昭和音楽大学を会場にして毎回2組のアーティストが「音楽をテーマにした講義」と「アコースティック・ライブ」を行う産学連携のライブ・イベント「楽演祭」。約2年半ぶりの開催となった「楽演祭 Vol.6」に出演したのは、10-FEETの卓真とシンガーソングライターの高橋優。両者が主催するフェスへの想いや二人が影響を受けた音楽に関する講義、そして、アコギ弾き語りによる初共演ツーマン・ライブが10月26日に行われた。

【写真】“前髪パッツン”の可愛らしい髪型で、アンコールに登場した卓真と高橋優「楽演祭」にて

■アーティスト主催フェスを地元、京都と秋田にこだわり開催する意義

“講義”は卓真、高橋優、音楽ジャーナリストの柴那典を交えて進行した。最初のテーマは「育った土地でフェスをやる意義」。

10-FEETは2007年から「京都大作戦」を開催。もともとは10周年を記念して行われる予定だったが、2007年は台風で中止に。翌年、前年に出演予定だった全バンドが集まり、フェスとしてスタートした。バンドマン同士の強いつながりが感じられるのが、このフェスの魅力だ。そして高橋は2016年から「秋田CARAVAN MUSIC FES」を開催。“あきた音楽大使”に任命されたことを機に立ち上げられ、“キャラバン”という名の通り、毎年開催地を変えながら開催されている。両者はそれぞれのフェスへの思い、コロナ禍によって変化した意識などについて話した。

続いてのテーマは「さまざまな音楽からの影響」。卓真は、野狐禅Green Day、Shaggy、Nirvana、Sepulturaの楽曲、そして高橋は、東京ゲゲゲイLimp Bizkit、友川かずき松崎しげるブリーフ&トランクスの楽曲をセレクト。それぞれの音楽ルーツに関する興味深いトークが繰り広げられた。

最後は学生からの質問コーナー。「音楽業界の仕事を長くやっていくために必要なことは?」「緊張をほぐす方法は?」という質問に対して二人は、自身の経験をユーモアを交えながら回答した。

■“前髪パッツン”で登場のアンコールでは、エレカシ「今宵の月のように」をセッション

そして19時からは、卓真、高橋優のツーマン・弾き語りライブ。まずは高橋優がステージに登場。静かにアルペジオを響かせながらはじまった1曲目は「福笑い」。バラード風にはじまり、“それだけがこの世界の全てで/昭和音楽大学で歌う僕の全て”と歌い上げる。「“楽演祭”、一緒に楽しみましょう」という言葉をきっかけに手拍子が起こり、心地よい一体感が生まれた。

鋭利なギターストロークとともに子どもたちの絶望と微かな希望を描いた「こどものうた」を突き立てた後、MCでは「講義の資料に載ってた自分の写真が“前髪パッツン”だった」という話題でホッコリさせる。このバランス感もまた、高橋の魅力だ。 

最新アルバム「ReLOVE&RePEACE」の収録曲「勿忘草」の後は、打ち込みリズムを流しながら「Piece」を披露。そのまま代表曲「明日はもっといい日になる」につなげ、大きな感動を生み出した。席から立ち上がり、体を揺らしながら楽曲を受け取っている観客も楽しそうだ。ラストは「またいつか、みんなと一緒に歌える日が来たらいいなという思いで書いた曲です」という「HIGH FIVE」。“何度倒れても、未来へ歩き出そう”というメッセージは、すべてのオーディエンスの心にしっかりと届いたはずだ。

続いては卓真のステージへ。切なさと壮大さを併せ持ったギターの響きとともに奏でられたのは、“心が透けて見えたら また一人になるかな”という歌詞がジンワリと沁みた「アゲハ」。さらに「今日は全部、許そうと決めてきた。ただ、早めに退出しようとすると、会場の段が滑り台になって、全員が前に集まる仕組みになってる(笑)」というトークで笑いを取り、10-FEETの代表曲の一つ「RIVER」で大らかな高揚感を生み出した。

さらに“いつでも成長できるし、いつでも変われる”という思いを込めた「私が歩いてきた道は」、「さっき楽屋でアコギのアレンジを考えました」という10-FEETの人気曲「ハローフィクサー」を続けた後、1stデジタルシングルの「軍艦少年」(映画「軍艦少年」主題歌)を披露。迷いながら、揺れながら、それでも“何か”を求める姿を描いたこの曲は、ソロアーティスト・卓真の豊かな音楽性に溢れていた。

また、「高橋優くんの歌を聴くと、めっちゃ元気になります」というMCから「福笑い」(高橋優)の冒頭のフレーズを歌い、そこから「風」につなぐアレンジを披露した。この日だけの特別バージョンである。最後に歌われた「生きていけちゃうな」における、生きることへの真摯な思いを込めた歌詞にも強く心を揺さぶられた。

最後に、鳴り止まない手拍子に導かれ、卓真、高橋優は再びステージへ登場(二人とも“前髪パッツン”)。“二人で何かやろうということになって、LINEでやりとりしました”というトークの後、「今宵の月のように」(エレファントカシマシ)を披露。「楽演祭」でしか見ることができない超レアなセッションが実現し、会場は大きな拍手で包まれた。

写真/コザイリサ  取材/森朋之,

「楽演祭」/※提供写真