値上に次ぐ値上げに生活苦…景気の先行き不透明感が増すと、人気が高まる公務員。その安定性が最大の魅力ではありますが、地方公務員はなんとも厳しい環境に置かれているようで……みていきましょう。

平均給与35万円、定年まで勤め上げれば退職金は2,000万円

憧れの職業として「公務員」が上位にランクインすることがあります。たいてい景気の悪い時で、「安定性が魅力」などと、羨望の眼差しが向けられるわけです。

昨今は非正規の公務員など、ひと括りに語れないこともありますが、確かに正規職員であれば民間企業よりは安定した立場であるといえそうです。

総務省令和3年地方公務員給与実態調査』によると、2021年、地方公務員の平均給与は月額35万9,895円。基本的に公務員の給与は民間準拠とされ、その給与は「大企業公務員中小企業」といったところ。団体区分別(一般行政職R3の場合)にみていくと、都道府県平均は36万4,117円*、政令指定都市平均が37万9,190円*、市平均が35万6,877円*、町村平均が32万9,535円*、特別区が37万4,453円*。47都道府県のなかで最も平均給与(手当含む)が高いのは「東京都」で、46万6,174円。一方で最も低いのは「佐賀県」で38万6,814円です。

*平均給与月額(国ベース)。公表されている国家公務員の平均給与月額には手当が組まれておらず、比較のため国家公務員と同じベースで再計算したものも公表している

また公務員の魅力といえば退職金。定年退職金を47都道府県でみてみると、最も高い「愛知県」で2,277万4,000円、最も低い「沖縄県」で2,127万2,000円。昨今は退職金制度のない企業、縮小する企業なども増えていますが、公務員であれば、勤め上げれば大企業並みの退職金が約束されています。

ただ元公務員という人からは、「絶対に地方公務員にはなりたくない(戻りたくない)」という声があふれています。その理由で多く語られるのが、「住民からクレーム」です。

公務員のなかでも地方公務員は住民との距離が近いケースが多く、何かと意見をもらうことが多いでしょう。そのなかには多くの暴言、ときには刑事事件になるような暴力を受けることも珍しくないといいます。

恐ろしい…住民からの理不尽なクレーム&迷惑行為

——(昼休みに)コンビニの前でソフトクリームを食べてますよ

——(喫煙所で)タバコ吸ってますよ

——(窓口で)税金で働いているんだから、早くしろ

——税金で生活しているのだからお前たちは奴隷だな

ネット上にあふれる、地方公務員に向けられた数々のクレーム。なかにはテレビでも取り上げられ、大きな反響を呼んだものも。驚くようなクレームが、公務員だからという理由で向けられることがあります。

自治労『職場における迷惑行為、悪質クレームに関する調査』によると、過去3年間に迷惑行為や悪質クレームを「時々受けている」が42.3%。「日常的に受けている」は3.7%と合わせると、ほぼ半数が迷惑行為や悪質クレームの経験者。さらに「自分はないが、職場で受けた人がいる」人も30.3%に達しています。

とくにクレームが多い職場が「生活保護」で76.9%。「児童相談所」61.4%、「住民票・税金・国民年金・国保」58.4%、「保健所」55.7%と続きます。

自分が受けた行為で最も多いのが「暴言や説教」で34.9%。「担当者の交替や上司との面談の要求」が28.3%、「長時間のクレームや居座り」が27.6%、「複数回に及ぶクレーム」が24.9%、「大声・罵声・脅迫や土下座の強要」が24.1%と続きます。また「暴力行為」は2.4%ですが、「病院の医療関係職」では13.4%、「公共交通の地下鉄」で8.4%、「生活保護の事務・技術職」では8.3%が経験をしています。

調査報告書より、実際の声を聞いてみましょう。

住民票・戸籍・印鑑証明の請求書を記入するところから「いちいち記入させるのか」とクレームが始まり、自分の思うとおりの受け答えをしないと「お前はバカか!」と悪態をつき、証明書を交付する時も小バカにしたような態度でいちいち文句を言われた(戸籍・住民票・印鑑証明)

●税金ドロボーと大声で叫ぶ(戸籍・住民票・印鑑証明)

●滞納処分のため財産を差押えたら電話で今から殺しに行くと言われた(税金・収納)

●市議会議員が住民と一緒に来て、条例上どうにもならない事を「私は市議会議員ですが、何とかして下さい」と言われた(個人番号カード事務センター)

●毎月、「保護費が少ない」「担当者がお前に変わってから保護費が減ったため、着服しているのだろう」「今までで1番最悪なケースワーカーだ、早く担当者を代われ」「名前が気に入らない」などの罵声を面前であびせられる(生活保護

●住民による職員に対する頭突き、居座り、罵声など(児童相談所

●トイレの場所を聞かれ、場所が遠いと暴力を受けた(地下鉄

悪質なクレームや迷惑行為にストレス…休職や退職に追い込まれる公務員

悪質なクレームや迷惑行為。その増減については「あまり変わらない」が半数を占めるものの、「増えた」が17.9%、「減った」が7.9%と、増加が10ポイントほど上回っています。

なぜクレームや迷惑行為が起きるのでしょうか。理由としてあがられることとして、最も多かったのが「不満やストレスのはけ口」で61.1%。「公務サービスへの過剰な期待」が54.1%、「住民のモラル低下」が37.9%、「住民の権利意識の高まり」が37.6%、「公務員や公務労働の軽視」が35.6%と、住民側の落ち度と捉えるものが多数を占める一方で、「煩雑な書類申請や手続きへの不満」が20.6%、「慢性的な職員不足」が13.2%と、組織等に理由あり、と考える人も。

クレームや迷惑行為の対応は、誰もがストレスを感じるもの。実際95%もの人が「強いストレスを感じた」と回答しています。それにより「出勤が憂鬱になった」57.3%、「仕事に集中できなくなった」44.2%、「眠れなくなった」21.6%と、負の影響を受けたとしています。さらに「うつ病統合失調症などになった」「退職した」と、数としては少ないながらも、最悪の事態に追い込まれた人も。職場別に「休職や退職した人がいた」の割合をみていくと、「生活保護」が最も多く40.6%。「児童相談所」35.1%、「公共交通」31.9%と続きます。

景気の先行きが不安定にあるなか、地方公務員の安定性は羨ましいですが、こういう時は悪質なクレームや迷惑行為も増加傾向なのだとか。確かに住民としては「公共サービス」を理由に、不平不満を持ちがち。それが本当に公務員に向けるべきものなのか、一度、冷静に考えたいものです。

(※写真はイメージです/PIXTA)