起業家のイーロン・マスク氏が買収したツイッターで、従業員の半数が解雇されたと報じられている。日本法人で働く社員も対象で、TBSの報道によれば、11月4日に自分が解雇対象か解雇対象ではないかが記された英文のメールが送られてきたという。

労働問題に詳しい笠置裕亮弁護士は「外資系企業であっても、日本法人であれば日本の法律が適用される」と説明する。従業員を解雇する場合、どのような理由が必要になるのだろうか。詳しく解説してもらった。

●解雇予告手当さえ支払えば解雇が有効になる?

10月27日にTwitter社の買収を完了させたイーロン・マスク氏は、10月31日にTwitter社の最高経営責任者(CEO)に就任すると同時に取締役全員を解任し、11月4日には全世界の従業員の約半数にあたる約3700名に解雇通告を行いました。報道されているところによると、解雇理由はTwitter社の財務体質の強化であるとのことです。

外資系企業であっても、日本法人であれば日本の法律が適用されることになります。日本の法律では、今回のような大量解雇(リストラ)がどのように判断されることになるかを見ていきます。

手続き面では、従業員を解雇するには、少なくとも30日前に解雇を予告しなければなりません。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。これを、解雇予告手当と言います。

上記の手続きを守り、解雇予告手当さえ支払えば解雇が有効になると誤解している経営者が多いのですが、決してそうではありません。

●解雇が違法無効となる場合

有効に解雇を行うためには、(1)客観的に合理的な解雇理由があると認められ、(2)解雇に及ぶことが社会通念上相当であることを会社側が証明できない限り、その解雇は違法無効となります。

解雇の類型としては、大きく分けて、個々の従業員の労働能力の欠如を理由とするもの、従業員の規律違反行為を問題とするもの、会社の経営状況を理由とするものの3つに分類することができます。

それぞれについて、裁判所は異なる判断基準でもって(1)客観的に合理的な解雇理由があると認められ、(2)解雇に及ぶことが社会通念上相当であるか否かを判断しています。

今回のTwitter社のように、会社の経営状況を理由とする解雇(整理解雇と呼ばれています)に関しては、解雇の有効性を判断するうえで、以下の4点が重視されて判断されることになります。これらは、整理解雇の4要件と呼ばれています。

ア:人員削減の必要性があるかどうか、どの程度の必要性があるか
イ:解雇回避努力を尽くしたか否か
ウ:解雇の対象となる人選に合理性が認められるか否か
エ:従業員や労働組合側に誠意ある説明を尽くすなど、手続に妥当性が認められるか否か

解雇はあくまでも経営危機を脱するための最終手段であることから、上記の4点をクリアしていなければ、整理解雇を有効に行うことはできません。

●人員削減の必要性があるかどうか、どの程度の必要性があるか

アについては、経営危機と言える状況はないものの経営合理化や競争力強化のための戦略として行われる、いわゆる「攻めのリストラ」ですが、人員削減の必要性が認められにくいと言われています。このような目的の人員削減は、解雇ではなく、まずは配置転換や出向、希望退職募集をかけることで実現されるべきであると考えられているからです。

東洋経済オンライン(11月6日)によれば、Twitter社の現金等資産は3200億円にも上る一方、2021年度は330億円程の赤字であったとのことです。これでは、会社が経営危機にあったとは言い難く、人員削減の必要まであったかどうかは微妙といえるでしょう。  

●解雇回避努力を尽くしたか否か

イについては、人員削減をする必要があったとしても、解雇という最終手段をとる前に、解雇以外の人員削減策を尽くして解雇をできるだけ回避することが求められます。一般的には、残業の削減、新規採用の抑制ないし中止、余剰人員の配置転換・出向・転籍、非正規社員の削減、一時休業、希望退職者募集、役員報酬の削減などがとられます。

一部の報道によれば、イーロン・マスク氏の買収案が浮上した今春以降、1000名を超える社員が退職していたとのことです。これが事実であれば、その後さらに半数もの従業員を解雇するまでの間、会社がいかなる措置をとっていたかが問われることになります。

しかし、報道を見る限りでは、解雇回避努力が尽くされたと言えるまでの人事措置は取られていないように思われます。

●解雇の対象となる人選に合理性が認められるか否か

ウについては、解雇回避努力を尽くしてもなお余剰人員が存在する場合、その数を確定させたうえで、合理的な人選基準を定め、その基準を公正に適用して対象者を決定することが求められます。

一般的には、勤務成績、勤続年数、従業員の生活上の打撃(扶養家族の有無や数)を考慮しながら決められていく場合が多いと思われます。この点、合理性を説明するのが困難な抽象的な指標(責任感、協調性など)を基準に用いることは許されません。

今回の事案では、全社員の約半数にも及ぶ大規模リストラであるため、幅広く人員削減が行われているようですが、会社が合理的な基準を設けているか否かは皆目不明です。  

●従業員や労働組合側に誠意ある説明を尽くすなど、手続に妥当性が認められるか否か

エについては、雇用主には信義則上、労働組合や従業員に対し、人員削減の必要性、解雇回避の方法、整理解雇の時期・規模・人選の方法などについて説明を行い、納得を得るために努力を尽くさなければなりません。ポイントは、対象者となる可能性がある従業員との間で協議を行う必要があるということです。

今回の事案では、買収完了後に速やかに解雇通告が開始されているため、このような手続が行われた形跡はないように思われます。

●日本の法律上有効になると考えることは難しい

以上からすれば、Twitter社が日本国内で行っている整理解雇は、日本の法律上無効になる可能性が高いと思われます。解雇通告を受けた方は、速やかに弁護士や社外の労働組合などの専門家にご相談されることを強くおすすめいたします。

外資系企業において、本国の本社のリストラの方針が一方的に示されてしまったがために、日本法人の方針とは別に、リストラをやむを得ず強行するケースは数多く存在します。

そのような場合、日本の法律の基準をクリアしているかどうかは十分に吟味されないまま、リストラが強行されていきます。法律上の基準との間の穴埋めを図るため、会社は後付けで、対象者の労働能力が欠如していたなどと主張してくることが、往々にして存在します。

これに対抗するためには、一人でも多くの従業員の方がまとまって対処することが非常に重要です。今回のケースで、会社との間で交渉をすることで解決できる余地はあると思いますし、場合によっては法的措置をとることも必要になるかもしれません。

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/

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