
貧困問題など遠い世界の話のように思えますが、日本では意外と身近な問題。「子どものいる貧困世帯」に注目すると、なかでも「高校生の子どものいる世帯」で貧困率が高いことが分かります。みていきましょう。
日本の子どもの7人に1人は貧困状態
11月から値上げされたのは、牛乳をはじめ770品目以上だとか。毎月、毎月耳にする物価高のニュースに、もう家計は破綻寸前! という家庭も多いでしょう。普段使わないような買い回り品が値上がりする分にはいいのですが、今回の物価高は最寄り品にまで及んでいますから、どうしようもありません。低所得世帯ほど、苦しい思いをしています。
貧困の定義には大きく2種類、絶対的貧困と相対的貧困があります。絶対的貧困は、UNDP(国連開発計画)が「教育、仕事、食料、保険医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態のこと」と定義しているような、人間らしい生活の必要最低条件の基準が満たされていない状態のこと。
世界中で12億以上の人々が1日わずか1ドルで生活しています。20億人以上が1日2ドル未満で生活し、8億5,000万人以上が日々の食べ物にも事欠く毎日を送っています。
出所:UNDP(国連開発計画)
一方、相対的貧困は、国など一定の母数の大多数よりも貧しい状態のことをいい、多くの統計では「国民の所得の中央値の半分未満」を「貧困層」としています。日本の場合、この相対的貧困が問題視されています。
現在、日本の貧困を語るうえで元となっている資料は厚生労働省が3年に1度、大調査を行っている『国民生活基礎調査』。前回調査は2018年ですが、その際の貧困線は世帯年収126.7万円で貧困率は15.7%。6人に1人が、月々10万円程度の生活費でやりくりしている計算です。また17歳以下の子どもが貧困状態にある「子どもの貧困率」は13.5%。「日本の子どもの7人に1人は貧困状態」といわれるのは、この調査によるものです。
年齢別に相対的貧困率をみていくと、20代後半以降の現役世代では10%で推移。年金世代に入るとぐんと跳ね上がり、80歳以上で男性19.5%、女性28.8%となります。一方、子どもについてみていくと、「15~19歳」で男性18.4%、女性15.3%と貧困率が高くなっています。
【年齢別「子どもの貧困率」】
0~4歳:8.4%/11.6%
5~9歳:11.0%/14.3%
10~14歳:15.8%/14.3%
15~19歳:18.4%/15.3%
出所:内閣府『「選択する未来2.0」有識者懇談会 ヒアリング資料』より
※数値左:男性、右:女性
「子どもの貧困」のなかでも「高校生の貧困」が多いが…
子どもの貧困というと、「母と、まだ手のかかる小さな子ども」という姿をイメージします。しかし「高校生くらいの子ども」の貧困が多いのが実情です。その理由として、子どもが中学校を卒業したあたりで「ちょうどいい」と夫婦関係に終止符をうつ親が多いから、という説を唱える専門家も。「母と高校生の子ども」という世帯になったけど、本来支払われるはずの養育費が支払われず……というストーリーです。さらに児童手当など、日本の子育て支援の多くは中学校までというケースが多く、「子どもが高校生になったら困窮度が増す」という事情があります。
——高校に合格したけど、制服が買えない
——友だちはスマホを持っているけど、自分には高級品
——修学旅行にはいけない
本来、楽しいはずの高校生生活。普通であれば得られるはずの経験も、贅沢すぎて諦めざるを得ないという悲痛が聞こえてきます。
「高校生になったんだから、アルバイトでもして家計を支えろ」、そんな主張をする人もいるでしょう。確かに高校生ならアルバイトも可能でしょうし、実際に高校生からアルバイト経験のある人も多いでしょう。しかし「高校生で生きていくためのアルバイト」をしたことのある人はどれほどいるでしょうか。
「高校生の親なら、普通に働きにいけるだろう」、そんな声も。確かに小さな子どもをもつひとり親よりは働きに出やすいでしょう。しかし長い間、働くことから遠ざかっていた場合、いきなり正社員として精力的に働くというのは難しく、「低賃金の非正規社員」というのがよくあるパターンなのです。
学歴によって給与が左右されることは周知のこと。なんとか高校には進学したけど大学までは……という貧困世帯の子どもも多いでしょう。「大学全入時代」といわれているなか、進学したいと願うなら進学させてあげたいものです。ただ日本の場合、「高校→大学→社会人」というのが既定路線。欧米ではよくみられる「高校→社会人→(お金を貯めて)大学生」といった進路・キャリアは稀であり、日本ではデメリットにさえなります。進路・キャリアの多様性を認めていくことも、貧困の連鎖を生まないためのひとつの解決策といえるでしょう。

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