法令上は「鉄道」に分類される世界唯一の乗りもの、広島「スカイレール」の運行終了・廃止が検討されています。これまで他の箇所にも導入が検討されていた「スカイレール」は、なぜ普及しなかったのでしょうか。

世界でもここだけ! 景色抜群の鉄道「スカイレール」

広島市安芸区のニュータウンにある日本唯一の乗りもの「スカイレール」の廃止が検討されているようです。運営会社「スカイレールサービス」は順次説明会を行い、2023年秋から代替となる電気バスを運行、その後に廃止する予定であることが報じられています。

スカイレールは、高架の軌道から吊り下がるゴンドラ(搬器)が動くという、モノレールロープウェーをかけ合わせたようなシステムで、法令上は鉄道に分類されるものです。この乗りものがある「スカイレールタウンみどり坂」は、山の斜面をそのまま宅地化しており、分譲開始当初のキャッチコピーは「空に近い街」。麓にあるJR瀬野駅からスカイレールの軌道がニュータウンを貫いており、1.3kmほどの路線全体で180mもの高低差があります。

空中をゆっくりと動くスカイレールのゴンドラは、ロープウェイよりも安定し、よほどの風がない限り、乗り心地も静かです。ニュータウンから通勤・通学する人に重宝されていただけでなく、山の上にある終点「みどり中央駅」からの見晴らしも抜群。車窓を眺めに来る人も多く、その名の通り「スカイレールタウン」の象徴だったと言えるでしょう。

スカイレールは1998(平成10)年、平均4300万円という価格帯が話題を呼んだ県内最大規模(約1800戸)のニュータウンの分譲開始とともに開業し、「鉄道と一体になった街」としての広告塔の役割も兼ねていました。しかし想定ほど分譲が進まなかったこともあり経営は厳しく、コロナ禍の前から運営会社は1億円以上の単年赤字続き。親会社である積水ハウスなどの支えによって運行を続けてきました。

加えて、開発・実用から四半世紀で採用が1例だけとなると、メンテナンスや新しい車両などのコストはなかなか下がりません。他のニュータウンでは、国内で採用例が少ないシステムを採用した愛知県桃花台新交通」のように、全面更新を諦めて開業15年で廃止を選択するようなケースもあるなか、スカイレールの廃止検討も、これからの維持の困難さと費用の上昇を織り込んだ上でのことではないでしょうか。

しかし、鉄道の規格としてスカイレールがもう少し普及していれば、状況は変わっていたのかもしれません。なぜ国内1例のみにとどまったのでしょうか。

「ここしかない独自規格」のはずではなかった

スカイレール三菱重工・神戸製鋼が共同で1993(平成5)年に開発、2社は運営会社「スカイレールサービス」の株主でもあります。みどり坂に開業したこの路線は、ニュータウンの顔であると同時に、新しい鉄道規格のノウハウを積み上げる場所でもあったのです。

同じように空中を走るモノレールに比べて、スカイレールは建設費が3分の1以下(1kmあたり20~30億円)で済み、無人運転が可能なため維持コストの低さも強みでした。かつ坂道に強く、ケーブルカーと違って大きくカーブすることもできます。推進システムにはロープウェーと同様のワイヤーロープを用いつつも、モノレールのように車輪が軌道を掴んで進むため、乗り心地が良く音も静か。いわば「モノレールロープウェー新交通システムの良いところ取り」といえるシステムでした。

開発2社はスカイレールを「短距離・少人数向けの交通機関」として、2例目の採用に向け、傾斜地に限らず売り込みを続けていました。国内でも次のような箇所で検討されています。

福岡市ウォーターフロントへの鉄道整備(博多駅・天神~博多ふ頭)
・静岡空港アクセス鉄道(新幹線 静岡空港駅~静岡空港)
大津市湖南新交通システム
・相模大野~北里大学間の鉄軌道計画

うち福岡市では検討8例のうち、建設費と見晴らしの良さによる魅力でロープウェーの次に有利とされていました。

しかし上記の鉄道計画は、いずれも開業に漕ぎ着けることができませんでした。三菱重工は香港新空港で新交通システムを受注したことを足がかりに、中国・東南アジアでの売り込みを図ろうとするも、やはり不調に。鉄道規格としてのスカイレールは、広島県での採用のみにとどまったのです。

意外とライバルが多い「短距離の交通手段」電気バスも以前より性能アップ

国内での採用のネックとなったのが、短距離交通のライバルの多さです。長崎県・稲佐山では、駐車場から展望台への移動手段としてスカイレールの導入が検討されていたものの、2020年にここへ完成したのは、建設費用がさらに安く済むうえに、斜行エレベーターの扱いとなるため鉄道事業の許可が不要な「スロープカー」でした。

炭鉱内の移動用モノレールの技術を転用した「スロープカー」は、他にも佐世保市の「桧台団地」や観光地など、国内で100例近く採用。なかにはスカイレールタウンと同様に1kmを越える登坂路線もあり、短距離・少人数移動というスカイレールの需要を奪ってしまった感があります。

また今回、スカイレールの代替手段として検討されている電気バスも、数々の実験によって急坂などの悪条件をクリアし、「エコな乗りもの」として活用の場所が広がりつつあります。千葉県佐倉市のユーカリが丘で鉄道(ユーカリが丘線)を支えてきた開発業者・山万も、電気バスの導入実験を早くから行い、将来的な連節バスの導入を検討するなど、「鉄道がエコで、いちばん安定して輸送ができる」という前提も、変わりつつあるのです。

普通鉄道新交通システムよりは建設費用が安いものの、これら「他の交通手段」との競争もあるなか、スカイレールが再び脚光を浴びる日は来るのでしょうか。

JR瀬野駅に接続するスカイレールみどり口駅(宮武和多哉撮影)。