信じられないスピードで資産を増やした先輩投資家に話を聞いてみたら、どうやら「1法人1物件スキーム」というテクニックを用いているらしい……てっとり早く資産を拡大する様子を見て羨ましくなり「よし自分も!」と思ったなら、注意が必要です。あっという間にメガ大家にもなれる「1法人1物件スキーム」というテクニックについて、その概要と、注意すべきブラックな真実を整理します。

1法人1物件スキームとは?

不動産投資物件を購入するにあたって、物件ごとに新設法人を作り、各法人ごとに異なる金融機関から融資を受けることを「1法人1物件スキーム」といいます。他に「複数法人スキーム」や「多法人スキーム」などと呼ぶこともあります。

・A物件の購入あたり、A法人を設立し、A銀行から融資を受ける

・次にB物件の購入にあたり、B法人を新設し、今度はB銀行から融資を受ける

・さらにC物件の…

といった具合です。

ある時期、一部の業者が主催する不動産投資セミナーなどで紹介されて広まった結果、インターネットでも広く話題になり、急速に資産を拡大する「禁断の手法」などともてはやされました。

なぜ1法人1物件スキームで資産が増やせるのか? メリットとされる点

なぜこの1法人1物件スキームが広まったのかを理解するためには、まず法人化のメリットを確認しましょう。

・収入が一定額を超えると個人よりも税率が低くなってキャッシュフローが良くなる

・経費の計上がしやすく節税方法の選択肢も多い

・物件を資産管理法人に所有させると相続を円滑化できる

・個人よりも融資を受けやすい

特に最後の点に注目です。金融機関から融資を受けるにあたって、個人の与信枠には限界があります。収入や資産、職業、年齢、返済中のローンなどの属性から判断され、不動産投資ローンとして借りられる金額の上限が設定されるのです。ところがこれが法人になると、融資の限度額という考え方がありません。そのため不動産投資で資産を増やそうと考える場合、法人化のメリットが大きいことになるのです。

ただし、いくら法人だからといって無尽蔵に融資を受けられるわけではありません。金融機関もその法人の資産や負債、収入などを都度審査して、融資する金額を判断します。そこで「複数法人を新設する」という考え方が登場します。ひとつの法人で融資を受けた後は、別の法人を立ててそちらで融資を受けようということです。

このようにして、できるだけ大きな融資を受けながら資産を増やしていくのが1法人1物件スキームです。複数の法人を立てて融資を引くこと自体には何ら違法性はありませんので、これだけ聞くとまっとうなテクニックのように思えますが、重大な問題点があります。

1法人1物件スキームの問題点…そのブラックな真実とは

上述の手法で法人を新設→融資→新設→融資→……を繰り返すためには、ある条件が必要です。それが「他の法人で融資を受けていることを銀行に隠す」ことです。つまりこのスキームは、金融機関を欺くことで成り立つのです。

新設法人をつくって融資を受けるにあたって、投資家は「連帯保証人」に設定されます。しかしこの事実は個人の信用情報には記載されません。そのため、黙っていれば他の法人の借入額が金融機関に知られることはありません。だからこれを繰り返すことで、個人の与信枠を超えた融資が受けられるというわけなのです。「聞かれなかったから答えなかった」という態度をとる人もいるようですが、報告義務違反と捉えられれば重大な結果を招くことになります。

まさにブラックな真実の上に成り立っているのが1法人1物件スキームです。

現在は1法人1物件スキームは「バレる」…1法人1物件スキームの大きすぎるデメリット

このスキームが流行した当時は上述のとおり金融機関が実態を知る方法が限られていたのですが、現代では対策がなされており、いわば「バレる」ようになっています。マイナンバー制度によって隠蔽していた法人の存在が明らかになったり、金融機関の合併によって機関同士の情報連携が強化されたりするためです。

まっとうな手段として複数法人を持つことはもちろん問題になりませんが、金融機関に事実を隠して行ういわゆる「1法人1物件スキーム」は通用しにくくなりました。

もし1法人1物件スキームを行っていることが金融機関にバレた場合、重大な結果と向き合うことになります。一括返済を求められたり、融資を中止されたりすることになるのです。

まとめ:1法人1物件スキームは金融機関に隠し事をしない前提で

一時期はもてはやされた手法であり、一見すると法的にも問題がないように見えますが、いわゆる「1法人1物件スキーム」はブラックです。その結果も重大なものになりますから、よくわからないうちに手を出すのは控えるべきでしょう。

ただし複数の法人を持つこと自体に違法性はありませんので、正しい知識を持つことが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)