仮想現実」(VR)や「拡張現実」(AR)などの要素を取り入れた「体感型コンテンツ」が主流となりつつある現代。「バーチャル」な存在は過去のどの時代と比べても、身近な存在となったはずなのだが…。

以前ツイッター上では、東京・足立区内にて発見された「馴染みのない体感データ」に、注目が集まっていたのをご存知だろうか。

【話題のツイート】この四字熟語、初めて見た…!


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■「足立区でしか使われない言葉」

今回注目したいのは、ツイッターユーザーのサンライズ日野さんが投稿した1件のツイート

足立区でしか使われない言葉」と、意味深な1文が綴られた投稿には「体感治安」という見慣れぬ四字熟語が続いている。果たしてそのような言葉は存在するのだろうか、と思わず首を傾げてしまったが…。

足立区

ツイートに添えられた写真を見ると、そこには「区内刑法犯認知件数」がピーク時より8割減少したことを示す横断幕が写っており、こちらの幕には「体感治安、大幅UP!」というフレーズが確認できたのだ。


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■「実質治安は?」とツッコミ相次ぐ

「体感」は読んで字の如く「体で感じること・体が受ける感じ」を表す単語のため、「体感温度」などのフレーズは理解できる。しかし「体感治安」とはどのような存在なのだろうか…。

ネット上ではしばしば足立区の治安があまりよろしくないとされ、同区を「修羅の街」などと呼ぶ文化が育まれていたためか、今回の「体感治安」も多くのネットユーザーの注目を集めた模様。

件のツイートは投稿からわずか数日で1万件以上ものRTを記録しており、他のツイッターユーザーからは「実質治安はどうなってるんですか…?」「誰が基準の体感なんだろう」「これ、足立区限定の言葉なの?」といった疑問の声が噴出していたのだ。

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そこで今回は、こちらの「体感治安」をめぐり、足立区役所「危機管理部」の犯罪抑止担当者に詳しい話を聞いてみることに。その結果、多くの人にとって耳馴染みのない4文字の、意外な正体が明らかになったのだ。

■そもそも「体感治安」って何だ…?

ツイート投稿主・サンライズ日野さんは、件の横断幕をJR綾瀬駅付近で遭遇したそうで、発見時の様子について「体感治安という初めて見る言葉に驚きました。見たことのない言葉を使うあたり、やはり足立区は他とは違うんだなと実感させられました」と、振り返っている。

しかし、こちらの「体感治安」は決して足立区限定の単語でなく、足立区担当者も「以前から公的に使用されている言葉です」「その内容は『数値で表される件数等ではなく、人々が主観的に感じている治安情勢』や『犯罪などに巻き込まれる不安をどの程度抱いているか』といったところでしょうか」と、補足していたのだ。

今回は恐らく、あまり馴染みのない(且つインパクトの強い)ワードを、治安がネタにされがちな足立区で発見してしまった…という点が、ツイッターでの盛り上がりや誤解を助長する形となったのだろう。


■治安が散々ネタにされる足立区だが…

「体感治安」の正体が明らかになったところで、続いては「足立区の実質治安」について尋ねてみることに。

今回話題となった横断幕は2021年(令和3年)3月に掲出されたもので、掲出のねらいについて足立区は「区内刑法犯認知件数の減少と治安の改善について、区民の皆様に幅広くお知らせするために製作・掲出したものです」と説明している。

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足立区では、近藤やよい区長が就任した2007年(平成19年)より「美しい街を印象付けることで犯罪を抑止しよう」という区独自の運動「ビューティフル・ウインドウズ」を推進中。

こちらの運動やその他、各種対策の効果もあってか、横断幕に書かれているように、2020年(令和2年)中の刑法犯認知件数がピークであった2001年(平成13年)中の「16,843件」から8割減少した「3,693件」となり、特殊詐欺被害の件数もピークと比較して大きく減少している。

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また、足立区では毎年「足立区政に関する世論調査」を実施しており、その内容に「居住地の治安状況」という項目が設けられているそう。

担当者は「治安が『良い』と感じている人の割合は年々上昇傾向にあり、横断幕を製作した令和2年度の調査では61.6%、「悪い」と感じている人の割合は23.5%と、その差が前年比さらに拡大しました。これらの結果に基づき、体感治安の向上と捉えています」とも補足してくれたのだ。


■足立区は「治安の悪い街」ではない

これらの話を総括し、その土地に暮らす住民にとって「体感治安」がいかに重要な存在であるかは理解できた。しかし、件のツイートにも寄せられていた「実際の治安」についても気になるところ。

こちらについて、より踏み込んで話を聞いてみると、昨年(令和3年)中の刑法犯認知件数は横断幕に記された「令和2年」の件数をさらに下回り、3年連続で「戦後最少」を更新していることが判明したのだ。

担当者はこれらの実績について「都内でもトップクラスと自負しております」「区内には大学や大学病院が誘致されるなど、治安の改善と共に、街のイメージも大きく改善された成果と捉えています。また本年5月には、内閣府が認定する『SDGs未来都市』(SDGs達成のために優れた取り組みを進めている自治体)にも選定されました」と、足立区の現状と併せて強調する。

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勿論これらの成果はほんの一端で、足立区では他にも様々な治安向上の努力に着手し、実現させている…のだが、担当者は「その一方で残念ながら、未だに『危ない街』などと揶揄され、メディア等で面白おかしく取り上げられることがあるのも事実です」と表情を曇らせる。

しかし続けて「これからも足立区の実態について、より多くの皆様に『正しく』理解して頂けるよう、さらなる刑法犯認知件数の減少をはじめ、体感治安の改善、プラスイメージの創出等に向けて『足立区総ぐるみ』で取り組んでまいります」と、区全体の抱負を語ってくれたのだ。

足立区を「修羅の街」と呼んでいる人の中には「あくまでネタとして」こちらの表現を使用しているケースも少なくないと思うが、もし足立区の現状を知らずに使用していたのならば、改めて同区の努力とその成果に目を向けてもらいたい。

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(取材・文/Sirabee 編集部・秋山 はじめ

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