「今回はとても残念な結果に終わった。フェイルセーフは絶対必要。これがダメならこれと作っておかなければ。動かないからといってパソコンを再起動するとは一体何事か、と言いたくなる。そんなことでは組込みソフトは作れない」。ロボコンの実行委員長が総評で声を荒らげ参加者に苦言を呈す場面があった。11月17日に開催されたETロボコン2022 チャンピオンシップ大会での一コマだ。

画像付きの記事はこちら



 今回で21回目を迎えたETロボコン。大きな目的は組み込みソフトのエンジニア育成だ。同じロボット筐体(走行体)を使い、決められたコースを自律走行させタイムを争う。ロボコンとはいえ、勝負のカギはプログラミング。さらに、プログラムの設計図ともいえる「モデル」も審査の対象とされ、競技の結果と総合して順位が決まる、とてもユニークなコンテストだ。

 コロナ禍で、多くのコンテストが中止やオンライン開催を余儀なくされた。ETロボコンも同様、前回、前々回と2回続けてシミュレータを使ったオンライン開催に変更した。今年は3年ぶりにリアル開催を実現させたものの、ゴールできなかったり、スタートすらできなかったりするチームも多発。ほろ苦い結果に終わった。それが冒頭に紹介した、ETロボコン実行委員会の星光行 本部・実行委員長が発した閉会式での言葉につながった。

 残念な結果に終わった理由はいくつかある。リアル開催が2年連続でできなかったこと。会場がパシフィコ横浜の会議棟から展示ホールに変更されたこと。会場変更に伴って、会場の照明が蛍光灯からLED照明に変わったこと。展示ホールで開催されていた「EdgeTech+ 2022」の一角に設けた特設ステージでの開催だった。このため例年より人の往来が多く、Wi-Fiの混線などが生じ走行体とPCの接続が難しい場面があったことなどなど。

 特に影響が大きかったのが照明。走行体は、ビデオカメラやカラーセンサー、超音波センサーを頼りにコースを走り、与えられたタスクを実行する。環境の変化があれば、それに対応しなければ好成績は得られない。「照明はものすごく影響するので、事前にLEDになると伝えていた。もう少しLED照明を研究してほしかった」と星 実行委員長は語る。人間の目には大差なくても、各種センサーには照明の変更は大きな変化だった、というわけだ。

 困難を乗り越え、アドバンストクラスの総合優勝を勝ち取ったのは、福岡県福岡市 麻生情報ビジネス専門学校 電子システム科のチーム「累とゆかいな仲間たち」。競技部門ではBest 3に入れなかったものの、モデル部門ではエクセレントモデルを獲得し「モデル」の品質が高く評価された。プライマリークラス競技部門の優勝は福岡県福岡市 九州産業大学工学部 情報科学科の「KERT-B3」。今年はいずれも福岡勢が好成績を収めた。

 人との接触を断たれ、様々なものがネットを介したやり取りに取って代わったこの3年。オンライン会議やシミュレーションが、欠落したものを十分代替したように思えた。しかし現実の世界はそう甘いものではない、ということも逆に分かってきた。現実の世界と正面から向き合いながら、テクノロジーの恩恵をどう取り入れて生かしていくか。いわゆるニューノーマル世界の構築はそこから始まるのだろう。現物の走行体を実際に走らせて戦うETロボコンが教えてくれた。(BCN・道越一郎)

現物の世界は甘くない。走行体が教えてくれた