東証一部(プライム市場)上場企業で課長を務める59歳のEさん。7歳年下の妻とのあいだに2人の子供も生まれ、順風満帆な人生のはずでした。しかし、定年直前というタイミングで、自らの「老後破産の危険性」に気づいてしまいました。いったいどこから歯車が狂っていたのでしょうか。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也氏が、Eさんの「4つの問題点」と解決策を解説します。

「あれ、老後資金が足りない…」定年直前にEさんが唖然となったワケ

相談に来られたEさんは定年直前59歳の会社員。東証一部(プライム市場)上場企業に勤務しており、とても真面目で実直な人柄です。

36歳で同じ会社の7歳年下の部下だった女性と結婚。子供も2人授かりました。1人目が生まれたタイミングで奥さんは退職され専業主婦をしていましたが、2人目のお子さんが小学生になったというときにパート勤務を始めました。

現在、お子さんは20歳の大学生と17歳の高校生となり、これから教育費がかさむといったタイミングです。

Eさんが42歳のころ、家族が増え住まいが手狭になってきました。「家賃がもったいない」「子供に財産として残せる」「家を買うなら新築がほしい」などの理由から、親の援助(1,000万円)も手伝って都内近郊に6,200万円のマンションを購入しました。1,000万円を頭金にして、あとは35年ローンを組みました。

その後大きなトラブルもなく現在まで平穏無事に過ごしていましたが、定年直前となったある日、Eさんは気づきました。

「あれ、老後資金が足りない……」

退職金は2,000万円ほどありますが、子供の教育費と下宿代に毎年200万円は必要です。Eさんの会社に再雇用の制度はありますが、いまより収入がガクッと落ちてしまうのは明白です。

住宅ローンは月々14万円ほど支払っていますが残債はまだ2,800万円ほどあり、完済できるのは77歳になる予定です。さらに、奥さんは早いうちから退職しており年金もわずかです(夫婦で月22万円ほど)。

家を買うときに援助してくれた親もまだ健在ですが、今後は介護の不安があり場合によっては施設に入る可能性もあります。Eさんはそのとき、親の介護費用まで援助できるのでしょうか……?

退職金2,000万なのに老後破産の危機…Eさんの「問題点」4つ

今回の相談者Eさんは収入があり家族にも恵まれました。家の購入時には親からの支援もあったにもかかわらず、なぜ老後の資金が不足してしまったのでしょうか?今回のケースにおける問題点を確認してみましょう。

1.住宅ローンの返済について深く考えずに家を購入した 2.仕事が忙しく貯金しかしておらず、資産形成を怠っていた 3.奥さんは扶養の範囲内で働いていたため、年金の受取額が少ない 4.子どもの教育費や定年後のことをイメージできていなかった

4点それぞれの対応策・改善点は以下のようになります。

1. 住宅ローンの返済について深く考えずに家を購入した

→家の購入は「ローンが組める金額」ではなく「無理なく返済できる金額」にする

「なんとなく家が欲しい」という気持ちで不動産会社の展示会や内覧会へ参加すると、『なんとなくよい家があったから』『なんとなく担当者と気が合ったから』という理由で家を買ってしまい、後悔することがあります。

また、不動産会社は住宅購入者が組める住宅ローンの上限いっぱいの物件を勧める傾向があり、そのせいで住宅ローンの返済に苦慮する人も少なくありません。そのため、決して「なんとなく」で購入しないようにしましょう。

2.仕事が忙しく貯金しかしておらず、資産形成を怠っていた

→iDeCo・つみたてNISAを活用する

昔とは違いいまは金利が低いため、預貯金だけではお金は増えません。また、年金の受取額も減っています。

iDeCoやつみたてNISAのように、税制優遇があり、着実にお金を貯めながら増やせる資産形成を行うことで、老後にゆとりをもつことができます。少額からでもよいので、早くから取り組み始めるのがいいでしょう。

3.奥さんは扶養の範囲内で働いていたため、年金の受取額が少ない

→年金受取額を増やすため、奥さんは扶養の範囲内で働かず厚生年金に加入できる働き方をする

扶養の範囲内であれば社会保障費や税金の負担が少なくて済みますが、その分収入も少なく、年金受取額も少なくなってしまいます。子供にかかる時間が減ったタイミングで仕事にしっかり取り組めるのであれば、扶養の範囲を外れて働くことも検討しましょう。

4.子どもの教育費や定年後のことをイメージできていなかった

→人生設計(ライフプランニング)を定期的に実施する

将来のことを見据えて人生設計を考えることは大切です。日々の仕事や子育てに追われてしまいますが、年度初めや誕生日などの機会にライフプランニングをしてみましょう。

また、子供の誕生や家の購入など家計の状況が大きく変わった際は、その都度プランニングすることをおすすめします。ご自身で計画を立てるのが難しければ、ファイナンシャルプランナーなどお金の専門家に相談するのも選択肢の1つです。

Eさんのようにならないために「人生設計」を行い、必要があれば早めの「資産形成」に取り組んでいきましょう。

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役  

(※写真はイメージです/PIXTA)