Twitterを中心に注目ドラマの感想を独自の視点でつづり人気を博している、かな(@kanadorama)さん。

2022年10月スタートのテレビドラマファーストペンギン!』(日本テレビ系)の見どころを連載していきます。

かなさんがこれまでに書いたコラムは、こちらから読めます。

世の中の価値観が変わっていくとき、ほとんどその変化はグラデーションだ。

どこに境目があったかは、その時は分からない。数年越しに振り返って、ああ、変わっていったんだなと思う。

グラデーションは時間の流れにもあるし、世代間にもあるし、中央から周辺への地理的な条件もある。

ファーストペンギン!』(日本テレビ系 水曜22時)は、一人のシングルマザーがとある漁村にやってきて、漁師達と変革をおこしていく物語だ。

それは裏返せば、保守的な土地柄の人々が、時に拒否したり考え込んだりしながら、どのように新しい価値観を受け止めて、変化か現状維持かを判断する様を描いていく物語だ。

食い詰めたシングルマザーの岩崎和佳(奈緒)が一人息子をつれてやってきた、山口県のとある漁村・汐ヶ崎。

彼女は漁獲量が減り、漁師の収入も減り、寂れていく浜で何か新事業を興せないかと漁師の片岡洋(堤真一)から頼まれ、国の六次産業化プロジェクトの認可を得て鮮魚の直販『お魚ボックス事業』をスタートする。

既得権益である漁協の妨害や、通販の作業に不慣れな漁師たちとのトラブルも乗り越えて、銀行からの融資で経営資金も潤沢に得た。

しかし、ようやく直販事業が軌道に乗ったところで、思いもよらない人間関係のもつれが明らかになる。

今まで、時折和佳にビジネスや漁師達との関係に助言をする琴平祐介(渡辺大知)という謎めいた青年が描かれていたが、今回、その琴平が片岡の息子だと明らかになる。

息子は、死別した妻の連れ子で、職業は医者。和佳の息子を診察した縁で親交があることも判明する。

祐介は過去に進学にあたって、片岡と互いを思いやるあまりに喧嘩別れしており、東京で片岡たちを案じて和佳に汐ヶ崎行きを勧めたり、間接的に直販事業の相談に乗っていたのだった。

それ自体は今までの片岡の回想や琴平の事情ありげな描き方で予想はできたのだが、予想外はここからである。

和佳との親密さを見て、結婚を勧めた片岡や漁師たちに、祐介は自分が同性愛者であることを明かす。

その上で、この浜に戻って開業医になりたい、自分が性的マイノリティであることを触れ回ることはないけど、「隠すこともない」と言う祐介に、片岡は狼狽えてそれは迷惑だと言ってしまう。

「そねえな…お前…東京なら、あれかもしれんけど、そねえな訳分からんもん、ここん持ち込まれても困るんちゃ」

息子の生き方を理解したいと頭の半分では思いながらも、東京のような都会ならともかく、この地元ではそれは困ると、おろおろと言う片岡の言葉が生々しい。

魚の流通にしても、現状を変えねば未来が暗い、でも今起きるデメリットを受け入れたくない。

同様に、マイノリティへの理解にしても、理念の上ではわかっていても自分の身近な存在になると、理念より現実の不安が先に来る。

この物語は、総論賛成・各論反対になってしまう人々の綺麗ごとと矛盾を、人情味ある物語の優しさの中で容赦なく斬ってくるのである。

再び断絶しかけた片岡と祐介を繋いだのは、祐介のマイノリティとしての痛み多き人生を、父親として理解してあげてほしいと願う和佳の言葉だった。

保守的な価値観で生きてきた男には、それが通じる言葉で、実感できる情愛で語りかけていく。

年齢、性別、立場を超えて、パートナーとして成熟しつつある和佳と片岡の、この時の会話が印象深かった。

この関係性の成熟もスイッチが切り替わるようなものではなく、幾つかの衝突と解決を経たグラデーションだったのだと思う。

今週、もう一つの予想外は、ここまで和佳を支えてきた漁師の永沢(鈴木伸之)だった。

その優しさと和佳への献身ぶりから、当然『相手候補』最有力に見えていたが、今週のラストでまさかの「船団丸を退職したい。子供が出来たようなので」と、他に恋人がいると伺わせる爆弾発言。

やはり森下佳子の脚本は、「定型の展開に見せかけて曲者だ」と痛感する展開だった。

これまでにこのドラマは、衰退する地方とシングルマザー(和佳)、生きづらさを抱えた若者(たくみ)、社会的マイノリティ(祐介)といった社会的な弱者の距離を丁寧に描いてきた。

そして次は『選ぶ』若者が、よりよい未来の為にどこに住み、どんな仕事を選んで生きるのかを描くのではないかと思う。

優しい人情派ドラマに見えて、やはり一筋縄ではない。後半もまだまだ船は揺れそうだ。

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[文・構成/grape編集部]

かな

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