「膝が痛い」は年のせい? 元横綱・白鵬関はじめ、プロゴルファー、格闘家などプロスポーツ選手の治療・リハビリテーション・トレーニングを行い、日本の人工関節移植手術においてトップレベルの症例数を持つ、「関節のスペシャリスト」である整形外科医の杉本和隆医師。杉本医師に、長年治らない膝の痛みについて、原因や治療法、自身でできることや気を付けるべきことについて聞いた。

痩せなくてはいけない、ハイヒールは膝に悪い?

人生で経験することのない痛み、そして大きな不安も伴う、それが膝の痛みです。立ち上がる際に痛い。階段を降りるのが怖い。膝を深く曲げられない。こんな症状が出たら要注意です。

生活に支障が出るため、近くの病院に行って見てもらっても、「加齢ですね」と言われるだけ。そんなことを言われても、今さら若返ることもできませんよね。結果、湿布と痛み止めしかもらえない。こうなるとますます不安が募ります。そしてこの点こそが、ひざ痛で特に注意すべきことでもあります。

膝関節の加齢的変化を医学的には「変形性膝関節症」と言いますが、じつは、実際にはそうではない人がほとんどだったりします。病気の原因に関する診断が間違っていたら、治療方針も適切なものではなくなってしまいます。つまり「誤診」ともいえるでしょう。そしてその診断からの時間経過にともない、結果として変形性膝関節症になってしまう方が多いのです。

もしも今ひざ痛でお悩みのみなさんが治療を行なっていて、6ヵ月経過しても軽快しない場合には、言われた診断と治療方針に疑問を持たれても良いかと思います。

変形性膝関節症でなくても「半月板損傷」「痛風関節症」「ピロリン酸結晶関節炎」「靭帯損傷」「顆部骨壊死症」「ELPS」「リウマチ性関節炎」など数多くの原因があるのです。そして、各々治療方針が異なります。1日で治る病態もありますし、年単位のお付き合いになる病態もあるのです。なかには、注射1発で治せるものもあります。

そのため、まずは正確な診断が必要です。太ることは確かに良い事ではありませんが、痩せなくてはいけないのか? ハイヒールは膝に悪いのか? 答えは「No!」です。肥満体型でも、筋力が維持されていて姿勢良く歩けていれば大丈夫です。「ハイヒールを履く=膝が壊れる」ではありません。ハイヒールを日常的に履くことで、かえって姿勢を良くする筋肉が維持されるケースもあります。

まずは3ヵ月。毎日の歩行は4000~8000歩

レントゲン撮影以外にもMRI検査ならびに血液検査、関節液検査などで診断をすると病気の進行具合(グレード分類)が分かり、治療方針が決まります。

この時点で、自分でやらなくてはいけない事や気をつけなくてはいけない事がはっきりと解ります。われわれ医者はその道しるべを示し、二人三脚でサポートするのが役割です。薬を飲まなくてはいけないのか、注射や手術を必要とするのか、病気のグレードなどによって方針は変わります。それらを自分で理解して、トレーニングなどご自身である程度の努力をする必要があります。

トレーニングは、まずは3ヵ月間頑張りましょう。プロスポーツ選手であっても筋肉量をバルクアップし、それを安定維持させるのに3ヵ月かかります。体幹筋力、骨盤筋、大腿四頭筋を意識的に強化しましょう。毎日の歩行は、万歩計にて4000歩から8000歩を目標に頑張りましょう。

リハビリ投薬で治らない病態の場合にも、諦める必要はありません。そうなれば次のステップとして、外科手術加療があります。

関節外科の治療は日々進化しています。私の担当しているスポーツ選手も、PRPや幹細胞などの再生医療、そして軟骨移植などを施した後に、各分野において非常に秀逸な成績をおさめています。手術療法も内視鏡手術から骨切術、そして人工膝関節など様々な治療法が確立されたことで、高齢の患者様においてもスポーツを楽しめる時代になってきました。各関節外科の治療における術後の状態も、35年以上にものぼり安定することが実証されています。

心臓病や癌治療が進化した今、人生120年時代に突入しました。ひざ痛のために要介護の人生になってしまうのは、精神的にも経済的にも社会的にも損失が大きすぎます。是非あきらめずに地に足をつけて歩み続けましょう。

杉本 和隆

整形外科医

(※写真はイメージです/PIXTA)