10月よりTBS系でスタートした山崎賢人主演のTVドラマ日曜劇場 アトムの童(以下、アトムの童)』。そのなかに登場するゲーム『Downwell(ダウンウェル)』が注目を集めている。

参考:【画像】ファミコン時代を彷彿とさせる、レトロなグラフィック

 ドラマでは、主人公・安積那由他(山崎賢人)、菅生隼人(松下洸平)らが開発したとされている同タイトル。架空のゲームだと思われがちだが、実在するのである。『Downwell』とはいったいどのようなタイトルなのか。本稿では、そのゲーム性・魅力について掘り下げる。

■レトロな雰囲気が特徴的な2Dシューティングアクション

 『Downwell(ダウンウェル)』は、ゲーム開発者・もっぴん氏が手掛けた縦スクロール型の2Dシューティングアクションだ。リリースされたのは、2015年10月。『Fall Guys: Ultimate Knockout』のパブリッシャーとして知られるDevolver Digitalが発売を担当した。当時の対応プラットフォームはiOSとPC(Steam)のみだったが、2016年にはAndroidとPlayStation4PlayStation Vitaで、2019年にはNintendo Switchでも提供がスタートしている。

 プレイヤーは靴型兵器「ガンブーツ」を駆使し、敵を射撃したり、踏みつけたりしながら、果てしなく深い井戸の底を目指していく。道中には攻略を有利に進めるためのさまざまなアイテムが落ちているほか、必要に応じてそれらを購入できるショップも設置されている。アイテムとステージクリア時に選択できるアップグレードを活用しながら、過酷な環境に適応し、深淵の先へと進んでいくこと。それが『Downwell』における最も大きなゲーム性だ。

 過去の記憶を頼りにできないランダム生成のステージ、珍しい下方向へのスクロール、ファミコン時代を彷彿とさせるレトロなグラフィックといった点を特徴とする同タイトル。Steamにおけるユーザーレビューでは、全体の96%にあたる6,920件がポジティブな評価を下している(2022年11月現在)。『アトムの童』が話題を集めるにしたがって、『Downwell』にも再び大きな注目が集まりつつある現状だ。

■「シンプルさ×難しさ」に裏付けられた中毒性

 昨今でこそすっかり市民権を得た印象のあるインディータイトルだが、7年前の2015年では、まだ成功例も少なかった。その意味で『Downwell』は、同トレンドの草創期を彩ったタイトルのひとつと言えるかもしれない。もうひとつの近年のトレンドであるゲーム実況・配信文化においては、リリース直後のタイミングで2BRO.の弟者が題材にピックアップ。約20分に『Downwell』の面白さを盛り込んだ同動画は2022年11月現在、約90万再生となっている。

 実況動画の視聴や実際のプレイを通じて感じるのは、ローグライク仕様と下スクロールの難しさだ。ローグライクRogue like)とは、コンピューターゲームのルーツのひとつとされる作品『ローグ』と似た性質のタイトルが分類されるジャンル。ランダム生成のマップ、パーマデス(一度ゲームオーバーとなると、スタートからやり直しとなる仕組み)、ハックアンドスラッシュ(大量に出現する敵を次々と倒していく)などの特徴を持つ。これら『ローグ』の特徴を部分的に採用したタイトルを、「軽くローグに寄せた作品群」として「ローグライトRogue lite)」と呼ぶこともある。パーマデスのシステムのハードルの高さから、特にコア層に親しまれているサブジャンルだ。

 『Downwell』においてプレイヤーが操作するキャラクターは、基本的には重力に引っ張られるがまま、下方向に加速落下する。 よくある上スクロール型・横スクロール型のシューティングアクションがキャラクターの動きをコントロールしやすいのに対し、下スクロール型では、足場があるのか、敵は存在するか、(存在するならば)それらはどのようにして倒す敵なのかを、落下しながら瞬間的に判断しなければならない。そのため、プレイヤーには、より高い運動性能・アクションスキルが求められる。この点が同タイトルに見た印象以上の難しさをもたらしている。

 そうした難しさに拍車をかけるのが、前述したローグライクというジャンルの特性だ。スピード感のあるゲームだけに操作に集中して進めてきたであろうその歩みは、一度敵にやられると、たちまちスタートまで戻されてしまう。少しずつ積み重ねてきたアイテムの取得とアップグレードが、一瞬にして水泡に帰すシステムとなっているのだ。

 しかしながら、これら難しさに関する仕様は、ビジュアル面のカジュアルさ、1ステージの絶妙な長さ、やりすぎ感のない敵の配置などによって、『Downwell』にちょうどいい中毒性をもたらしている。言うなれば、『Slay the Spire』にも似たプレイ感。何度ゲームオーバーとなっても、ついまた挑戦してしまう。そんなタイトルが『Downwell』なのだ。

 『アトムの童』でたまたま『Downwell』を知り、実際にプレイしてみた人のなかには、すっかりその魅力に取り憑かれ、毎晩、睡眠時間を削りながら遊んでいる人もいるのではないだろうか。また一方で、『アトムの童』に『Downwell』が登場すると知り、ドラマを観始めた人、ふたたびプレイを始めた人もいるかもしれない。

 ある種“メディアミックス”的に反響が広がりつつある2つのコンテンツ。『アトムの童』がゲームを題材とする物語だけに、今後『Downwell』に続くタイトルの登場にも注目が集まる。TVドラマとゲームのあいだにはかつて、それぞれの出自に起因するであろう分断があったように思う。その境界は歴史のなかで、少しずつ曖昧となりつつあるようだ。
(文=結木千尋)

『Downwell』より