患者数の減少を受けてマスクの着用基準が緩和されるという動きがでてきました。「やっと息苦しさから解放される!」と喜ぶ人がいる一方で、「マスクしていても口臭が気になるのに、マスクをはずしたら周りの人にクサイと思われそうで怖い」という声も・・・。マスク着用が必須ではなくなる日は確実に近づいています。心置きなくマスクなしで行動するために、東京大学大学院特任准教授で医師・歯科医師の米永一理先生に、正しい口腔メンテナンスについて教えていただきました。

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監修=米永一理 取材・文=轡田早月 編集協力=永坂佳子 写真=PIXTA

長引くマスク生活で、口呼吸の人が増えています

 マスクをしていると、普段よりも自分の口臭が気になりますよね。実は、マスク着用自体も口臭の一因になっているのをご存じでしょうか? 

 理由は、口を開けて呼吸する「口呼吸」。普段は鼻呼吸をしている人でも、マスクをしていると息を吸い込みにくくなるので、無意識に口呼吸になり、口内が乾燥します。「マスクでむしろ乾燥を防げるのでは?」と思わるかもしれませんが、口内は鼻の中の約10倍も面積が広いので、マスク内であっても口呼吸をすれば口内が乾燥してしまうのです。

 通常、健康な人の口内は0.1mmほどの唾液の膜でコーティングされています。けれど、口呼吸によって抗菌作用のある唾液が減ると、悪臭の元となる嫌気性菌が繁殖しやすくなります。それよって口内環境が悪化し、口臭も強くなるので、マスク生活中はいつも以上に入念な口腔ケアが欠かせません。

 

え?そんなことも口臭の原因に!? 口臭セルフチェック

 ただし、マスクをはずせはすべてが解決するというわけではありません。口臭の兆候や原因は意外な所に潜んでいます。たとえばこんな人は、自分が思っている以上に口臭が強めかもしないので注意しましょう。

●砂糖入りコーヒーをよく飲む

 砂糖入りコーヒーを飲むと、口中で嫌気性菌(酸素を嫌う細菌)が口臭の原因になる物質と結びつきやすくなります。食後や喫煙後に口臭を緩和するためにコーヒーを飲むのは、むしろ逆効果になっている可能性も。

テレワーク運動不足ぎみ

 テレワークによって運動量が減ったり、会話が減ったりすると、唾液の分泌物量も低下します。唾液には口臭の原因になる細菌の増殖を抑え、口内環境を健康に保つ抗菌作用があるので、唾液が減れば口内環境が悪化して口臭が強くなります。

●スマホやPCを見ている時間が長い

 唾液には、交感神経が優位になりがちな時に出るネバネバした唾液(粘液性唾液)と、副交感神経が優位な時に出るサラサラした唾液(漿液性唾液)の2種類があります。スマホやPCに長時間触れている時に多く出るのは、ネバネバした粘液性唾液。ネバネバ唾液とサラサラ唾液はそれぞれ果たす役割がありどちらも必要ではあるものの、嫌気性菌を抑えにくいネバネバ唾液が多いと、口臭が強くなりがちです。

歯垢(プラーク)には、大便の約10倍もの細菌が!

 また、歯周病も口臭の原因のひとつです。まだ若いし、毎日歯磨きをしているから大丈夫だと油断してはいけません。厚労省の調査によれば25〜34歳で32.4%、45〜54歳 で49.5%の人が歯周病の疑いがあるという結果が出ています。

 歯周病の特徴は、歯と歯茎の間に歯周ポケットが深くなることです。そこで嫌気性菌が繁殖して、臭いの元になる物質をつくり出します。歯周ポケットのなかは歯ブラシの毛先は入り込むことができないため、「毎日ちゃんと歯を磨いているのに、なんか臭っている・・・」ということになってしまうのです。

 歯周病は口中の細菌が食べかすを分解して歯の表面に歯垢(プラーク)がつくことから始まります。1gの歯垢には、なんと約1000億個もの細菌がいます。これは大便に付いている菌の約10倍。つまり、歯垢がついていると、そこに大便の10倍もの細菌がうようよしているのです。想像するだけでぞっとしますよね。

 

歯周病を放置すると、早く老けてしまう可能性も

 歯周病は“沈黙の病”といわれるように、激しい痛みがあるわけではないので、なかなか気付けません。放っておくと、歯肉が歯周病菌に浸されてどんどん下がり、歯がぐらついて抜け落ちてしまいます。また、細菌が歯周ポケットから血管に入って全身に拡散し、心疾患や糖尿病、認知症などの要因になるともいわれています。

 口臭はもちろんですが、「それほどの歳でもないのに一気に老け込んで見える・・・」ということを避けたければ、若いころから口腔ケアをおろそかにしないようにしましょう。

 ちなみに、歯周病は細菌感染症なので、キスや食器の共有などで家族やパートナーにうつしてしまう可能性もあります。毎日のケアは自分だけのためではなく、愛する人のためでもあるのです。

歯周病菌が入ってくることと、感染することは別です。入って来ても、適切な口腔ケアがされて入れば、基本的に感染することはありません。ここでいう適切な口腔ケアとは、お口の中の汚れを落とし、歯周病菌が育ちやすい嫌気性環境にしないことです。)

 後編では、さわやかな息と清潔な口内を保つためのケア方法をご紹介します。

厚生労働省平成28年歯科疾患実態調査」

 

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  このままではマスクがはずせない!?「口臭」が気になる人の意外な原因とは

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