◆岸田総理には気迫が感じられない

―― 岸田政権の支持率が下がり続けています。直近の読売新聞世論調査では、内閣発足以降最低の36%となりました。支持率下落の原因はどこにあると思いますか。

村上誠一郎氏(以下、村上) 総理になる人はみな「総理大臣としてこれがやりたい」という政策を持っています。それが政治家としての気迫や、問題に立ち向かっていく姿勢としてあらわれます。しかし、残念ながら現在の岸田総理にはそうした気迫が感じられません。

 日本はいま、財政・金融・外交の立て直し、ロシアウクライナ侵攻によって生じたエネルギー危機や食料危機など、解決すべき課題が山積しています。旧統一教会問題や円安による物価上昇、東京五輪をめぐる汚職問題なども重要です。

 これらの問題をすべて一気に解決することはできませんが、優先順位をつけ、一つ一つきちんと対応していく必要があります。私を含め、多くの人たちが岸田総理にそれを期待していたはずです。

 しかし、統一教会問題一つとっても、岸田政権の対応には確固とした方針が見られず、場当たり的と言わざるを得ません。岸田総理は自民党と旧統一教会との関係を絶つと表明しましたが、旧統一教会の実態を把握せずに関係を絶つことなどできるでしょうか。

 政権の対応が場当たり的になってしまっているのは、一つには、司令塔が存在しないからだと思います。もっと政策に精通した人を官邸に集めなければ、全体を見渡して的確に対応していくことは困難です。

 また、政務調査会や国会対策委員会など、それぞれの機関が政権をサポートする体制になっていないことも問題です。たとえば、旧統一教会との関係を批判されて辞任した山際大志郎前経済再生担当相が、数日後に自民党新型コロナウイルス感染症対策本部長に就任しましたが、この人事が国民感情を逆なでするのは当然でしょう。本来なら党の責任者たちが止めるべきでした。党幹部たちがうまく連携できていないように見えます。

 岸田総理が会長を務める宏池会が長らく政権から遠ざかっていたことも大きいと思います。経験不足によるミスが目立ちます。宏池会池田勇人総理や大平正芳総理が活躍していたころとは違うわけですから、党全体から優秀な人材を集めるべきです。

 もう一つ原因をあげるなら、政権中枢まで国民の声が届かなくなっていることです。かつての自民党は、幹事長や国対委員長などが国民の不満を感じとり、マスコミ報道なども踏まえ、耳の痛い情報を総理に直接伝えていました。しかし、いまはそうした動きがほとんど見られません。第二次安倍政権以降、総理総裁の力が強くなったため、誰もがトップに忖度し、政権に不都合な情報を届けなくなってしまったのです。

インフレの最大の原因はアベノミクス

―― 旧統一教会問題もウクライナ戦争もきわめて重大な問題ですが、国民の最大の関心事は円安によって生じたインフレだと思います。政府・日銀は為替介入を行いましたが、円は一時的に急伸したものの、すぐに介入前の水準に戻ってしまいました。

村上 為替介入をすれば投機筋の動きを抑えて一時的に円安のスピードを鈍化させることはできますが、円安を根本的に解決することはできません。そもそも日本一国だけで為替介入したところで、全世界の市場を動かせるはずがありません。

 円安の最大の原因は、アベノミクスによって日銀が異次元の金融緩和を行い、ゼロ金利政策をダラダラと続けてきたことです。金融緩和はあくまで民間主導の成長軌道が生まれるまでの「繋ぎ」にすぎません。本来なら短期間のうちにやめなければならない政策です。ところが、成長戦略がうまくいかず、いつまでたってもイノベーションが起こらないために、金融緩和をやめるにやめられないのです。

 日本がゼロ金利政策から抜けられない一方、アメリカインフレ対策のために金利を上げているので、日米の金利差はどんどん拡大しています。その結果、円売りドル買いが起こり、円安が生じているのです。円安を抑えるためには金利を上げるしかありませんが、そうすると今度は利払いの増加によって公債費の負担が増えるため、そう簡単に利上げすることもできません。放漫財政のツケが回ってきているのです。

 先般、イギリスのトラス政権が財政の裏付けのない大型減税を打ち出した結果、市場からとがめられ、史上最短の任期で退陣に追い込まれました。それでもイギリスの債務残高は対GDP比で87%ほどです。これに対して、日本は260%を超えています。G7の中で200%を超えているのは日本だけです。

 日本は巨額の外貨建て債権を有しているので、一概にイギリスと比較することはできませんが、わが国の少子高齢化の進展や国際競争力の低下を見れば、イギリスの事例は他人事ではありません。通貨危機に陥る恐れもあります。それによって苦しむのは次の世代の子どもたちです。そうした事態だけは何としても避けなければなりません。

 政治家たちは国民の支持を得るために簡単に財政出動をしてしまいますが、それは間違いです。もちろん円安によって経済的に苦しんでいる人たちへの支援は必要ですが、本当に困っている人を直接助けることが必要です。安易なバラマキはすぐにやめなければなりません。

◆重要なのは外交努力

―― 国際社会に目を向けると、米中対立が深刻化しています。台湾をめぐって軍事衝突が起これば、日本は否応なく巻き込まれることになります。

村上 私は中国がロシアのように何の見通しもなく台湾に軍事侵攻するとは思っていませんが、問題はアメリカが中国を刺激した場合です。8月にアメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問しましたが、あのような対応を続ければ、売り言葉に買い言葉で、中国が強い対応に出る可能性がまったくないとは言い切れません。

 米中間で軍事衝突が起こった場合、台湾には米軍基地はないので、米軍は沖縄や岩国から出ていくことになります。そうなれば、日本は安倍政権のころに解釈改憲によって集団的自衛権を認めてしまったので、あっという間に戦争に巻き込まれてしまいます。こうなることを予想していたので、私は解釈改憲に反対していたのです。

 しかし、いま日本に必要なのは、台湾有事が起きたらどうするかを考えることではなく、台湾有事が起こらないように必死の努力をすることです。それを行わないで防衛費を倍にしろとか敵基地攻撃能力を保持するなどというのは本末転倒です。

 安全保障の要諦は敵を減らして味方を増やすことです。敵を増やすことばかりならば、いくら防衛費を増やしても間に合いません。

 敵を減らす上で最も有効なのは、やはり外交努力です。外交によって相手が戦争に踏み切ろうとする動機を摘みとっていくことが大切です。

 そもそも安全保障が重要だと言うなら、食料安全保障にもっと目を向けるべきでしょう。日本の食料自給率は38%ほどで、ほとんど輸入に頼っています。ロシアウクライナ侵攻以降、国際社会では食料の争奪戦が起こっています。日本はすでに中国に買い負けており、このままではお金があっても食料を買えなくなるかもしれません。いくら防衛費を増やしたところで、国民が飢えていれば戦争どころではありません。

 日本はアメリカと安保条約を結んでいるため、どうしてもアメリカの影響を受けてしまいます。しかし、アメリカに追従しているだけでは、日本の安全を確保することはできません。現在の米中対立の中で日本が主体的に考える時期にきているのではないでしょうか。

◆自由闊達な議論を取り戻す

―― 日本は危機的状況に置かれています。ここから立ち直るためにはどうすればいいでしょうか。

村上 まずは優秀な人材を政界に集めることです。それぞれの地域社会には前途有為な人たちがいますから、彼らを育てていく必要があります。

 そのためには、政治のあり方を変えなければなりません。小選挙区制の導入によって党中枢に権力が集中するようになったことで、ときの為政者に忖度する人たちばかりが出世するような構造になってしまいました。これでは優秀な人たちは馬鹿らしくて政界に来ないでしょう。

 行政の立て直しも急務です。先日、国交省の役人に聞いたところ、東大から国交省に来た新人は一人しかいなかったそうです。農水省に至ってはゼロだそうです。若い人たちは官僚という仕事に魅力を感じず、弁護士や外資系企業に就職してしまっているようです。

 現在の官僚機構は内閣人事局がつくられたことで、みんな官邸の顔色をうかがうようになり、自由闊達な雰囲気が失われてしまいました。しかも、薄給のうえ毎日深夜まで仕事があるとなれば、誰も官僚になりたがらないでしょう。内閣人事局を見直し、公務員の待遇を改善する必要があります。

 何よりも重要なのは、自由闊達な議論を取り戻すことです。自由な議論が許されなければ、民主主義は機能しません。昨今では民主主義国家でも機能不全に陥っている国もあります。アメリカではトランプ大統領のように分断を煽る人が依然として大きな影響力を持っています。これでは対話や協調が失われるのは当然です。

 私がこの10年間あえて党内で正論と思うことを言ってきたのは、民主主義を守りたいからです。今後も間違っていることは間違っていると指摘し、党内の民主主義を回復させたいと思っています。

―― 村上さんに期待している人は少なくないと思います。ぜひ政治や行政を変えてください。

村上 私は小選挙区制導入にも反対し、すべてのマスコミから「守旧派」「抵抗勢力」と批判されましたが、それでも愛媛2区の有権者たちは私を当選させてくれました。いまも全国からたくさんの人たちが私を支えてくれています。本当にありがたいことです。おかげさまで意気軒昂です。

 しかし、政治や行政の改革は1人で取り組んでもうまくいきません。「天の時、地の利、人の和」という言葉がありますが、多くの人たちが共感し、しかるべきタイミングが来たときに初めて成し遂げられるものだと思います。

 そのためには、まずは国民のみなさんに日本の現状を理解してもらわなければなりません。それに向けた努力を今後も続けていきたいと思います。
11月9日 聞き手・構成 中村友哉)

初出:月刊日本12月号

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