーナリング時の姿勢の制御も含めてさすがにBMWという走りを見せてくれる。

とくにハードにセットした時のフィーリングは、剛性の高いシャシーのしっかり感と相まって非常に秀逸だ。

反面、エアサスでストロークは充分に深いにもかかわらず、細かい路面の凹凸をコツコツと拾ってしまうのはやや気になるところだ。

航続距離は心強い どんな人にオススメ?

わたしがiXを受けとった時の走行距離は9002kmで充電量は90%、走行可能距離は481kmであった。

早速、自宅のガレージの8kWhの充電器で充電してみると、常時7-7.1kWが流れ、約2時間で100%となり、その時の走行可能距離は530kmであった。

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1充電で500km以上走れるという点は心強い。    戎大介

試乗車であるからこれまでどのような走りのスタイルをしてきたかは不明だが、カタログ上で650kmの走行可能距離を謳っているので、実際の走りではこんなものなのかと思った。

しかし、1回の充電で500km以上走れるというのは実に心強い。

2週間にわたった試乗の中で、走行パターンによりかなり走行可能距離は増減して、最大の場合は何と596kmまで伸びたがワインディングを走った後は、551kmまで落ち込んだ。

とはいえ、これだけの走行可能距離なら充分以上である。

2週間にわたる試乗で走った距離は551km、この間に5回充電をおこなったがいずれもポルシェの8kWhの充電器を使用し、総充電量は142.725kWhとなった。

したがって、平均電費は3.86km/kWhとなる。

本国のテストデータが3.9km/kWhであるから、かなり正確なデータではないだろうか。

価格は、車両本体価格が1116万円で、オプションが273万8000円分装備されており、合計金額は1389万8000円となっている。

オプションの内容は、外装色のアベンチュリアン・レッドに31万5000円、内装のファーストクラス・パッケージに63万5000円、ラウンジ・パッケージに65万2000円、テクノロジー・パッケージ75万8000円、エアロダイナミック・ホィールに15万8000円、スポーツ・パッケージに22万円である。

このあたりの金額になると、競合はアウディeトロンメルセデスEQCなどになる。

SUVという枠を外せば、更に競合は増え、eトロンGTやタイカンも俎上に上がってくる。

総合的に見てけっして少額な買い物ではないので、BMW一筋でクルマ生活を送ってきた人に、これが新時代のBMWです、と言い切るには、もう一段の強烈な押しが欲しいと思う。

逆に、富裕層でそろそろEVを購入してみようか、という人にはEVの特徴をしっかりと打ち出しているiXはお勧めかもしれない。


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