30代で結婚し、子ども生まれ、マイホームを買い、60歳で定年を迎える……そんな日本人の平均。ただその通りに人生が進んでいくとは限りません。思わぬ病気で襲われたり、それによって収入が途絶えたり。高齢者がなるものというイメージのある認知症にかかる場合もあります。みていきましょう。

平均的な日本人のライフステージを襲う不測の事態

日本人の平均をみていきましょう。

まず「結婚・出産」について。日本人の初婚年齢は男性平均31.2歳、女性平均29.6歳。そして第1子誕生は平均30.7歳(以上、厚生労働省『人口動態』より)。

子どもが生まれてから「マイホーム」を考え出す人も多いのでしょうか。マイホーム購入世帯の世帯主の平均年齢は、注文住宅(新築)で40.9歳、分譲戸建て住宅で38.4歳、分譲マンションが44.3歳。その価格は、注文住宅で4,879万円(うちローンが4,036万円、返済期間は建築費が32.9年、土地購入費が34.2年)、分譲戸建て住宅が4,205万円(うちローンが3,406万円、返済期間は34.1年)、分譲マンションが4,674万円(うちローンが3,337万円、返済期間は32.0年)。仮に平均的な年齢で平均的な新築マンションを購入したとしたら、月々の返済は10.1万円ほどです(以上、国土交通省令和3年度住宅市場動向調査』)。

そして「収入」についてみていきましょう。男性正社員の平均給与(所定内給与額)は月34.8万円。手取りにすると、夫婦と子ども1人でおよそ27万円。賞与も含めた年収は571.1万円。20代前半で月24万円ほどだった給与は、年齢と共に上昇し、50代で月40万円を超え、年収は700万円弱に達します(以上、厚生労働省令和3年賃金構造基本統計調査』より)。

最後に「老後」について。平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳。それに対し健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳。そんな老後を支える年金は、元会社員の65歳以上男性で17万0,391円、女性で10万9,205円です(以上、厚生労働省『人口動態』『令和2年厚生年金保険・国民年金事業の概況』)。

以上が平均値。ただすべてが平均通りいくわけではありません。不測の事態に見舞われ、ライフプランが大きく変わってしまうことも。たとえば病気。日本人の死因第1位はがんですが、男性の場合、肺がんや胃がん、大腸がんは年齢と共に羅漢率は上昇。70代後半では10万人あたり400~600人ほどになります。

がん=高齢者の疾病というわけではなく、現役世代でも羅漢する人も。女性の場合、乳がんの発症率は40代後半で10万人あたり211.3人と、いったんピークに達します。

【男性の「肺がん/胃がん/大腸がん」10万人あたりの羅漢率

40~44歳:7.7人/17.0人/23.3人

45~49歳:20.6人/30.3人/38.5人

50~54歳:45.8人/62.1人/80.7人

55~59歳:88.3人/134.4人/135.2人

60~64歳:174.1人/233.3人/216.4人

出所:国立がん研究センター(新断年:2013年)

決して他人事ではない「若年性認知症」

不測の事態は、がんだけではありません。40代後半で10万人あたり17.4人、50代前半で10万人あたり51.3人……これは若年性認知症の有病率。認知症というと、だいぶ高齢になったらなるもの、というイメージがありますが、決して現役世代も無関係ではありません。肺がんや胃がん、大腸がんと同じ程度のリスクがあるといっていいでしょう。

【年齢別『若年性認知症有病率』(推計)】

18~29歳:4.8/1.9/3.4

30~34歳:5.7/1.5/3.7

35~39歳:7.3/3.7/5.5

40~44歳:10.9/5.7/8.3

45~49歳:17.4/17.3/17.4

50~54歳:51.3/35.0/43.2

55~59歳:123.9/97.0/110.3

60~64歳:325.3/226.3/274.9

※数値は10万人あたりの有病率で、単位は人。左より男性、女性、総数

出所:厚生労働省令和2年若年性認知症実態調査』より

一般に、65 歳未満で発症する認知症のことを「若年性認知症」と呼び、推計3万5,700人。18~64歳の人口10万にあたりの有病率は50.9人、推定発症年齢の平均は51歳程度とされています。

がんは早期発見により「治る病気」といわれるようになり、治療後に仕事復帰したり、治療をしながら仕事を継続したりというのも、いまや珍しくありません。一方、いまのところ認知症は進行を遅らせることはできても、治すことは難しいとされています。もし、認知症を発症したら……気になるのは「お金」のことでしょう。

東京都『若年性認知症の生活実態に関する調査』(平成31年3月)によると、若年性認知症と診断された人のうち、発症前と同じ職場で働いている人はゼロ。「解雇」14.3%も合わせると、7割近くが「退職」の道を歩んでいます。また10%が「住宅ローンの返済あり」となっています。

仮に50代前半で若年性認知症を発症したとしましょう。給与は平均月42.2万円、手取りにすると32万円ほど。年収は推定694万6,900円です。平均通り新築マンションを購入したとしたら、ローンの支払いはあと20年ほど、残金は2,000万円を超えています。このまま、今の職場で働き続けることはできず、収入減は避けられそうもありません。

若年性認知症と診断されたら、将来を悲観するしかないのでしょうか。

若年性認知症と診断されたら…自身と家族の生活を守る制度

決して他人ごとではない若年性認知症。診断後も自身と家族との生活は続いていくので、そこで気になるのはやはり収入です。

会社勤めであれば傷病手当金を申請することができますし、認知症の症状が進んだ際には、精神障害手帳を取得し、障害年金の申請もできます。

たとえ、現在の仕事を続けることが困難でも、企業によっては障害者雇用制度で採用という道もありますし、就労継続支援事業所で働き続けることも。認知症だからといって社会参加を諦める必要はなく、収入減は避けられませんが、収入ゼロは回避できるでしょう。

そして住宅ローン。たいてい団体信用生命保険に加入しているでしょう。症状によっては返済が免除される場合もあるので、一度、確認することをおすすめします。

若年性認知症の場合、症状が進んでも、若いだけあって体力があり、力が強いのが、介護の際に少々厄介。施設での介護が必要になっても、場合によっては入居等を断られるケースがあります。家族の負担軽減のためにも、症状が進行する前に、施設選びを進めることが重要です。

また財産の管理についても、症状が進行する前に整理することが大切。たとえば、最近、認知症対策として知られるようになったのが家族信託。預金や株券、不動産等の財産を、本人に代わり運用していくことができる制度です。症状が進み問題が起こる前に、家族まじえて話し合っておきましょう。

まさか自分が……若年性認知症と診断されたら、誰もがそう思うでしょうし、自身だけでなく家族も不安でいっぱいになるでしょう。そんな不安に寄り添い、解決してくれる制度等、充実しています。社会の理解も進んでいますので、将来を悲観するしかない、というものではなくなってきています。

(※写真はイメージです/PIXTA)