不動産の所有者が亡くなった場合に、その不動産の登記名義を被相続人から相続人へ名義変更を行なう必要があります。面倒であっても「不動産の名義変更は絶対に放置するな」と相続に詳しいAuthense法律事務所の堅田勇気弁護士はいいます。なぜなのでしょうか、みていきましょう。

亡父名義の不動産を相続人の名義に変更した事例

■ご相談までの経緯・背景 父(80代)が亡くなったことにより、その遺産を相続することになったのが、長女のAさんと長男のBさん(共に50代)、そして父の再婚相手であるCさん(80代)の3人です(※AさんとBさんの実母は既に故人)。

Aさんたちは自らで遺産相続手続きを進め、自宅不動産以外の相続についてはすべて済ませることができました。しかし、不動産の相続登記(名義変更)については、遺産分割において複雑な手続が必要となります。どうしたらよいのか対応に困ったAさんたちは、当事務所にご相談にいらっしゃいました。

■解決までの流れ 不動産の相続においては、まず誰が不動産を取得するのか決定しなければなりません。 話し合いの結果、自宅不動産は長女のAさんが取得することに。これにより、父名義の不動産をAさん名義に変更することとなりました。不動産の名義を変更するための相続登記の手続きでは、相続人全員の署名と実印の捺印がなされた遺産分割協議書の提出が必要となります。

そこで弁護士は、遺産分割協議書を作成するにあたり、その準備として父の自宅不動産の登記を確認し、権利関係を調査することにしました。すると、父の土地と建物に、金融機関を債権者とした抵当権が設定されていることが判明しました。このままだとAさんは、抵当権が付着した不動産を相続することになってしまい、経済的不利益を負う可能性がありました。

■結果・解決ポイント 弁護士がAさんらに事実確認を求めたところ、ローンは既に20年近く前に返済されており、それを証明する書面もAさんらの手元に存在することがわかりました。そこで弁護士は、これらの書面を証拠に、金融機関に抵当権の解除証を交付してもらうことにしました。金融機関から抵当権の解除証を受け取ったことにより、弁護士は不動産の抵当権設定登記を抹消することができました。

そして遺産分割協議書を作成し、父名義の登記をAさん名義の登記に変更。Aさんは無事に父が遺した自宅不動産を取得することができました。

相続時、不動産の名義変更が必要な理由

正直なところ、相続登記による名義変更の手続きを面倒に感じたり、「手間や費用をかけてまで名義を変更する意味があるのか」と考えてしまったりする方もいるのではないでしょうか? しかし、ご紹介した事例のように相続財産に不動産があった場合には、できるだけ早く不動産の名義変更を済ませるべきだといえます。その主な理由は、次の2点です。

1.第三者に自分の権利を主張するため

売買など不動産についての取引をする際には、本当にその取引相手が不動産の所有者なのか、登記を確認したうえで取引することが一般的です。せっかく相続で不動産を取得したにもかかわらず、名義を変更しないままでいると、そのあいだにほかの法定相続人が自分の名義を登記してしまい、その登記を信じた第三者に勝手に売却されてしまうかもしれません。

たとえば、法定相続人が長男と二男の2名だとします。その不動産を長男が取得することとなったにもかかわらず、長男が相続登記の手続きをしないままでいるあいだに、二男が勝手に二男の法定相続分である2分の1の持分を登記して、その分を第三者に売却してしまうというケースがありえます。共有持分の売買が一般的によく行われるわけではありませんが、万が一このような事態が生じれば、売却されてしまった持分を取り返すことは困難です。

2.故人名義のままでは売却などができないため

不動産を売却したり、抵当権などの担保に入れてお金を借りたりするためには、不動産の相続登記が済んでいなければなりません。 故人名義のままの不動産は、そのままでは売却や抵当権の設定などの登記ができないためです。

たとえ当面は売却や担保提供の予定がなかったとしても、将来このような事情が生じた際にはきちんと相続登記をする必要が生じます。しかし、相続発生から長い期間が経過し、元々の相続人が死亡して次の相続人への代替わりが起きたり、相続人が認知症になったりなどの事情が生じていれば、名義を変更するのはさらに大変になってしまいます。

こういったトラブルを防ぐため、相続で不動産を取得することになった場合は、できるだけすみやかに相続登記の手続きを済ませておくほうがよいのです。

不動産を名義変更する際の流れ

相続で不動産の名義変更をするまでの一般的な流れは、次のとおりです。

1.相続財産を洗い出す

はじめに、亡くなった人(「被相続人」といいます)の持っていた財産の洗い出しをします。次のステップで行う遺産分割協議にあたって、その対象となる財産を確定しておく必要があるためです。

2.相続人のうち誰がその不動産を受け取るかを決める

被相続人が持っていた財産それぞれについて、相続人のうち誰がなにを取得するかを決めるための話し合いを「遺産分割協議」といいます。この遺産分割協議を成立させるためには、相続人全員の合意が必要です。ひとりでも意見が一致しない相続人がいる場合には、遺産分割協議を成立させることはできません。

仮に当人同士で遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所での話し合いである調停や、最終的に家庭裁判所に決断をくだしてもらう審判へと移行します。できるだけ早期の解決を図るため、遺産分割協議がまとまらない懸念が生じた場合には、早いうちに弁護士などの専門家にご相談いただくのがおすすめです。

なお、被相続人がそれぞれの財産について取得者を明確に定めた有効な遺言書を遺していた場合には、その遺言書に従って不動産の名義変更をおこなうことができます。そのため、遺言書があれば原則として遺産分割協議は必要ありません。

3.必要書類を準備する

不動産の取得者が決まったら、相続登記をするために必要となる書類を準備します。 必要書類については、後ほど詳しく解説します。

4.法務局へ相続登記を申請する

必要書類の準備ができたら、法務局に相続登記を申請します。登記の申請先は、その不動産の所在地を管轄する法務局です。事前に、どこの法務局に申請すればよいのか確認しておきましょう。

相続登記を申請するには、窓口への持参、郵送、オンライン申請という3つの方法があります。管轄の法務局が遠方であれば郵送で手続きせざるを得ない場合もあるかと思いますが、不動産の名義変更に慣れていない場合には、できるだけ窓口での申請を選択するとよいでしょう。その場で不備が発見された場合には、軽微なものであればその場で修正ができる可能性があるためです。オンラインでの申請には申請ソフトなどの準備が必要であり、手間がかかるため、自身の登記を数回程度行うのみであればおすすめできません。

不動産を名義変更するための必要書類

相続で不動産の名義変更をする際の主な必要書類は、次のとおりです。ここでは、遺産分割協議で不動産の取得者を決めた場合の必要書類の例を紹介します。ただし、登記の内容や状況によっては必要書類が異なる場合があるため、事前に管轄の法務局に確認してください。

・登記申請書 登記申請書は、不動産を名義変更する際のメインとなる書類です。預貯金などの相続手続き用紙のように、所定の用紙の空欄を埋めるだけのものではなく、自分で作成する必要があります。代表的なケースであれば法務局のホームページに記載例がありますので、そちらを参考に作成をするとよいでしょう。そのうえで、法務局の登記相談を予約して申請の前に確認をしてもらうと安心です。

・遺産分割協議書 遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果を記した書類です。 どの財産を誰が相続するのかがわかるよう、明確に記載する必要があります。 相続人全員が協議の内容に合意していることの証明として、相続人全員の実印での捺印が必要です。

・相続人全員の印鑑証明書 遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明として、相続人全員の印鑑証明書を添付します。

・被相続人の出生から死亡までの連続した除籍謄本等 遺産分割協議に参加した人が本当に相続人なのか、そしてほかに相続人はいないかどうかなどの確認のため、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本が必要です。これらはそれぞれ、被相続人がその時点で本籍をおいていた市区町村役場で取得します。

被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人になるケースでは、これに加えて被相続人の父母それぞれの出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本も必要です。

・相続人全員の戸籍謄本 相続人が生存していることの確認のため、相続人全員の現在の戸籍謄本が必要です。

・不動産を相続する人の住民票 新たに不動産の所有者となる人の情報を正しく登記するため、不動産を取得する相続人の住民票が必要です。

・不動産の固定資産税評価証明書 不動産の名義変更をする際には、登録免許税という税金を支払わなければなりません。登録免許税は、その不動産の固定資産税評価額に税率を乗じて算定します。この登録免許税を正しく計算するため、不動産の固定資産税評価証明書が必要です。固定資産税評価証明書は、その不動産が所在する市区町村役場の税務課などで取得できます。

不動産名義変更に期限はある?

相続での不動産名義変更には、従来、期限はありませんでした。しかし、2021年に成立した改正不動産登記法などにより、2024年以降は期限が設けられることとなっています。

2022年現在は相続での不動産名義変更に期限はない

相続登記は本来、不動産を取得した人の権利を守るために行う手続きです。そのため、2022年現在では特に期限は設けられていません。

とはいえ、きちんと名義変更をしておかなければ、前述のとおり第三者に自分の権利を主張できないなどのリスクが生じます。期限がないからといって手続きを先送りにしていてはトラブルの原因となる可能性がありますので、不動産を取得することが決まったら早期に手続きを済ませるようにしましょう。

2024年4月以降は3年以内の名義変更登記が義務化される

相続手続きをしないままで放置され、もはや現在の所有者がわからなくなっている「所有者不明土地」が社会問題となっています。そのため、相続登記を義務化し期限を設ける不動産登記法などの改正法が2021年に成立しました。改正法の施行は、2024年4月1日となっています。

改正法の施行後は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記をすべきこととされます。正当な理由のないまま期限を超過した場合には10万円以下の過料の対象となる可能性がありますので、今後は期限にも注意しつつ手続きを進めるようにしましょう。

まとめ

相続での不動産名義変更は、自分でおこなうことも可能ですが、不動産の名義変更には多くの書類が必要となり、その手続きは決して容易ではありません。また、平日の日中に何度も法務局に出向く必要も生じます。

遺産相続で不動産を取得した場合は、なるべく早期に相続登記を終えられるよう、弁護士などの専門家にご相談いただくことをおすすめします。  

堅田 勇気

Authense法律事務所  

(写真はイメージです/PIXTA)