毎年、相模湾で恒例行事のように楽しんでいる晩秋イナダの数釣り。

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 6月下旬頃はまだ20センチを少し超えるくらいだった個体が、例年9月を過ぎる頃になると35~45センチ程度にまで成長し、沿岸から次第に群れが抜けていく11月下旬頃まで、型良く脂の乗ったイナダ釣りを楽しむことができます。

 釣り方もアジの船釣り経験者であれば、比較的簡単に要領が得られます。

 初心者でも最盛期であれば、船長や周りに教えてもらいながら1日頑張れば、コツを体得でき、釣果も得やすい釣りです。

 ただ、ここ数年ほどの間に私の経験的実感として、9月を過ぎると釣況が変化。タチウオ釣りとまでは言わないまでも、その年の傾向やその日の釣り方を探って釣果が伸ばしていく、ややゲーム性の高い釣りに変化してきたように思います。

 それはそれでとても面白いのですが、このような変化を感じたとき、その要因を探ってみたくなるのは、釣り人の性。

 今回は、少し気難しくなった晩秋イナダの釣況と行動変化の要因について、「魚の学習・判断力」をヒントに、実釣とともに検証してみました。

イナダの行動変化の要因

 秋のイナダ釣りでは晩秋に向かうほど群れが抜けて次第に数も減少し、「今日は渋かった・・」という日は、よくあることです。

 ただ、ここ数年はイナダが船下にいてもアミエビに口を使わない(針の餌に食いつかない)日に当たることがあります。

 船下にはベイトに交じって多数のイナダの魚探反応が出ているようで、船長曰く、ベイトに付いてしまっている(捕食対象の小魚を狙っている)ようです。

 8月頃にはコマセ釣りで少し小ぶりのイナダ(35~40センチ程度)の釣れ盛る様子が、釣果情報を賑わせていました。

 逃げるベイトよりも容易に口に入るコマセをモリモリ食べていたはずが、次第にコマセへの反応が薄くなっていく現象は、その過程の中で何か「学習の機会」があったのではないか・・。

 調べてみると興味深い関係が見つかるかもしれません。

魚の学習力の検証

 ここに魚の学習と行動特性の実験結果をまとめた著書があります。

 人工孵化の「真鯛」、あるいは「ヒラメ」の稚魚に捕食者である「オニオコゼ」や「キセンガニ」を直接遭遇させます。

 そして、捕食されずに生き残った個体を再び捕食者と遭遇させた場合には生存率が高くなるという結果が報告されております。

 つまり、一度捕食の危険にさらされると、捕食者を見た瞬間から警戒・逃避する対捕食者行動を取るというものです。

 その後、ヒラメが成長して捕食できないサイズになっても、対捕食者行動を取ったという結果から、「捕食者認識」と一定の「記憶の継続」が確認されています。

 また面白いことに、捕食される映像を見せた場合にも、同じような反応があり、近くで捕食の様子を見ているだけでも学習する興味深い結果となっております。

(「魚類の行動研究と水産資源管理」日本水産学会監修、棟方有宗・小林牧人、有元貴文編 )

 さらにその行動変化は、「サクラマス」の研究で確認されています。

 飲み込んだ針を吐き出した経験のあるマスは、その後もエサの付いた針に食いつきますが、次第に食いつきが緩慢になって、その後針を口に入れなくなるという摂餌行動の変化が記録されております。

(「魚の行動特性を利用する釣り入門」川村軍蔵著)

 つまりイナダに当てはめれば、夏場にコマセに寄ってうまく針を吐き出したり、釣られる状況を見たイナダが学習し、次第にハリスとコマセを見ると警戒。むしろコマセに寄ったベイトを食べ始める・・というものです。

 夏場の釣りが盛況であるほど学習して、秋から晩秋にかけて次第にテクニカルなイナダ釣りになるという仮説に思い至ります。

 そういった視点で実釣を思い起こしてみると、納得できる点が多いことにも気付きます。

1.オキアミを付けて、待っても誘っても食いが極端に悪い

2.「イカタン」(イカそうめんのように短冊状に切ったもの)と、「しゃくり」でベイトを寄せてイカタンを泳いでいる魚のように紛れ込ませるイメージでパターンがハマると、入れ食いになる

3.事後的ではあるが、釣果の胃袋の中にはオキアミはほとんど見られず、ベイトが入っているか空腹であった

今年のイナダ釣りの傾向

 今年の相模湾のイナダ釣りの傾向は、小型のカンパチとの混成です。

 日によって混ざったりイナダだけやカンパチだけの日もあったりと、ムラがあります。

 さらに9月以降の釣況では、コマセへの反応は薄く、ベイトへの反応が強いため、「ルアー釣りの要素を取り入れた釣法」が釣果を伸ばしているように思います。

 釣り方の選択としては、「しゃくり釣り」「落とし込み釣り」があります。

 さらに仕掛けの選択にはしゃくり用に①ウィリー仕掛け、落とし込み釣り用に②胴付き仕掛け、カンパチがいる場合には③カッタクリ仕掛け(しゃくり用、胴付き用)を組み合わせていきます。

 それぞれの釣り方はネットに数多く出ておりますので割愛しますが、釣行時には胴付きと天秤と両方に対応するカゴが必要になりますので、そこが注意点です。

今回の釣行

 今年も楽しみにしている晩秋の相模湾のイナダ。9月に入り、釣果情報でのサイズも良くなってきました。

 もう一息と思いながらも、荒天が続き、僅かに垣間見る断続的な釣果情報からは既に渋めな釣況。

 心穏やかに10月を待てず、荒天の合間を縫って9月の終わりにようやく釣行の機会を得ました。

 乗船時に船長に最近の傾向を伺うと、天秤仕掛けのイカタンで様子を見て、後は釣況で胴付きに変更していく組み立てとなりそうです。

 江の島が見える浅めのポイントに入り、船長からは、「置き竿釣法は極端に釣果が落ちるので、コマセを振って仕掛けを動かしてしゃくり釣りにしてください」とアナウンス。

 まずは1メーターの幅で3秒程のピッチで始めますが、アタリはなし。しばらくして左舷胴の間(左側中央付近)でヒット。

 釣れた人のしゃくりパターンから、50センチピッチで早めの巻きに変更すると、すぐにヒット。残念ながら、ハリス切れ。

 どうも、初めて使う電動リールのパワーとドラグ設定、竿の硬さが合っていないようです。

 船長のアドバイスでハリスは見切られるので太くできない。ドラグを調整するも、そこから続けて3本ハリス切れで逃すと心穏やかではいられず、思いきって腰の強い竿に変えて、電動リールも手巻きで使うことにしました。

 ほどなく掛かったイナダを手巻きでゆっくり上げて、ようやく1本。

 既に型は45センチクラス。その後は誘いのパターンが合ったのか、モーニングタイムにパタパタと追加で5本取れて快進撃。

 のはずでしたが、地合い終了。

 その後はソウダガツオの猛攻や沈黙の時間帯を経て、終了間際にようやくヒットに持ち込むも、船縁で初歩的なミスでバラしてしまい、痛恨でした。

 今回も釣果の多くは楽しみに待っているご近所に。我が家では、まだ身の硬いイナダをサイコロ状にして、アボカドと山芋と醤油にみりん、胡麻油と和えた恒例のイナダ丼。端切れは薬味とともにタタキにしてお箸が止まらない2品。

 また数日寝かせて少し甘味を引き出してから薄切りにしたカルパッチョを胡椒の粒とともに。

 またこの時期になると絶品のゲスト、ヒラソウダガツオは、黒胡椒オリーブオイルバルサミコ酢で和えて、アクセントに糸切り唐辛子、胡椒粒、乾燥ディルでワインと合う美味しい2品をそれぞれ楽しみました。

 今回は釣り方の変化は捉え、渋い中でも策を巡らせ、イナダのヒットは14回と例年になく良かったものの、使いたいパワー電動リールを先に決めてしまったことで、ハリス切れ連発。

 後半立て直して終わってみると釣果は例年並み。タックル全体のバランスの大切さを知った釣行でした。

 いつまでも学びは尽きません。

次ページにこれまでの連載一覧

第1回:ITが激変させた釣りの楽しみ方と釣果(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59294

第2回:SNSを駆使して釣りの楽しみ10倍増(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59542

第3回:ITを駆使してお金をかけずに釣りを楽しむ(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/59827

第4回:好奇心と予算コントロールで釣果を上げよう(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60091

第5回:手軽に楽しめる「江戸前小物釣行」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60560

第6回:シーズン到来、アジ釣りのタイプ別楽しみ方(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60891

第7回:繊細な引きが病みつきに、河口の手長エビ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61369

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第10回:初心者もマニアも楽しいイナダ釣り(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62472

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江の島を遠望するイナダ釣行風景(筆者撮影、以下同じ)