殺人や強盗といった事件の報道で、しばしば聞かれる法令用語の一つに「自首」があります。また、意味合いがよく似た用語として「出頭」という言葉が使われることもあります。この両者にはどんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

犯行や犯人が発覚する「前」か、「後」か

Q.まず、「自首」という言葉の意味について教えてください。

佐藤さん「『自首』とは、犯行が発覚したり、犯人が分かったりする前に、犯人が自ら捜査機関に犯罪を行った旨を申し出て、その処分に身を委ねることです。自首について、刑法42条1項は『罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる』と定めています。

自首が成立するためには、犯行または犯人が捜査機関に発覚する“前”であることが必要です。例えば、万引をしたけれど、店主も被害に気付いておらず、警察も犯罪が行われたことを知らない段階で、犯人が自発的に『自分が万引をした』と警察に申告すれば自首が成立します。また、店主が被害に気付き、警察に被害を届け出たものの、警察はまだ犯人が誰であるか突き止めていない段階で、犯人が自発的に『自分が万引をした』と警察に申告した場合にも、自首は成立します。一方、犯人は分かっているものの、どこにいるのかが分からない段階で犯人が名乗り出たとしても、自首とは扱われません。

その他、自首が成立するためには、“自発的であること”も大切です。例えば、(特定の罪を犯した容疑者としてではなく)挙動不審者として警察から職務質問を受けていた犯人が、いろいろと弁解した後で『実は、自分が◯◯という罪を犯した』と自供したケースで、“自発的でない”ことから自首と認められなかった事例もあります」

Q.次に、「出頭」の意味とは。

佐藤さん「『出頭』とは、本人が警察や役所などに出向くことをいいます。刑事事件のニュースなどで使われる『出頭』という言葉は、捜査機関が犯行および容疑者を把握している段階で、容疑者が警察に出向き、自らの罪を認めたことを指していると考えられます。ただし本来、『出頭』は広い意味の言葉であるため、自首のケースも含め、使われていることもあるでしょう。

先述の、『万引犯が誰であるか発覚しているけれど、犯人がどこにいるのか分からない段階で、犯人が自ら名乗り出たケース』は出頭に当たります」

Q.つまり、「自首」「出頭」の違いとは何でしょうか。

佐藤さん「犯行や犯人が発覚する前(自首)か、後(出頭)かの違いがあります。また、効果にも違いがあり、『自首』すると法律に基づき、刑が減軽される可能性がありますが(刑法42条)、『出頭』の場合にはこうした定めがなく、反省を示す情状の一つとして考慮される可能性があるにとどまります。

ちなみに、親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない罪)の犯人が、告訴権者に対して自己の犯罪を告白し、その措置に委ねることを『首服』と呼ぶことがありますが、首服も自首の場合と同様、法律上、刑が減軽される可能性があります(刑法42条2項)。

自首や首服による減軽が適用されると、例えば、無期懲役(禁錮)が7年以上の有期懲役(禁錮)になり、有期懲役刑であれば、長期および短期の2分の1が減じられることになる(刑法68条)など、大きく減軽されることになります。なお、内乱に関する罪など、自首することで刑が免除される特殊な犯罪もあります(刑法80条)」

Q.「自首」後、「出頭」後はそれぞれ、どのような流れになるのでしょうか。

佐藤さん「『自首』や『出頭』すると、一般的には、警察により任意の取り調べを受け、事案によっては、その後逮捕されることもありますし、在宅のまま捜査が進められることもあります。特に『自首』の場合には、警察が犯行や犯人について把握していないうちに、容疑者を名乗る人物が現れ、捜査が始まることになるため、即時に逮捕することはあまりなく、『身代わり(の犯人)ではないか』なども含め、一定の裏付けを取った上で、その後の刑事手続きが進められることが多いでしょう。

刑事裁判になると、先述したように、『自首』した被告は、裁判官によって法律に基づき刑の減軽が認められることがあります。減軽を適用してもらえなかったとしても、自首の事実は、有利な情状として量刑に影響を与えるでしょう。『出頭』の場合は、法律に基づく減軽がなされることはありませんが、有利な情状として考慮され得る点は、『自首』と変わりません」

オトナンサー編集部

「自首」と「出頭」の違いって?