コロナ禍、収入の面でもし不安があるなら、塾なし受験のメリットは大きいと考えられます。お金と時間が節約できて、子どもが成長もする。これなら「やらないという選択肢はない」のではないでしょうか。塾なしで長男を志望校に入学させた塚松美穂氏の著書『「塾なし」高校受験のススメ』(プレジデント社)で解説します。

入試結果開示で分かった60点アップ

高校入学後、学校に個別に請求をすれば入試結果を開示してくれる制度があります。わが家では、その制度を利用し、入試結果を知りました。息子の「国数英3教科」の結果は、初めて国立高校の過去問に挑戦した中3の9月に比べると、5カ月で60点アップしていました。

過去問を始めたときは、あまりに点数が取れず、明るく励ました記憶があります。中3の2学期初めでもまだそのような状況でしたが、3月2日・合格発表の日、息子は合格。小雨の中、掲示されていた自分の受験番号を見つけたとき、息子は本当にいい笑顔をしていました。

塾なし受験をやってみて、自ら考え勉強する習慣を身につけられたことが一番大きな収穫でした。高校生になった今も、自分で計画的に考えて勉強する習慣が身についています。

「塾でしか勉強をしてこなかった生徒は高校に入って伸びにくい」

これは、実際に高校の先生から聞く話です。高校から大学へと学びが続いていく中で、主体的に考えて自ら学べる生徒にならなければ、学力は伸びないということです。

小学校で習わせてよかったと思う習い事は、「珠算(ソロバン)・暗算」です。息子が珠算を始めたのは小学3年生で、早いほうではありませんでした。その頃すでに、本人は野球にばかり熱心だったので、先々の世界が狭くなるのではないかと気になっていました。

ソロバンは向いていると直感していたので、まず1カ月体験することを勧めました。本人は、最初あまり乗り気ではありませんでしたが、徐々に面白さがわかり始めると、以降はいやがることなく中1の夏まで続けました。

中1夏の昇段試験に合格するまで、ソロバンは週2回、通いました。関東大会に出場した経験もあり、暗算は三段をもっています。珠算を通して、よかったと思うことのひとつは、集中力がついたことです。時間内に集中して問題を解く鍛錬を繰り返すことで、圧倒的に集中力がつきました。

さらに、競技会や昇段試験を経験したことで、緊張の中、本番で実力を出すことの難しさも何度か体験していました。これらは、受験勉強や受験自体に必要なことなので、鍛えておいて損はなかったように思います。

また、暗算を特技にできたことは、数学の勉強には有利だったと思います。計算することにあまり時間をかけずに済むので、時間配分に少しプラスに働いたことでしょう。暗算は、仕事や生活の中で大人になっても役立つ「生きる力」のひとつ。ソロバンの上達以上に、暗算力・集中力がつくという面でおすすめの習い事です。

息子は、幼い頃から残りのほとんどの時間を大好きな野球に使っていましたから、読書や観察などに時間を費やすことは、ほとんどありませんでした。受験勉強を始めたときの国語の力不足は、そこに起因したのではと推測します。今もまだ、国語は苦手意識があるようです。

反対に、小学6年の長女は、読書好き。よく本や新聞を読んでいるので、自然と国語の力がついてきています。国語力は、日本語の力。母国語なので、育つ環境に左右されると感じます。娘は、普段から大人である私たち夫婦や5歳違いの兄と話すので、自然と大人びた会話に交じって難しい言葉を聞き、意味がわからないと質問する。どんどん語彙力も豊かになっていくのでしょう。

「塾なし」受験は時間とお金が節約できる

私はよく新聞の気になるニュースを子どもたちに見せ、読むように勧めています。内容は、子どもたちの気になりそうな面白いこと、身近に感じるニュースなどをチョイスして、「面白いニュースがあるよ」と伝えます。新聞を面白いものと認識し、興味がわけばしめたものですね。長男とは、彼が好きなスポーツの話題が多く、動物が好きな妹とは自然環境や生き物の話題が中心です。

娘は好きなものが多く、いろいろなことに関心を持っていて、バランスよく成長していると感じます。本人が「どうしてもやりたいこと」を見つけるまで、特に、習い事の必要性をあまり感じていません。

親として、得意なことを突き詰めて伸ばすか、さまざまな世界を体験させるか、判断は難しいところですね。けれど、子ども自身がこれという何かを見つけないうちに、いくつもの習い事を掛け持ちさせることには、少し疑問を感じています。

「たくさんの経験をさせてあげたい、可能性を広げてあげたい」と思う親心は理解できますが、その思いが、子どもへの押しつけにならないようにあってほしいと思います。

今の小学生は、たくさん習い事をしていて、忙しい毎日を送っている子がいます。時間と体力が限られている中で、塾に通って勉強もしなければならず、疲れている子もいることでしょう。

これから何をやりたいのか、どんな大人になっていくのか、未知数の小学生にとって、忙しすぎる日々は、多感な子どもの成長を時に阻害することにもなりかねません。日々の暮らしから、他人との関わりやコミュニケーションを学べます。家族との時間や読書などを通して、物事をゆっくり考えたり、会話を楽しむことはとても有意義だと思います。

子どもの習い事は、好きなことや得意なことを、ひとつか、多くても二つやっているくらいがベストだと思います。周りと同じような型にはめなくても、親の心がけ、声がけ、育て方次第で、子どもは健やかに成長し、知性も人間力も伸ばせるのではないでしょうか。

特に、塾や英会話など、教育系の習い事は、高学年になると月謝が高くなり、気がつけば家計を圧迫している状況もしばしばです。それでも、塾の場合は、子どもの成績に結びついていることなので、家計を理由にやめさせることを悩んでしまう方も多いでしょう。

「塾なし」受験のメリットは、時間とお金が節約できること。 「塾なし」受験の隠れメリットは、子どもが学ぶ力を身につけ成長すること。家族の絆が強まること。

これらが、塾なし受験の大きなポイント。現実的に家計の負担が気になる場合は、自宅学習ができる環境を整えて、通塾ではなくてもオンライン学習や通信教材を取り入れてみるといいでしょう。高校生になったあとも自宅学習は続いていくのです。

塾なし受験は「勉強習慣」という点で、通塾以上の効果が期待できる。

塾なしでも第一志望合格が目指せる

我が家で最後まで検討事項に上がったことは、夏期講習や冬期講習にいくかどうかでした。休暇中はまとまった時間をとることができるからです。通塾しないにせよ、受験生らしく休暇中はライバルと並んで机に向かって刺激を受けるほうがいいのでは、などと考えました。

周りと違うことをしていると、時々、不安な気持ちになるものです。最後の冬期講習の申し込み期限が迫り、本人がどうしようかなと迷っていたので、担任の先生に相談もしましたが、先生の答えは、「今まで自分でできているのだから」と、どちらかというと否定的な回答でした。

すでに自宅学習のペースを確立していると、その計画を進めなければならず、逆に、塾の講習に時間を割くことが難しい状況でもありました。時間がないというよりは、やるべきこと・やりたいことが、はっきりと見えていたので、短期講習を受講すれば、恐らくペースが乱れ、自分の計画が狂ってしまうだろうと感じていたようです。最終的に、「いかないで最後まで自分でやる」と息子自身が決めました。

安くない講習代金を払い、自分の計画を乱してまで講習を受けることに価値があるか、さらに、ポッと単発で入れた短期講習がどれほど受験に役立つのか、家族で検討した結果でした。こうして、息子は夏期講習も冬期講習も、一度も受講することはありませんでした。こういった季節講習費は安いものではありませんので、経済的にはずいぶん違います。

自分たちの塾なし受験計画を信じて、最後まで戦い抜きました。

結局のところ、「自分のペースで受験勉強を進められる」ことは、効率的で最も大きな強みでした。自宅と塾の往復にかかる時間や、集団学習のペースに乱されることなく、自分に必要な勉強を自宅で勉強すれば、気分転換の時間も隙間に作れます。うまくペース配分をしながら、息子は入試日を迎えられました。

塾なし受験をやってよかったと、心から思います。

東京に住んで、もうすぐ30年になりますが、私は地方の出身で、地方出身者から見る東京(首都圏)の私立学校の状況は特別です。私たち夫婦が地方出身だったから、都会の受験競争を過度に感じ、不必要な競争をすることよりも、家族で塾なし受験を選んだのかもしれません。

もうひとつ、我が家の子どもたちによい影響与えているのが「旅」だと思います。遠くでなくても近場でも、観光地であってもそうでなくても、都会でも田舎でも、日常とは違う土地で時間を過ごす中に、たくさんの学びがあります。習い事にお金を払う以上に、時々旅を経験させること、これは本当によい教育だと感じます。

旅先は両家の実家への帰省や、その近辺になることが多いですが、例えば、受験の気分転換にと、中3の秋の3連休も、長野旅行に出かけました。息子は、受験生らしく、夜、宿では参考書を開いて勉強を始め、隙間時間に単語や漢字を覚えるなどして、旅の途中も自発的にうまく時間を使って勉強していました。

オンとオフの切り替えができるのは、仕事をしていると必要な要素でとても大切なことだと感じています。自己管理ができるのは、大人になったときの強みです。

塾代がかからないこともあり、お金を子どものためにどう使おうか、夫婦で一致したのは海外旅行でした。息子が中2の冬休み、「受験生になる前に行っておこう」と、家族でオーストラリアを旅行しました。シドニーとアデレードを起点に2週間の滞在。新型コロナウイルスの影響で海外への旅行が難しくなった今となっては、思い切って行っておいてよかったと感じています。

子どもたちは初めての海外で新しい発見・体験をし、たくさんの刺激を受けました。オーストラリアでの滞在から、息子はますます英語が好きになったようです。

「旅をする」体験は、子どもの将来に必ずプラスになると思います。家族の思い出もたくさんできます。国内でも海外でも、どこでもいいです。コロナの収束後、自由に動けるようになったら、ぜひ家族旅行に行く計画を立ててほしいです。家族で旅行ができるのは、本当に限られた時期だけ。高校生になった息子はもう難しいかもしれませんが、小6の娘を連れてまた旅に出たいと思います。

コロナ禍、収入の面でもし不安があるなら、塾なし受験のメリットは大きいと思います。お金と時間が節約できて、子どもが成長もする。これなら「やらないという選択肢はないのでは?」と思います。

私たちのような考え方はメジャーではないかもしれませんが、高校入試は、実はゴールでもなんでもなく、未来への通過点にすぎません。ともすれば、周りと違う選択をする「勇気」を出してやってみるのもアリではないでしょうか。

「塾なしでも第一志望合格が目指せる」とわかっていただけたなら幸いです。あとは、どう進めていくかという「方法」を参考にしていただいて、ご家族それぞれの「塾なし受験プロジェクト」を進めていってほしいと思います。

塚松美穂 ライター・教育アドバイザー 学習支援コーディネーター

(※画像はイメージです/PIXTA)