チルでスタイリッシュなバンドサウンドで人気を集める4ピースバンド、yonawo。この夏は「SUMMER SONIC」ほか、全国の音楽フェスで存在感を示した彼らが、前作「遥かいま」より1年2カ月ぶりとなる3rdフルアルバム『Yonawo House』を完成させた。栗山千明が主演するドラマ「晩酌の流儀」(テレビ東京系)の、オープニングテーマとして作品を彩った「yugi」をはじめとする全11曲を収録。これらの楽曲は、今年1月に福岡から上京し、共同生活を送るシェアハウス兼スタジオである“Yonawo House”で制作されたという。

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■同じ家に住んでいるから、ちょっとしたことを確認したり、共有したり分担もしやすくなりました

斉藤雄哉「今年の1月末に、4人そろって上京して一緒に住み始めました。暮らしながら、家の中をスタジオとして使えるように体裁を整えていったんですが、アルバム制作に着手できたのは4月くらいになっちゃって。それまでは、スタジオを整備するのと並行して、曲のタネを増やしたり、デモをいっぱい作っていった感じです。最終的にできたデモは20曲以上ありました」

田中慧「今回は、せっかく一緒に暮らしているから、4人全員が“ゼロ→イチ”で曲を作ってみようという話になりました。各々が自分なりにデモ音源を制作して、出来上がったらみんなで聴き合って、どの曲をアルバムに入れていくかを決めました。けど、俺とのもっちゃん(野元喬文)の曲は、今回……ご縁がなかったです(苦笑)」

荒谷翔大「レーベルや事務所と話しをする中で、制作もがっつりしたいタイミングだから、みんなで東京に出ようってことになったんです。それで、家で録音できるところを探していきました。僕らが一緒に暮らしているスタジオ“Yonawo House”で、できる限り完結させたいと思って、このアルバムを作りました。

みんなが曲作りに参加したことで、今までとは違った曲の作られ方をしていった感覚もありましたね。たとえば、雄哉(斉藤)が出してくれたトラックがきっかけになってできた曲があったり、みんなと話しながら『じゃあ、こういう曲作ろう』ってところから作り始めたり。雄哉、のもっちゃん、慧(田中)のそれぞれが“ゼロ→イチ”で作ったトラックを頭に入れて、歌詞とか曲とかを考えることも多かったです。そうやってできた曲のタネを、形にするのは雄哉が一番うまいし早いんです。機材も触れるし、ドラム、ベース、ギター、ピアノなど、楽器もいろいろと弾ける。リズム隊の2人は機材がまだうまく触れないし慣れてないから、イメージした音を具現化するのにてこずる。その中で、それぞれの個性を出した曲を出してくれて、それに刺激を受けて歌詞や曲を書いたりできたことはすごく良かったです」

斉藤「うん。俺のデモは大まかなゴールを形にした分、先に進めやすかったと思います。俺が編集していて思ったのは、別々に住んでいたらそれぞれ何をしてるか分からないけど、同じ家だからうまくそこも見えやすくなったなと。ちょっとしたことを確認したり、共有したり分担もしやすくなりました」

野元喬文「そうだね。今までのやり方の進化形態に入っている感じがします。宅録の質も上がったと思うし、これを作るなかで課題もはっきり見えるようになったし、今回のやり方の良かったところもはっきりした。家っぽいけど(笑)、一応スタジオだから、ミュージシャンの方に来てもらって、演奏してレコーディングもできるんです。スタジオに足を運んでいろいろ作業するのもいいけど、フットワークが軽くなったと感じますね」

荒谷「ただ、最初のうち結構ダラダラしたよね。シェアハウスのいい面であり悪い面でもあるんだけど、作業部屋と自分の生活区域が一緒だから、スイッチを切り替えられる人ならいいけど……みんな割とそうじゃないから。福岡でスタジオに集まってやっていたときですら、結構遅れて来ていたりしてた。それが、家になったから、『いつでもいけるっしょ』みたいになって。結局それで自分を追いつめてしまった気がする(笑)」

■もし今『〇〇House』ってタイトルを付けても恥ずかしくならないのって、俺らくらいじゃないかって気がする

アルバムタイトル『Yonawo House』を初めて見聞きしたとき、音楽好きならピンときたかもしれない。というのは、yonawoのメンバーもリスペクトする細野晴臣1973年にリリースしたアルバムが『HOSONO HOUSE』というタイトルだからだ。また、この作品は元ワンダイレクションのメンバーで世界的人気アーティスト、ハリー・スタイルズの大ヒットアルバム『ハリーズ・ハウス』の名の由来にもなっている。ただ、そのあたりのことを当人たちはもちろん知ってはいたものの、さほど意識してはいなかったという。

斉藤「シェアハウス兼スタジオの名前は特に決まってなくて、いつしかファンの人たちが自発的に“yonawo House”って呼ぶようになっていました」

荒谷「そう。アルバムのタイトルは最後の方に決まったんですけど、実際にyonawo Houseで作ったわけだから、それがいいかなと思いました。それに、俺らは細野さんが好きで、当然『HOSONO HOUSE』も好きです。さらに、ハリース・スタイルズの『ハリーズ・ハウス』も好きだから、そこから取ったわけじゃなくて偶然だけど、それもいいねって感じはありました」

斉藤「それに、もし今『〇〇House』ってタイトルを付けても恥ずかしくならないのって、俺らくらいじゃないかって気がする。実際に作った場所の名前だからパロディーにならないというか。スタジオとは言っても、普通の家っぽい感じなんです(笑)。だから、レコーディングに来てもらうのも、防音ばっちりの箱っていうより普通の洋室だったりする。そこに、トランペットサックスホーンの方たちに来てもらい、吹いてもらったりしたよね」

荒谷「(笑)。オーナーさんには、音を出すことの許可をいただいています」

斉藤「それに、住宅地にあるから昼間はあまり周辺に人がいないんです。家の前は畑だったりして、割りと音が出せる環境ではありますね。ただ、ホーンは音の調節が難しいから、表の道路まで聴こえてましたが(笑)。全部じゃないけど、ドラムも俺の部屋で何曲か録りました」

野元「ドラムの音を抑えるために、もちろんバリバリミュートをかけるので、昼間なら何とかいけるかなという感じでした。2階が僕の部屋で、雄哉くん(斉藤)の部屋が3階です。2階で叩くと結構低音が響くので、3階ドラムを組み立てて録りました」

田中「ドラムなら、家の前を通りがかるくらいじゃ聴こえないと思いますよ」

斉藤「そう。吸音材とかを置いたりして工夫していますから」

■今回のアルバムでは、直接的な歌詞をもっと入れたいと思った

4人がいい距離感を保ちつつ、信頼しながら暮らし、音を鳴らしているであろうことは、インタビュー中の会話の端々からも伝わってくる。そうやって、建設的に音楽を創ることに専念できたため、今までにない挑戦や取り組みにも前向きに向き合えたようだ。

本作では、荒谷と斉藤の共作する楽曲が増えたのもその成果と言えよう。また、ホーンセクションの参加や、アレンジに元never young beachの阿南智史を迎えるなど、外の空気を取り込むことにも積極的になったように感じる。

荒谷「今回はみんながデモを作ったこともあって、『tokyo』とか『tonight』『hanasanai』は、雄哉と共作した形になりました。あと、『Lonely』で元ネバヤンの阿南さんと一緒に作ったりもしました」

斉藤「阿南さんはアルバムで、けっこうがっつり一緒にやらせてもらいました。もともとは『After Party』のミックスを頼んだのがきっかけです。ミックスエンジニアを探していて、何名か候補が上がった中でタイミングが合ったんです。次第にアルバムの制作も携わってくれるになって、そうしたら“超楽しいじゃん”って(笑)。年も割と近くて、聴いてきた音楽が近いから話が早いんです。フィーリングが近いというか。気が付けば、阿南さんもずっとyonawo Houseにいました(笑)」

荒谷「阿南さんはエンジニアもできて、ギタリストでもあるから、感覚が一番近いのが雄哉なんだと思う。同じ目線に立ちながら、もともとバンドもやってた人だからバンドの意向もくみ取りつつ進めてくれました。あと、これは関係ないけど、同じ福岡出身でサッカークラブチームも同じだと分かりました」

野元「(笑)。僕は、阿南さんとドラムループとかを一緒に組んだときに、面白い組み方をするなって印象に残っています。『ダンス』は、聴こえないかもしれないけど、ゴーストノートを入れていたりします。『涙もがれ』は、打ち込みドラムパターンを作って、それを基に生ドラムを叩いたんですが、そのパターンもシンプルだけどちょっと普通とは違う面白さがあるんです。絶妙に気持ち悪いのがかっこいいというか、ドラマーだったらあまり考えないような視点でドラムパターンを作ってくるので刺激になりました」

四六時中、音楽に浸れる暮らしの中で、個々のスキルや意識を高め、それらを制作に落とし込んでいったようだ。曲ごとに表情を変える荒谷のボーカルや、言葉のチョイス一つとっても、そこには東京で暮らしはじめた、今のyonawoの音と言葉がにじみ出てきたものらしい。

荒谷「今回のアルバムでは、直接的な歌詞をもっと入れたいと思っていて。今までは間接的、抽象的な歌詞が多かったのですが、その良さもありつつ、それを残して具体性のある言葉も入れる。そのコントラストを際立たせるような言葉の関係性を意識して書きました。『Lonely』では、“愛してんだよ”って口語で強めの言葉を入れたり。それはこっちに来てすごい考えましたね。

歌声も曲ごとにだいぶ変えています。『tonight』は雄哉がトラックを作ったのですが、英語の歌詞でトラックも洋楽っぽいので、それに合わせて歌も強め、太めの声を出しました。逆に、『日照雨』(そばえ)は、ウィスパーっぽく。ボーカルは全部、Yonawo Houseで録りました。ドラムは、曲によってのスタジオで録ったりしたよね?」

野元「うん。生ドラムレコーディングでは、ほぼ全てドラムテックの人に入ってもらいました。そのテックさんが、何種類ものドラムを持っていて、スタジオに持ってきてくださいました。まず、スティックからたくさんあるのに驚いたし、頭で軽く弾いて音を聴き比べるとスティックすら音色の違いがちゃんと感じられた。ワクワクしたし、楽しかったです」

田中「リズムで言うと、『日照雨』を僕とのもっちゃん(野元)で作ったんですが、この曲自体はデビュー時のデモアルバム『desk』にも収録されているんです。でも、その後に違うバージョンのデモを作っていたので、それをもとに今回はリズムを組み立てました。yonawoの曲はすき間がある曲が多いので、音を詰め込まない印象があると思うんです。けど、この『日照雨』に関しては、祭りみたいにしてやろう。祭り…、いや、違うな。収穫祭? 集落や部族の奉るやつ、何ていう?」

3人「(肩をすくめて笑う)」

田中「ええっと、、、祝祭、かな。うん。そうした感じをドラムとベースで作ろうと思って。ドラムが盛り上がるところではベースは割と下で、さりげなく居る感じで弾いています」

野元「けど、後半はブリブリになっていくんですよ」

田中「そうそう」

野元「最初のうちは、海に潜むジョーズじゃないけど、ワニの方がいいかな?」

荒谷「「2人とも、収穫祭とかジョーズとか、音の例え方がおかしい(笑)。わけわからんくなる(笑)」

田中「あはは。基本的にベースはさりげなくそこに居る感じで弾きたいんです」

荒谷「慧のベースは、ずっとそれを感じますね」

野元「ただ、『日照雨』では、慧と一緒にむちゃくちゃレイヤーを組んでます、過去最大くらいに。ほぼ聴こえないような、ハットの音を入れたりもしました。GarageBand(Appleの音楽制作ソフトウェア)でやったんですが、その限界に達するくらい作りました」

斉藤「ドラムだけで70トラックくらいあったな(笑)」

野元「慧と『ここ、バスドラムの音を入れた方がいいかな』とか、細かいことを少しずつで確かめながら作っていきました。もともとAphex Twin(英出身の音楽家・DJ)など、打ち込み系の音楽が好きでエレクトロチックなものもよく聴きます。そうした好きなことが今回は自分たちの作品でできたなって。あと、ミックスが特によくて、阿南さんとbisshiさんに携わっていただいたおかげで、全部の音がいいんですよ」

斉藤「うん。アナログのテープに一度録って、それをまたデータとして入れ直すとか。いろんな技術があるなって学んだし、それによって音が全然変わることが実感できました」

■のもっちゃん(野元)は魔法みたいな料理を作る

今作で、デモや曲作り、アレンジなど、八面六臂の活躍をしたギターの斉藤。忙しさのためか、おろそかになることもあったようで…。

斉藤「プライベートでは、俺は迷惑かけている方だな」

田中「リビングに置いてあるものの9割が雄哉の私物(笑)。機材もあるけど、服も多い。レコーディングで一番忙しいのもあると思うけど…その前から」

斉藤「脱いだまま、その場にポンと」

田中「その割に、自分の部屋はおしゃれな感じだったりする(笑)」

斉藤「(笑)。基本的に服は散らばってます。ゴミは嫌だけど、服ならいい、気にならないんです(笑)」

荒谷「料理も作ってくれることが多い。自分はそばをゆでるくらい(笑)。あと、卵焼きは焼くかな。慧は福岡で一人暮らしをしていたから料理が手早い」

田中「自分が作るのは写真撮るほど見た目にこだわらないから、作ってすぐに食べちゃう。写真がいい感じの料理は、だいたい雄哉が作ったものですね。のもっちゃんの作る料理もすごいんですよ」

斉藤「魔法みたいな料理、作るよな(笑)」

荒谷「(笑いをこらえつつ)調味料の魔法をかける」

田中「隠し味に魔法を使うんです」

斉藤「チキンラーメンをアレンジしたやつとか、ナポリタンも魔法だった。とにかく、旨味の暴力みたいな感じ(笑)」

野元「隠し味を聞かれたときに、面白いのが入ってるといいなと思って必ず何かを入れます(笑)。味に影響しない程度に、何も考えずにいれますね」

荒谷「影響はしてる(笑)」

田中「それでちゃんと美味しいのがすごい」

野元「1回、ナポリタンに五香紛?八角?を入れたら、みんなから……」

荒谷「発明って思った、あれは。でも、美味しくないときはマジで美味しくない」

野元「自分でも食べられないし、誰にも食べさせられないという最悪もおきます(笑)」

斉藤「そういえば、4人が会うのって、キッチンくらいかも?」

荒谷「うん。後は各自、部屋に居ることが多い」

野元「寮みたいな感じですね。周りもいい感じに住みやすいところなので、ぶらぶら歩けるし、すぐに一人になれます」

3人「あははは」

■この先のライブでは規模感を大きくしていきたいという思いもあります

緩やかに連帯を強めながら、音楽の可能性の翼を広げるyonawoの4人。この心地よくも深みを増したアルバム『Yonawo House』を完成させた後、彼らはどこに向かって羽ばたくのだろうか。

荒谷「以前、あるインタビュー中に『渋谷の雑踏で聴きながら歩いていたら、周りの景色がスローに映る、そういう感覚の作品』と言っていただいたんです。それって、自分では気が付かないけど、自分にとってもそう感じられる好きな曲があるなと思って。そういう曲に自分たちの音楽がなれていると思ったら、すごく新鮮だったし、うれしいなと思いました。このアルバムに関してはそういう感じのところがあるのかなと。このアルバムを携えた全国ツアーも控えてますが、この先のライブでは規模感を大きくしていきたいという思いもあります。いままではライブにサポートを入れたことがないので、それを入れても違和感がないような規模間でライブができるようにしたいです」

斉藤「うん。今回は阿南さんがギターを弾いてくれた曲もあるし、外部のミュージシャンと関わることも増えました。そうやって作った音を、ライブでも実現したいんですよ」

荒谷「そのためにはリアルな数字や結果も求められると思うけど、そうした目標に対して自分たちも追いつきたいという気持ちもありますね」

アルバム『Yonawo House』をリリースするyonawo/   撮影=大石隼土