近代史研究のフロントランナーとして、角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞、サントリー学芸賞など数々の受賞作を刊行してきた瀧井一博氏の最新作、『大久保利通――「知」を結ぶ指導者』が第76回毎日出版文化賞(人文・社会部門)を受賞しました。
 明治維新の大立役者でありながら、親友西郷を見捨てた裏切り者、新政府の独裁者と見られてきた大久保の業績を掘り起こし、新たな光を当てる画期的考察です。


 志半ば、凶刃に斃れた悲劇の政治家が描き続けた日本の国づくりとは何だったのか――。
 人の才知を見抜き繋いだオーガナイザー、地方からの国づくりを図った地方創生論者、日本に埋もれた知を掘り起こして博覧会を開いたプロデューサー……、そして、これらを貫く確固たる理念。
 本書で描き直される新たな大久保像は、現代の政治家、指導者にも通じる重厚なリーダー論として読み説くことができます。


■受賞のコメント:瀧井一博氏
「毎日出版文化賞の受賞という栄に浴し、まことにありがたく、望外の喜びです。私がこの賞の存在を知ったのは、いま勤務している国際日本文化研究センターの創設者で初代所長でもある梅原猛先生の『隠された十字架』でした。高校生の時、この書を読み、その帯に確か「毎日出版文化賞受賞作」の文字がありました。梅原先生の圧倒的なスケールには及びもつきませんが、先生の後を継いで受賞できたのは、今後の学者人生において大きな励みとなります。

 リーダー不在と言われて久しい時が経っています。日本人は新たな大久保利通の登場を待っているのかもしれません。しかし、本書で論じようとしたのは、大久保が日本の随所に潜んでいる有為の人々を発掘し、彼らを結び合わせ、その後に従っていこうとしたことです。大久保の人生の隠されたミッションを掘り当てようとする作業を評価し、エールを送っていただけたことに心からの謝意を表します。」

■書籍内容
 大久保利通といえば、マッチョな男性主義の権化のように思われてきた。彼は倒幕運動に強引な手腕を発揮し、策謀を施して王政復古のクーデタを牽引した。明治維新後も廃藩置県を断行し、征韓論政変で政敵を追い落とし、西南戦争では非情にも盟友西郷隆盛を死に追いやった。大久保にまとわりつくのは、確固とした意志で自らの政治信念を貫徹する独裁的指導者のイメージである。

 しかし、膨大に残された大久保の記録を深く読み解くと浮かび上がってくるのは、それとは別の、もう一つの大久保の姿であった。本当に大久保利通独裁者だったのか――。

 例えば、大久保の肝煎りで創設され、その権力の根源とされた内務省だが、そこでの政策立案の過程を緻密に考察すると、多くはそこに集った能吏たちが自由かつ自発的に策を練った結果であり、大久保が強靭な指導力を発揮した形跡はほとんど認められない。

 だが、だからといって、大久保が政治指導者として張子の虎だったというわけではない。集った能吏の多くは大久保によってその才を見出された者たちで、大久保はひたすらに彼らの後景にまわり、その動きを見守っていた。この様を筆者瀧井一博氏は、かつての南アフリカ大統領ネルソン・マンデラの言を引いて、次のように評する。

「羊飼いは群れの後ろにいて、賢い羊を先頭に行かせる。あとの羊たちはそれについていくが、全体の動きに目を配っているのは、後ろにいる羊飼いなのだ」(ネルソン・マンデラ『自由への長い道』)

 つまり、マンデラによれば、指導者とは前衛に立って人々を引っ張っていく存在というよりも、むしろ群れの後ろに付き従って、群れの行き先を見通しながら、彼らを束ねていくものなのである。大久保の指導力というのも、羊飼いとしてのそれだったとはいえないか。  (『大久保利通 「知」を結ぶ指導者』、「まえがき」より)

 こうして新たに見出された新たな「大久保利通像」を、本書は「理の人」、「建てる人」、「断つ人」、「結ぶ人」の4つの視点で、詳細に考察する。

■著者紹介
1967年福岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程を単位取得のうえ退学。博士(法学)。神戸商科大学商経学部助教授兵庫県立大学経営学部教授などを経て、現在、国際日本文化研究センター教授。専門は国制史、比較法史。角川財団学芸賞、大佛次郎論壇賞(ともに2004)、サントリー学芸賞(2010)、フィリップフランツ・フォン・シーボルト賞(2015)受賞。主な著書に『伊藤博文』(中公新書)、『明治国家をつくった人びと』(講談社現代新書)、『渡邉洪基』(ミネルヴァ書房)他多数。


■書籍データ
【タイトル】『大久保利通―「知」を結ぶ指導者―』
【著者】瀧井一博
【発売日】7月27日発売
【造本】四六判ソフトカバー
【本体価格】2,420円(税込)
【ISBN】978-4106038853

配信元企業:株式会社新潮社

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