鈴木俊一財務大臣は2022年11月11日、閣議後の記者会見で、自動車ユーザーが強制加入する「自賠責保険」の保険料の運用益約6,000億円が「一般財源」に貸し付けられている件について、直ちに返済するめどが立っていないことを明らかにしました。埋め合わせのため2023年から自賠責保険の保険料の引き上げが決まっており、鈴木財務大臣が10月に行った「走行距離課税」発言とも相まって、怒りの声が上がっています。

自賠責保険の保険料引き上げは国民に対する「しわ寄せ」か

自賠責保険の保険料は2023年4月から年間最大150円引き上げられることが決まっています。交通事故が著しく増加したわけではないのに保険料が引き上げられるのには、理不尽な理由があります。

自賠責保険の保険料は運用され、その運用益は、「自動車安全特別会計」という財源に組み込まれ、交通事故被害者保護のための施策に充てられることになっています。この「自動車安全特別会計」は交通事故被害者保護の施策に使うための独立の財源であり、「一般財源」とは独立したものとして扱われています。

「自動車安全特別会計」における用途は以下の通りです。被害者保護の増進に資する施策に充てられています。

・自動車事故防止対策

・救急医療体制の整備

・自動車事故被害者対策

・後遺障害認定対策

・医療費支払適正化事業

ところが、税収不足を理由として、1994年1995年に「自動車安全特別会計」から一般財源へ「繰り入れ」という名目で総額約1兆1,200億円の貸し出しが行われました。

貸し出したお金は返してもらわなければなりません。しかし、現在も約6,000億円が返済されていない状態です。

財務省は長らく、国の財政事情が苦しいことを理由に、返済を先送りしてきました。2018年から返済を再開しましたが、返済額は低く、2022年度も、前年度比7億円増額しても54億円にとどまっています。これは借入金総額約6,000億円の1%にも満たない額です。

しかし、そうなると、交通事故被害者保護のための「自動車安全特別会計」が逼迫してしまうことになります。

足りない分は積立金を取り崩すしかありませんが、一般会計から「自動車安全特別会計」への返済額が低いままだと、いずれは積立金を使い尽くしてしまうことになります。

そこで、自賠責保険の保険料に「賦課金」を上乗せして徴収することになったのです。いわば、財務省の失態を国民にしわ寄せするものです。

自動車ユーザーはどこまで搾取し尽くされるのか

鈴木財務大臣は、補正予算で返済額に12.5億円を積み増しする意向を表明しています。しかし、自賠責保険の保険料の増額によりツケを回される形になった自動車ユーザーにとっては、理不尽な負担を押し付けられているといわざるをえません。

しかも、自動車に関する税制のあり方と合わせ、自動車ユーザーに過大な負担を負わせる結果になりかねません。

自動車の税制については、今回の件に先立つ10月20日、鈴木財務大臣が、参議院予算委員会において、EV(電気自動車)について、ガソリン税を徴収できない代わりに走行距離に応じて税金を課する「走行距離課税」導入の可能性について言及したばかりです。

「走行距離課税」の理由として、EVは車体が重いので道路に負担をかけるからということが挙げられますが、それでは「自動車重量税」と趣旨が同じということになってしまい、整合性がとれません。しかも、仮にEVに走行距離課税を導入したら、ガソリン車にも導入するのかという問題が生じます。

そもそも、自動車に関する税制は複雑で、「ガソリン税」「自動車重量税」などは存在意義・正当性に疑問があると指摘されています。また、「ガソリン税」に至っては、税金の上に消費税が上乗せされる「二重課税」の問題も指摘されています。

さらに、「ガソリン税」「自動車重量税」はもともと道路の維持管理・整備のための「道路特定財源」だったのが、2009年に「一般財源」に繰り入れられたという経緯があります。

これら自動車の税制に関する迷走ぶりと、今回の自賠責保険の保険料引き上げの件を全体としてみると、理由・名目は何でもよく、自動車ユーザーを、都合よく搾り取る対象としか見ていないのではないかと疑問を抱かれても仕方ないといえます。

国家というシステムを維持するためのコストとしての税金も、交通事故被害者を救済するための自賠責保険も、本来は、すべての国民、あるいは自動車ユーザーが公平に負担するべきものです。ところが、自動車に関する限り、実際には公平の理念が蔑ろにされているといわざるをえません。政府・国会には、自動車ユーザーに過度の負担を負わせ不当に搾取する結果にならないよう、納得感のある施策を行うことが求められています。

(※画像はイメージです/PIXTA)